停止していた女子テニスが、再び動きだした──!
昨年夏、コロナ禍による5カ月間の中断を経て再開したものの、僅か11大会の開催でオフシーズンへと突入したWTAツアー。
2021年シーズンも直前までスケジュールが定まらないなか、例年はアジア・オセアニア地方で始動する開幕戦が、中東のアブダビで開催の時を迎えた。会場や日程も流動的でありながら、ひとたびやると決まれば世界各地からトップ選手が集結し、何事もなかったかのように大会は進んでいく。その泰然自若さにこそ、テニスというプロ競技の基盤の盤石さが伺えるようだ。
選手にとっても、この先行き不透明な状況にいかに適応できるかが、パフォーマンスや結果を左右する重要ファクターでもあるだろう。もとよりテニス選手に求められる資質の一つに、“ツアー=旅”を日常とし、あらゆる環境や文化に順応する能力が挙げられる。その観点から見ると今こそが、ツアープレーヤーとしての力量が試される時でもあるだろう。
昨年、全豪オープン優勝、全仏オープンでも準優勝し大ブレークの時を迎えたソフィア・ケニンは、その方面の能力が最も優れた選手の一人だといえる。
アメリカン・ドリームを求めた両親と共に生後まもなく渡米したケニンは、異国で苦労する父の背を見ながら、フロリダ州でボールと夢を追った。170cmの身体は昨今の女子テニスでは小柄な方だが、多彩なショットを高い運動能力で操り、相手や環境に応じて戦術を変えていく適応力と精神力こそが彼女の武器。接戦や逆転勝利が多いことも、その事実を裏付ける。今大会も、苦しい試合を切り抜けてきた第1シードを中心に、優勝争いは展開されるだろう。
その第1シードの対抗馬となりそうなのが、順当に行けばケニンと準決勝で対戦する、アリーナ・サバレンカだ。シード順から言えば4番手だが、昨年終盤の2大会連続優勝の快進撃のまま、新たな年を迎えている。
182cmの恵まれた体躯から繰り出すサーブとストロークは、女子テニス屈指の破壊力を誇る。同時に、ダブルスでの好成績が示すように、ボレーやロブを放つ器用さも兼備するのがサバレンカの強みだ。シングルスでは、まだグランドスラムなどのビッグタイトルはないものの、ツアーレベルでは既に8大会で戴冠済み。潜在能力には疑いの余地がない大器が、今大会でも優勝候補の一角を占める。
それらシード勢や実力者が勝ち上がってきたトップハーフとは対象的に、ボトムハーフでは大小の番狂わせが起きている。大坂なおみの元コーチのサーシャ・バインと新タッグを組んだカロリナ・プリスコワは、注目を集めながらも初戦で敗退。その他の上位勢も早期に姿を消すなか、意地を見せて勝ち上がってきたのが、第2シードのエリーナ・スビトリーナだ。
3回戦では幾度も敗戦間際に追い込まれるも、徳俵に足を掛けながら相手の勝ち気をいなしつつ、逆転勝利を引き寄せた。長く“次期女王候補”“新世代の騎手”と呼ばれてきたスビトリーナも、昨年26歳を迎えている。そろそろビッグタイトルをつかむためにも、混沌のシーズン開幕戦となる今大会で、頂点に立ち勢いをつけたいところだ。
勢いという意味では、18歳のマルタ・コスチュクが台風の目。16歳からツアーレベルで戦ってきた早熟のオールラウンダーが、昨年あたりからフィジカルを強化し、飛躍への土台を築いた感がある。
サーブや、特にバックハンドのストロークは一発でウイナーを奪う威力を有すが、彼女の特色は、それらの武器を最大限に活用できる戦略性や手持ちのカードの多彩さだ。まだ粗さや精神面のアップダウンはあるものの、若さが失う物のない強みに直結すれば、頂点へと駆け上がる可能性も十分にあるだろう。
女王不在が長く続き、コロナ禍により混沌の気配が深まる昨今の女子テニス界では、流動的な世界に一定の勢力図と物語性を確立することが最大の命題である。
シーズン開幕戦のアブダビ女子テニスオープンは、その方向性に一つの先鞭をつける大会となりそうだ。
文・内田暁(うちだ あかつき)
テニス雑誌『スマッシュ』や複数ウェブ媒体に寄稿するフリーランスライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、2008年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの能力を脳科学の見地から解いた新書『勝てる脳、負ける脳』(集英社)などがある。
2021 テニス カレンダー・日程 | DAZN番組表
アブダビ・女子オープン
開催日 | 時刻 | 配信内容 |
---|---|---|
1/11(月) | 15:00 | 準々決勝 |
1/12(火) | 17:00 | 準決勝 |
1/13(水) | 17:00 | 決勝 |
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