12月9日のラ・リーガ第16節ビジャレアル戦で1ゴール1アシストを記録するまでの12試合、久保建英は数字として表れる成果を残していなかった。彼が渇きの日々を過ごしたのは、シーズン序盤に与えた衝撃の反動……そう言って差し支えないだろう。
久保のフットボーラーとしての地位は、今季序盤に一気に引き上げられている。この日本人がほかとは一線を画す選手であることは誰もが知っていたが、これまでの輝きは断続的だった。そして今季序盤、その輝きは断続的から継続的なものとなり、レアル・マドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナベウを舞台とした一戦で欧州フットボールシーンに一つの気付きをもたらした。「タケ・クボはあまりに危険な存在だ」と。
久保はレアル・マドリー戦以降、相手チームの徹底マークに苦しみ、勝利への直接的な貢献ができなくなっていた。が、ここ数試合でそうした停滞状況を打開する道も見え始めている。1ゴール1アシストを記録したビジャレアル戦でも、その後のインテル戦とベティス戦でも、彼は途絶えつつあったあの輝きを発していた。チームの表面的なプレーシステムに縛り付けられず、より自由にピッチを動き回ることで。
■機動性と正確性
イマノルは久保を右サイドに張らせているものの、アタッキングサードでの自由な動きや、必要ならば後方に下がってボールを受ける権限も与えている。この前提の上で彼は自身のフットボールを進化させなくてはいけない。確かにマークは厳しく、プレーはずいぶんと制限されている。だが、それでも久保にはこの状況を打開し、成長を続けていくだけのポテンシャルがあるはずだ。(C)Getty Images
機動性と正確性。その二つが久保を次のステップに進ませるコンセプトとなる。彼はもう静止したままではいられない。右サイドでパスを受けてからプレーを開始しても、相手にとって止めるのは簡単だ。久保はオヤルサバル、バレネチェアと頻繁にプレーサイドを交換するなど、右以外の場所でもイニシアチブを取り、相手がどこに守備網を張るべきかを分からなくする必要がある。もちろんサイドだでけでなく中央でのプレーも効果的で、久保に注意を払うよう指示されている相手のサイドバック、センターバック、ボランチは突としてポジションを変える彼と彼が空けたスペースの扱いに苦慮するだろう。
スビメンディ、ブライス・メンデス、ミケル・メリーノといったインテリジェンスにあふれる選手たちは、機動性を発揮する久保ともうまく連係を取れるはず。また右サイドバックのアマリ・トラオレも、日本人の動きの質を引き上げるパートナーになれる。久保がボールを持った際に縦へと突破するトラオレの動きは確かに相手の守備を撹乱しているが、彼ら2人が内と外でどう動くか、いつ入れ替わるかという意思疎通を深めれば、攻撃のバリエーションを増やせるはずだ。
■迎える決定機をふいにしてはいけない
久保の機動性についてはここ数試合で改善が見られている。その一方でプレーの正確性、とりわけ決定力はもっと上げる必要があるだろう(アシストの数字が伸びていないのは、チームメートが彼のお膳立てから決め切れないことに由来しているが……)。
相手の徹底マークが久保をゴールから遠ざけているのは間違いない。とはいえ、オープンゲームになりがちな終盤を主として、決定機を迎えるには迎えているのだ。今季ここまでの6得点という記録はウィングとしては悪くないものの、外してきた決定機をちゃんと物にしていれば、その数字は現時点で2桁まで届いていたかもしれない。
久保のシュート技術は素晴らしく、ペナルティーエリア内に飛び出すタイミングも見事で、いくらチャンスを逸しても自信を失わない精神的強さもある。ただ世界トップクラスの選手になることは、安定したフィニッシャーになることと同義である。かつてのメッシも徹底マークに遭って存在感がない試合もあったが、それでも冷静なシュートでワンチャンスを物にし、主役の座を勝ち取っていた。
当然のことかもしれないが、久保はラ・レアルの選手として最後のところでは自分よりもチーム全体のプレーを優先している。チームとして良い結果を収められるならば、自分の輝きが多少失われてもさして重要ではない、と。もちろん、一つの正しい考え方ではある。彼が相手の選手たちを引きつければ、バレネら逆サイドの選手が自由を得るのだから。ただ久保を犠牲にし続けるのは、ラ・レアルにとっても選手本人にとっても決して良いことではない。チームとしてももちろんだが、久保にも自ら輝きを発するために、まだできることがあるはずだ。
■徹底マークに対処できてこそ真のトップクラス
そう、久保は世界トップクラスとなることを目標にすべき選手であり、実際的にその道の上に立っている。だからこそ今後のキャリアでも、当たり前のようにずっと受け続けることになる相手の徹底マークに対処する術を学ばなければならない。Getty Images
今季序盤のブレイク直後、こうした壁にぶつかることはある程度予想できた。それでも彼の才能、プレーの質はケチをつけられるものではない。ソシエダはオヤルサバルが復活を遂げるなど、ほかの選手たちも活躍を見せているが、久保が最重要な存在であることに変わりはないのだ。
対戦相手がこの日本人を徹底的にマークするのは、彼がタレント揃いのソシエダの中でも、最も恐れるべき選手だからにほかならない。久保の課題は自分のそうした立場に慣れて、その立場にふさわしい振る舞い方を身に付けることだと言えるだろう。
文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』副編集長
翻訳=江間慎一郎(Shinichiro Ema)
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