久保建英はスペインでも日本でも、絶えず観察の対象であり続けてきた。バルセロナの下部組織出身で、その後レアル・マドリーにも入団したという事実は、彼を手厳しい批評を集めるマシーンとしてしまったのだ。
この記事が掲載される場所でも、信奉者と中傷者が入り乱れてコメントなど書き込んできたのではないだろうか。
彼はワールドクラスのスター選手なのか、それとも良い選手止まりなのか?
欧州トップクラスのクラブに到達できるだけのクオリティーはあるのか?
結局イエスかノー、どっちなんだ?
そのような問いかけについて、2021-22シーズンまでは否定的な意見が多かったように思うが、しかしながら昨季レアル・ソシエダに加入してから流れは変わった。
久保建英という選手は、明らかにイエスだ。彼は今季、いよいよスターダムにのし上がろうとしているのだ。
■久保の進化
久保の輝かしい未来は、これまでの努力と成長の日々から地続きに存在している。彼はマジョルカとヘタフェで守備の仕方を学び、ビジャレアルではすべてがうまくいったわけではなかったもののプレー判断の重要性を心に刻み、そしてフットボール的アイデンティティーを通わせるソシエダでついにブレイクの時を迎えた。久保はソシエダのようなフットボールを実践するチームを必要としていたし、ソシエダは自分たちが実践するようなフットボールをその身に内在している久保を必要としていたのだ。
イマノル・アルグアシル率いるチームで、久保は狭いスペースでの連係、ドリブル突破といった本来の長所や、過去のチームで学んだことだけを示したわけではない。フットボールというゲームへの理解力、ポリバレント性、守備にも奔走するなど常に努力を惜しまない姿勢、オフ・ザ・ボールの動き、そして決定力……。彼は様々な面で成長を見せて、個人としてもチームの一人としても本当に貴重な存在となった。
ソシエダの久保は一つの選択肢だけに固執していない。例えばパスを受けるとき、以前ならばDFとMFのライン間でボールを引き出すことに固執していたが、今はDFラインの背後を狙ったりマークにつく相手が探知しづらいスペースに位置したりするようになった。状況に応じてどう動き、どうボールを受け、どうプレーするかという最適解を常に考えている現在の久保は、うまくて、ダイナミックで、何よりも効果的だ。
■勝負のシーズンGetty Images
久保はそのキャリアにおいて極めて重要な局面を迎えている。1シーズンだけ良いプレーを見せるのは、まあ“簡単”なことかもしれない。難しいのはシーズン単位でその調子を保ち続けていくことだ。加えて、師匠のダビド・シルバが怪我での引退を余儀なくされ、今季の久保がチーム内で引き受ける責任は、さらに大きいものとなった。
ソシエダは久保以外にも高レベルの選手たちを擁している(スビメンディ、ミケル・メリーノ、オヤルサバル、ブライス・メンデス、チョー、サディク、アンドレ・シウバ)。だが、この若き日本人と同じ特性を持つ選手はいない。複数のポジションに適応可能で、中央でもサイドでもプレーできる存在は彼以外にはシルバしかいなかった。
イマノルは今夏のプレシーズンで、久保だけが有するその特性を生かし切ろうと試みていた。使用システムはクラシックな1-4-3-3(守備時1-4-4-2。スペインはフォーメーションをGKから表記する)で、久保は右ウィングを務めながらもブライス・メンデス、ロベルト・ナバーロといった選手とポジションを入れ替えることで、サイドと中央を自由に行き来している。
■ソシエダの“違いを生み出す選手”Getty Images
シルバを失ったソシエダは、久保がプレーに関与する回数を増やすことになる。プレシーズンマッチでも新加入の右サイドバック、アマリ・トラオレがサイドを駆け上がり、久保が中央に絞ることでシステムを1-3-4-3に変化させる形は何度も見受けられた。久保は中央で前も後ろも向いてチームメートと連係し、相手選手を引きつけている。
ただし、ソシエダは久保の使い方を間違えてはいけない。この14番の強みは後方のビルドアップではなく、アタッキングサードやペナルティーエリア近くにいてこそ発揮される。俗に言う“違いを生み出す選手”の模範的存在が久保であり、だからこそ右ウィング及びトップ下として振る舞ってもらうのがベストなのだ。
イマノルもそのことを分かっているだろう。久保の力を引き出すことは、ソシエダの力を引き出すことと同義だ。久保の積極性、創造性、研ぎ澄まされていく決定力はチームにとって必要不可欠であり、なおかつ彼には重責を担えるだけの意思の強さやリーダーシップが備わっている。疲れ知らずのプレッシングなど守備における貢献も素晴らしく、そこから仕掛ける(ショート)カウンターも相手にとっては脅威となり得るだろう。
久保は昨季、ソシエダで13得点に絡んだ。9得点は自ら決めたもので、4得点がアシスト。さらにラ・リーガでは30回ものチャンスを創出している。世間から厳しい要求を課せられてきた久保だが、数字でもってその要求に応えた、または応えられる選手であることを証明した、と言っていい。そして、彼にはまだまだ伸び代があるのだ。
■ラ・リーガを代表するクラックへ(C)Getty Images
久保はソシエダだけでなく、ラ・リーガを代表するクラック(名手)の一人にもなれるのだろうか。彼に関して問いかけるべきことは、もうそういった段階にまできている。
……ここまでの成長ぶり、伸び代からすれば、その返答はもちろんイエスだ。
だがラ・リーガを代表するクラックに“なれる”という可能性と、“なった”という事実の間には明確な境界線がある。彼はピッチの上で、その境界線を越えていかなくてはならないのだ。
文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』副編集長
翻訳・構成=江間慎一郎(Shinichiro Ema)
関連記事
● バルセロナ、ネイマール獲得はなしか…チャビが反対し続けている模様| ラ・リーガ
DAZNについて
DAZNなら好きなスポーツをいつでも、どこでもライブ中継&見逃し配信!今すぐ下の記事をチェックしよう。