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ラ・リーガ

【コラム】ジローナ、バルセロナファンだらけの町に生まれた誇りのサッカークラブ…カタルーニャ語を覚えたマドリード出身監督が奇跡を起こす

江間慎一郎
【コラム】ジローナ、バルセロナファンだらけの町に生まれた誇りのサッカークラブ…カタルーニャ語を覚えたマドリード出身監督が奇跡を起こすGetty Images
【欧州・海外サッカーコラム】奇跡の軌跡を描く、ジローナの物語。

バルセロナから北に100キロの距離にある町ジローナ。2021年7月、ミチェル・サンチェスが同名のフットボールクラブを率いるためにやって来たとき、町は失意の底に沈んでいた。

当時のジローナFCは2年連続でリーガ1部昇格プレーオフで敗退したばかり。クラブとそのサポーターは2017~18年のように再びスペイン最高のカテゴリーでプレーすることを夢見ていたが、その夢はまたも打ち砕かれている。

しかし、それでもこの町のクラブとサポーターはあきらめなかった。そして、私たちをもう一度立ち上がらせてくれた監督こそが、スペイン首都からやって来たミチェルだったのだ。

情熱の指導者とともにあるジローナFCはそれから現在まで、ただ夢見るだけの日々を越えて、生涯忘れることのできない、かけがえのない瞬間を過ごしている。フットボールは奇跡を起こすスポーツと言われるが、その奇跡が私たちの町で起こったのだった。

■ジローナという町、クラブ

montilivi-girona-liga-20240210ジローナはあの有名なコスタ・ブラバの海岸とピレネー山脈の間にあるカタルーニャ州ジローナ県の県都で、その人口は10万人ほど。これまではロードサイクルの選手たちの生活と練習の拠点として、何より世界最高クラスのレストランが点在する町として知られていた。その一方でフットボールはというと……、ジローナの住民は我が町のクラブにずっと愛を注いできたわけではなかった。私を含めた熱狂的なファンはともかく、ジローナFCは多くの人々にとって関心の対象になり得なかったのだ。Getty Images

中心街から離れたところにあるジローナFCの本拠地モンティリビは、ここの住民にとってはプロでもないチームが黒星ばかり生んでいる、ただひたすらに“寒い”セメントの塊でしかなかった。ジローナのスポーツは、元NBA選手マルク・ガソルが創設したバスケットチームの方が有名で、もちろんフットボールだって絶大な人気を誇っていたが、大多数が追いかけていたのはバルセロナ、ひいてはカタルーニャの象徴であり、現在はグローバリズムに則って世界中にファンを抱えるFCバルセロナだった。

だが2008年6月15日、そうした状況に変化が訪れる。あの日から、すべてが始まったのだ。ジローナFCは1959年以来となるリーガ2部昇格のチャンスを手にし、何千人の住民からその存在を見つけられた。まだ設備の整っていないモンティリビで、人々は芝生の香りを嗅ぎ、ボールを蹴る音を聞く原始のフットボール体験をしながら、2部昇格をかけたセウタ戦を見守っている。ジローナFCはDFミゲのゴールによって1-0の勝利を果たし、ついにセミプロリーグの壁を打ち破って、プロリーグのクラブになったのである。

■2017年、クラブ史上初の1部昇格

プレー面でもスタジアム整備などのインフラ面でも、ジローナFCにとってプロレベルへの適応は簡単ではなかったが、それでもクラブは成長を遂げていった(最大の助力はもちろん、2017年にシティ・フットボール・グループがクラブの株式47%を取得したことだ)。ただしその道程は険しく、残酷でもあった。私たちは2013年、2015年、2016年と立て続けに1部昇格プレーオフに臨んだが、そのすべてで最後には悲しみの涙を流している。

いつも待ち受けるのは残酷な結末……。それはまるで、私たちが栄光をつかむのに値するのかどうかを試しているかのようだった。そう、フットボールクラブへの愛が試されるのは勝ったときではない。負けたとき、たとえどれだけの悲しみと失望が襲ってきても、クラブを支え続えけられるかどうか、なのだ。

ジローナFCは2017年、ついにクラブ史上初のリーガ1部昇格を決めた。彼らを粘り強く応援してきた古参ファンも、彼らのプロリーグ復帰をきっかけに応援を始め、そこから忠誠を誓ったファンも喜びの涙を流して抱き合い、スペイン最高峰の舞台に到達したことを祝っている。こうしてこの町のフットボール文化は潮目を迎えた。ジローナの若者にとって、この町にプロクラブがあること、彼らを応援することはごく当たり前の行為となったのである。

■“ミチェル効果”

Michel-girona-liga-20240210話を冒頭の2021年に戻そう。2シーズンを1部で過ごした後、一度2部に落ちてしまったチームの手綱を握った男こそが、ミチェルである。ラージョ・バジェカーノの伝説的選手であり、監督としてラージョ、ウエスカ(彼が率いたチームではFW岡崎慎司もプレー)を1部昇格に導いた彼だが、これまで1部残留という目標を一度も達成したことがなかった。彼はジローナで三度1部昇格を達成し、“所詮は2部止まりの監督”というレッテルを剥がすことを求めていたのだった。Getty Images

2021-22シーズン、ミチェルは自身の信条であり、今現在まで貫き続ける攻撃的なフットボールを恐れることなく展開した。だが、そうした洗練されたスタイルは、荒れたピッチで肉弾戦が繰り広げられる2部リーグとやはり相性が悪い……。ジローナFCはシーズン序盤は1部復帰ではなく、3部降格へと近づいていった。

しかし、それでもクラブ首脳陣とサポーターはミチェルの率いるチームを支持していた。どんなに苦しくても、最後まで支えることが成功へとつながる……そんな経験則があったことも理由の一つだったが、何よりミチェルの指導する選手たちから伝わる確信や情熱が凄まじかったのだ。

「プレースタイルは自分が好きなものを選べばいい。だがプレーからはエネルギーが感じられなくては。私が監督としていつも求めるのは、それなんだよ」

「ファンが自チームを批判するのは、そこに情熱があるかどうかを感じ取るからだ。私の妻はいつも自分の後ろの席で試合を観戦しているが、『今日はエネルギーが感じられなかったわ』と口にすることがある。つまり、人々のためにプレーするというのは、情熱をスタンドやテレビに伝えるということなんだよ。それこそが勝利や敗北を超えたところにあるものだ」

情熱を伝え続けたミチェルのジローナFCは、その後に急激な上昇曲線を描いて1部昇格プレーオフに出場。プレーオフでテネリフェを下して、1部復帰を果たしている。

ミチェルのファンからの人気は絶大なものとなったが、それは彼が英雄というだけでなく、“私たちの一人”でもあったからだった。

カタルーニャはご存知の通り独立意識が強い、独自の文化を有してる地域だが、一応はスペインの一部なので誰もがスペイン語を理解して、話すことができる。だからスペイン首都出身のミチェルはスペイン語で話をすれば何も問題ないのが、それでも彼はわざわざ私たちの言語、カタルーニャ語を学んでくれたのだ。チャビ・エルナンデスやジョゼップ・グアルディオラなどのカタルーニャ出身指揮官が、会見で最初にカタルーニャ語の質問を受け、同じくカタルーニャ語で返答することから分かるように、私たちにとってこの言語は本当に大切なものだ。そしてミチェルは自身がスペイン語話者であることに甘えず、私たちの言語でやり取りする気遣いをみせてくれたのである。

「私がこういう人間であるのは、移民も多く住んでいる開かれた労働地域、バジェカス出身だからなのかもしれないね。しかし、(言語の習得は)誰もがすべきことじゃないだろうか。例えばイギリスに赴いて、自分が幸せだと感じられるならば、その場所にもっと溶け込むために英語を覚えるだろう? さらなる幸せを感じるためにも、 アイデンティティーや気持ちを共有するためにも、その土地の人々とはちゃんと向き合った方がいい。対話は絶対に必要だし、私はご近所さんとの付き合いも大事にしている」

ミチェルは、ジローナの人々の心を完全につかんだ。モンティリビでは毎試合、「カタラ(カタルーニャ人)、ミチェル!」というチャントが歌われている。

■夢の中

2023-12-19-gironaさて、私たちが真の“ミチェル効果”を思い知ったのは、1部に昇格してからのことだった。10位で残留を果たした昨季も素晴らしかったが、今季に起こっていることは……どうかしている。期待のはるか上を行っている。シーズン後半戦に入っても、リーガ1部の最も高い場所でレアル・マドリーと優勝を争い続けているなど……これは本当に現実なのだろうか? 私たちは2008年には、49年ぶりの2部昇格を目指していたクラブだったのに。(C)Getty Images

ジローナFCが躍進を遂げた理由? 最大の要因は、ミチェルが危機の中に活路を見出したことだろう。ジローナFCは昨夏の移籍市場で、チームの絶対的な軸であるオリオル・ロメウをバルセロナに奪われた。だがしかし、ミチェルはフットボール界の弱肉強食の掟にもめげることなく、新たなプレーシステムを発明している。ゲームメイクもできる左サイドバックのミゲル・グティエレスを中央に寄せることで、ミゲルとアレイクス・ガルシア(彼がスペースある方に出すサイドチェンジはチームの生命線)の“偽”2ボランチシステムを確立したのだ。

ミチェルは以前、「1部と2部の際たる違いは決定力だ。1部のFWは数少ないチャンスを物にしてしまう。だから攻撃的スタイルを貫いて反撃を受けるのがこわいんだ。ボールを奪われたときを考え、もっと適切なポジショニングを意識して攻撃しなければ」と語っていたが、ミゲルが中央寄りのレーンでプレーすることによって、ジローナFCのボールを失った後のプレッシングは改善され、中央の守りはより堅くなった。彼の実践する迫力ある攻撃的フットボールとそれを補う守備の均衡(ハイプレスと撤退守備の判断も格段に良くなっている)は、おそらく今季が最も取れている。ジローナは最重要選手の一人だったロメウを手放し、さらなる工夫を施したことで、より強くなったのだった。

加えてミゲルの大外を走らず中央に入る(前まで駆け抜けることも)動きは、今季加入したサビーニョとの相性も抜群だ。ミゲルが中央で相手選手たちを引き寄せることで、ブラジルの新たな“怪物”は左サイドで相手DFと1対1の状況を享受し、テクニカルかつスピーディーな脅威のドリブル突破で守備網に風穴を開ける。また攻撃陣で言えば、戦火に包まれるウクライナを離れて加わった右ウィングのツィガンコフ、1トップのドフビクの存在感も際立つ。とりわけドフビクはまさに全能のFWで、空中戦に強く、足元がうまく、今季ここまで14得点と抜群の決定力を誇り、ポストプレーもこなし、ツィガンコフやヤンヘル&イバン・マルティンの両インサイドハーフが飛び出すためのスペースメイクも行っている。

彼らのほかにも、引退の場所を求めて加入したわけではないことを証明している屈強なCBデイリー・ブリント、FCバルセロナを離れて落ち着ける環境を手にしたエリック・ガルシア、ナイフのような切れ味のオーバーラップを見せる右サイドバックのヤン・コウト、クラブ在籍7シーズン目で降格と昇格の涙の味を知る男セバスティアン・ストゥアニ……と、今季の私たちは数多くの選手たちに魅了されている。そんな彼らの連動を、何よりも胸を熱くする圧倒的な情熱を生み出している男こそが、ミチェルなのである。

「ジローナFCは勇敢なチームだって? それは少し違うね。私たちはよく働くチームなんだ。連動する理由が“勇敢だから”だとしたら、チームとして損害を被ることになる。私は選手たちにできないことは求めない。限界を決めるのは選手たちなんだよ。私は彼らのパフォーマンスを限界のところまで引き出すが、勇敢を言い訳にして限界以上を求めることはない」

「いずれにしても、私がフットボールに求めるのは、それをまっとうにプレーをすることだ。そのために選手たちには限界のプレーを、そのプレーを引き出す情熱を、情熱の根源となる魂を求めるんだよ。私はこれまで何度も壁にぶつかってきたが、そうやって打ち破ってきたんだ」

■我が町のクラブを愛するということ

Girona-aficionados-20240210この町の若者がジローナFCを応援することは、ごく当たり前の行為となった--私は先にそう記したが、今なおジローナでFCバルセロナが絶大な人気と影響力を持っていることだって、否定はしない。若い子たちが常勝軍団に惹かれるのは当然のことだろう(今が本当に常勝軍団かはさておいて……)。だが、それでも今のジローナFCにはジローナFCだけの魅力があり、赤白のユニフォームを着てモンティリビにやって来る若者や子供たちは確実に増えている。このスタジアムの収容人数はたった1万4000人だが、ほかのスタジアムにはない歓喜と誇りに包まれている。Getty Images

……次の試合の舞台、マドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナベウの収容人数は8万4000人? そんな差がどうだって言うんだ。私たちは選手たちを近くで応援することのできる、せせこましいスタジアムが誇らしく、愛らしい。そして、たとえ次の首位決戦で敗れようとも、ミチェル率いるジローナがクラブ史上最高のシーズンを過ごしていることは変わらない。

ビッグクラブのファンの諸君は自分たちが負けたとき、「格下に負けるんじゃない」と、どうぞ悪態をつけばいい。私たちはマドリーとの試合がどんな結果になっても、次のモンティリビの一戦でマフラーを掲げ、声を張り上げるだけだ。

カタルーニャ語を話すマドリー出身監督と彼の率いる選手たちは少なくとも、胸を打つ情熱だけは約束してくれている。

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