車いすテニス・小田凱人 全豪オープン2025激闘録[2]
文=細江克弥
頂点まであとふたつに
車いすテニスプレーヤー・小田凱人を追いかける全豪オープン2025が、いよいよ本格的に動き始めた。
真夏のオーストラリア・メルボルンを舞台とするグランドスラムは1月12日に開幕。全日程の折り返しを過ぎた1月21日には男女シングルスとも準々決勝2試合が行われ、男子シングルスではともに優勝候補のノヴァク・ジョコヴィッチ(セルビア)対カルロス・アルカラス(スペイン)が対戦。深夜の激闘を制したジョコヴィッチが4強の一角に名乗りを上げた。トーナメントの頂点が見えてきたことで、緊張感は日増しに高まっている。
荒井大輔、眞田卓、三木拓也、そして小田凱人と4人の日本人選手が出場している「車いすテニス」は19日にトーナメントの対戦カードが発表され、小田は21日の初戦で地元オーストラリアのアンダーソン・パーカーと対戦し、危なげなくストレート勝利。続けて2回戦では日本の眞田卓を寄せ付けず、順当に準決勝に勝ち上がっている。25日の決勝を含めてあと2のハードルをクリアすれば、2025年最初のターゲットである“全豪連覇”を実現することができる。
コートを離れた18歳の素顔
もちろん、今大会も優勝候補の最右翼だ。
何しろ肩書が違う。前回大会王者でありパリ・パラリンピックの金メダリスト。世界ランキング1位にして今大会第1シード。注目度では群を抜く。
18歳という年齢はもはや違和感でしかない。試合中の眼光は鋭く、アスリートとしてのオーラにむしろ若さは感じられない。しかしコートを離れ、飾り気のない無邪気な表情でヒップホップを語る趣は10代のそれ。
2つの側面のギャップを埋める“本当の小田凱人”は、心の中で何を感じ、頭の中で何を考えているのか。それを知りたくて、19日の練習後に実現した最初のインタビューに臨み、彼との対話を始めた。
「コンディションは、うん……今はめちゃくちゃいいですね。あくまで感覚的なんですけど、僕はあまりコンディションの波がないほうだと思っていて。ケガと向き合いながら試合をするという経験がほとんどなくて、ストレスフリーの状態。自分に集中できていると思います」
ビッグトーナメントの始まりを前にしても、メンタルがブレることはほとんどない。
「そうですね。舞台が大きいほうが楽しいと感じるタイプで、逆に、注目されていないと気分がぜんぜん乗らなくて。だから、こういう大会のほうがワクワクするし、調子も自然と上がるんで。いつも楽しみにしてるんですよね」
“OFFモード”の彼にピリピリとした空気感はない。文字面で見る言葉は少し強く感じられるかもしれないが、言葉はゆっくりで、声も決して大きいわけじゃない。興味をそそられる人だ。
小田凱人の言葉
今回のインタビューのテーマは「ベストショット」である。
テニスは対峙する相手との駆け引きのスポーツであり、だから、時に“流れ”を引き寄せ、“流れ”を変える「ベストショット」が勝敗を大きく左右する。自分にとってのベストショットとは何か。それを生むために必要なものは何か。その考え方に詰め込まれた“らしさ”こそが、彼の強さの由来であると仮定した。
“らしさ”と“強さ”の接点を紐解こうとする会話の中で、パワーワードはいくつも飛び出してきた。感情や思考を言葉にする言語化能力の高さ、表現を彩るワードセンスも彼の大きな魅力だ。以下にその一部を抜粋して紹介する。
(「小田凱人はなぜ強い?」と聞かれたら、どう答える?)
「まだ、自分のことを強いと思っていないからじゃないですか。自信はあるんだけど、自分自身が思うテッペンにいるわけじゃなくて、そのギャップがあるからもっと強くなれると思っている」
(タイトルをどれだけ取っても変わらない?)
「変わらないですね。お腹が減ったらごはんを食べる感覚と似ていて、どれだけ食べても時間がたったらすぐにハラが減るというか……それから、もともと遊びの感覚でテニスを初めて今もその延長線上にいるから、“勝って満足”じゃなくて“勝つほど楽しい”って感覚なんですよ。たぶん。楽しいから“もっと”となるじゃないかなって」
(やっぱり、テニスはメンタルが影響する)
「間違いないですね。感情はぜんぶボールに乗るから、『負けるかも』と思ったら絶対に負ける。だから……やっぱ、自分に嘘をつかずに毎日を過ごしていないとダメなんですよ。こういうインタビューで口先だけのことを言ったり、自分を大きく見せたって試合で出せるわけじゃないので。うん……やっぱり、ちゃんと毎日の生活が出る。その一球に。ありきたりの答えかもしれないけど、それしかないと思っていて」
(自分らしさを表現する上で何を意識している?)
「僕は“自分は自分”というマインドが強いので。だから、そういう自分を評価してくれる人に対して何かを還元したいし、結果を見せたいですよね。時代の最先端を行きたいから、今、理解してもらえないことが多くても、それはそれでいいんです」
スタイルを見せつける試合を
小田はほとんどすべての質問に対して「うーん……」と発して“間”を取り、真剣な表情でしばし逡巡し、頭の中に納得いく言葉を見つけてからゆっくりと話し始める。話しながらニヤりと表情を崩したり、独特の“間”をずっと長く取ってみたり。辛抱強く待っていると頭の中で練り込まれたワードがボロっと落ちてくるから、インタビュアーとしては「ということは」なんて言いたい気持ちを抑えて“待つ”ほうが正しい。たぶん。
こちらとしてはクセになる間だ。聞きたいことの大枠が決まっていたとしても、リアクションを期待して変化球をぶつけてみたくなる。“普通の18歳”と向き合っている感覚は、もちろんまったくない。
それでも、インタビューの最後は極めてストレートに全豪オープンへの意気込みを聞いた。
「前回大会より面白い試合をしたいし、自分のスタイルをもっと見せつける感じの試合をしたいですよね。結果はもちろんだけど、それプラス、お客さんを沸かせる選手でいたいと思っています」
密着取材で予定されているロングインタビューは2度。今回行われた1度目のインタビュー全編を含む小田凱人のドキュメンタリー前編は、1月22日にDAZNで公開される。らしさ。こだわり。美徳。強さの秘密。さまざまな角度から小田凱人の現在地をひも解く。
大会終了直後、メルボルン・パーク内に設置された Google Pixel の特設ブースに、小田凱人はどんな表情で現れ、どんな言葉を発するのだろうか。1回目のインタビュー終了時はまだ1試合も“コート上の小田凱人”を目撃していなかったが、その時点でさえ、再び向き合うその瞬間が楽しみで仕方がなかった。
スポーツライター細江克弥がピックアップ
『Google Pixel 9 Pro』のここがすごい!
(C)DAZN
(1)AIでバッテリーが超長持ち!
小田凱人といえば『Google Pixel を使っています』のコマーシャルですっかりおなじみ。せっかく彼を取材をさせてもらうのだから、この機会に「僕の名前は細江克弥。 Google Pixel を使って……みたいです」と冗談半分でお願いしたところ、なんとあっさり「OK」とのこと。ありがとう Google さん。初めて使ってみて、気づいたことを紹介します。
いろいろと不安要素の多い海外での取材活動でめちゃくちゃ助けられているのが、なんといってもバッテリー持続時間の長さだ。
『Google Pixel 9 Pro』にはAIが消費電力を管理する「スーパー バッテリー セーバー」というモードが搭載されていて、つまり、スマホのAIが勝手に「なるべくバッテリーを消費しない方法」を見つけてくれるとのこと。道を調べたり、食事する場所を探したり、とにかくスマホに頼りっぱなしの海外取材ではいつもスマホのバッテリー消費を気にしなければならないけれど、『Google Pixel 9 Pro』ではその心配がかなり大きく軽減される感覚だ。
使用して3日目。すでにその感覚はかなり強いが、「スーパー バッテリー セーバー」を発動させない通常モードでもバッテリーの減りは明らかに遅いと感じるから、これは本当にありがたい。
ヘビーユーザーの小田選手にも聞いてみたところ、「時間さえあればスマホを開いているけど『Google Pixel』に変えてからバッテリー残量が気になったことがない」とのこと。慣れない海外で仕事をする取材者にとっても、世界を飛び回る18歳のトップアスリートにとっても、バッテリー持続時間の長い『Google Pixel 9 Pro』は不可欠なアイテムだ。