世界との邂逅、手応え、後悔、そして未来に託したいバトンについて語ってもらった全6回のインタビュー連載『この一戦にすべてを懸けろ』。今回は2018年のロシア大会で活躍した乾貴士選手に話を聞いた。
――乾選手にとってワールドカップは、どんな大会でしょうか
初めて見たのは1998年のフランス大会ですが、最も印象に残っているのは2002年の日韓大会です。日本で開催されて「こんなに盛り上がるんやな」と思いました。その時は、まだ中学生だったので、「頑張れば出られるのかな」と、そんなに遠く感じませんでした。プロになってから「難しいんだな。すごいことなんだな」と思うようになりましたね。
――その後、乾選手はJリーグから海外に行きましたが、日本代表やワールドカップ出場への思いは変わっていきましたか?
日本代表に選ばれたいとは、常に思っていました。でも、どの監督にも少し呼ばれて、すぐ外されていたので、「縁がないのかな」「自分の実力では、ワールドカップには出られないんだろうな」と思ったりしていました。特に日本の左サイドと言えば、いろいろなうまい選手がいるので、そのポジションをやっている時点で難しいかなと思っていました。
――2018年大会の時は、大会目前にハリルホジッチ監督が退任となり、西野朗監督が就任しました。そして最終メンバーに乾選手が選ばれました
あの監督交代がなかったら、オレはワールドカップに出ていないと思います。西野さんになり、西野さんが評価してくれていたから、ワールドカップに行けた。適切な言い方ではないかもしれないですが、一言で簡単に言えば、運が良かったですね。
――「運」を強調されましたが、選出後のアピールが大事ななか、大会直前のパラグアイとの国際親善試合(〇4-2)では大活躍を見せました。あの試合のプレーが、ワールドカップでの先発起用につながったと思いますが、重要な試合で良いプレーを見せることができた要因は何だったのでしょうか
あの試合に出た選手は、全員が最後のアピールのチャンスだったと思います。プラス、前の2試合(ガーナ戦●0-2、スイス戦●0-2)にも負けていました。ベンチから見ていましたが、相手が強かった一方で、日本が良い試合ができているとは言い難い試合でした。おそらく全員が「チャンスしかない」と思っていたし、気合いも入っていたことで、前半から良い試合ができたのだと思います。少なくともオレは「スタメンで出るなら、ここでアピールするしかない」と思っていました。
――初戦では、コロンビア代表と対戦しました
あの試合は、「最初の10分、15分は、前から行こう」とみんなで話をしていたなか、その時間帯に相手が一人退場となり、同じプレーで得たPKを(香川)真司が決めたことがすべてだと思っています。あれだけ緊張する場面で、よく冷静に決められたなと、今でもすごいなと思っていますが、コロンビアからすれば、すごく予定外、予想外の出来事ばかりだったので、バタバタしたと思います。
勝った瞬間は、めちゃくちゃ嬉しかったのですが、それ以上にホッとしました。あの試合、オレは全然良くなくて、チャンスも潰したし、ミスも多かった。だから、「これで勝てなかったら……」という思いが、自分のなかでありました。
――続くセネガル戦(2-2)では1得点1アシストの活躍を見せましたが、初戦から良い意味で開き直れたのでしょうか
そうですね。初戦で良くなくても、2試合連続で起用してもらえたこと、それに家族が見に来てくれたことで気合が入っていたのもありますね(笑)。
――第3戦のポーランド戦では、勝てば決勝トーナメント進出という状況でした。しかし、ポーランドに先制され、負けていた日本は試合終盤も攻めずにボールを回して批判も浴びました
あの時、オレは「西野さんはすごいな」としか思いませんでした。試合中は、オレがベンチ側のサイドにいたので「どうしますか?」と聞いたら、「このままでいい。つないでおけ」と言われたんです。その時は「そういう判断か。攻めないんだな」と、正直、思いました。でも、その判断を即座にして、それが裏目に出ず、しっかり勝ち上がれたのですから、西野さんは持っているんだなと。
周りから、いろいろな声もありましたし、西野さんもみんなの前で謝ったりしていましたが、謝ることではないと思いますし、「決勝トーナメントに上がっているのに、どうしてそんなに叩かれるんだろう」という思いの方が強かったですね。決勝トーナメントに向けて、みんなの「勝ちに行こう」という思いは、より強くなったと思います。
――ベルギー戦では再び乾選手がゴールを決め、一時2-0とリードしました。日本が最もベスト8に近づいた瞬間でした
自分の2点目が入った時は、正直、「勝った」と思ってしまいました。でも、2-0から2-1にされて、あのヘディングが入った時点で、ちょっとやばいなと思いました。あの時は、オレが逆サイドにクリアーしようとしたボールが中途半端になって、それをヘディングされて、そのまま入ってしまったんです。もっとちゃんとクリアーしなかったオレが悪いのですが、「あれが入ってしまうか」と思ったし、変な空気になったのは、敏感に感じ取りました。相手も大柄な選手を投入して、パワープレーを仕掛けてきていたのですが、それを弾き返せずに、策にハマってしまった感じでした。
――そして、2-2に追いつかれ、後半アディショナルタイムには、自分たちのCKからカウンターを浴びて逆転ゴールを決められてしまいます。あのカウンターの景色はどう見えていましたか?
あの時は、点を入れた選手(ナセル・シャドリ)が、オレのちょっと後ろくらいから走って来たのですが、どんどん離されていく。とにかく速かったですね。やばいなと思って、戻ろうとは思ったが、引き離されていく一方でした。足がついていかなかったですね。
あのカウンターを止めるには、(吉田)麻也も言っていましたが、GKにボールをキャッチされた時点でファウルをしたり、ちょっと邪魔をすることで、時間は稼げたと思います。頭を使って、何か賢いことをしないとダメですよね。走りの能力も出てくると思いますが、頭を使って、どうにか遅らせることをやらないといけなかったなと思います。
――あの大会での後悔、やり残したことはありますか?
後悔はいっぱいありますよ。ここを決めておけばとか、ベルギー戦の1失点目のシーンもしっかりクリアーしていたらとか、カウンターにも付いていけていたらとか。でも、それが自分の実力だったと思います。ファンの人、チームメートには申し訳ないですが、あれが精いっぱいだと思います。
――ロシア大会の結果が、日本サッカーに持つ意味はどう感じますか?
ラウンド16で2-0までリードできて、ベスト8まで、もう一歩のところまで行きました。これまでは、なかなかそこまでも行けていなかったので、最後は負けましたが、世界的にも強いベルギーを追い込めた意味はあると思います。若い選手たちも「次こそは」と思ってくれているはずなので、ちょっとは意味がある、前進できた大会になったと思っています。
――ベスト8という新しい扉を開いてほしいというのもあると思いますが、今の日本代表に期待することは?
今は、まだ出場することも決まっていないので、まずは出場権を獲得すること。しっかり勝って、ワールドカップ出場を決めるのが一番です。まずはオーストラリアに勝つことだけを考えて、世界にどうやれば勝てるかは、ワールドカップの出場権を取ってから考えればいいと思います。
文・インタビュー 河合拓
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