“守らない”富永啓生がスタメン落ち…目を背けなかった課題のディフェンス
(C)FIBA
8月28日、バスケットボール日本代表は沖縄で開催中のワールドカップにおいて歴史的な勝利を挙げた。アジアを勝ち抜けずに世界大会に出場できない低迷期こそ抜け出したものの、2019年のワールドカップ、2021年の東京オリンピックでは1勝もできず。ベストメンバーを揃え、最善の準備を尽くしてもなお、『世界での1勝』は遠いものだった。
今回も開幕戦でドイツ代表に完敗を喫し、フィンランド戦でも序盤は先行したものの、昨年のユーロバスケットでベスト8と躍進し、その主要メンバーが残ってチームの完成度の高いフィンランドに逆転を許していた。渡邊雄太は足首の状態が相当悪いようで、コートに立てば相手のエース、ラウリ・マルカネンをマークしてよく抑えたが、オフェンスに転じて得点を狙う余力はなく、まさに『コートに立っているのがやっと』の状態だった。
日本代表にとって渡邊雄太は攻守のキーマンであり、最も計算できる選手。その渡邊が苦境に陥っていては、チームが上向くことはないと思われた。時間が進むにつれてフィンランドが優位を固めていく。そんな状態で第4クォーターを迎えた。
63-73で迎えた最終クォーター、結果としてこのラスト10分を35-15と圧倒して日本代表は逆転で勝利した。富永啓生の3ポイントシュート、河村勇輝のスピードに乗ったドライブからの得点とアシストが大きく取り上げられるが、劇的な逆転勝利を下支えしたのはディフェンスとリバウンドに他ならない。それを先導したのは、オフェンスのイメージの強い富永だった。
富永は大会直前の強化試合までは先発に固定されていたが、土壇場でベンチスタートに回された。理由はディフェンスで、守れないというよりは守らない、意識が得点に向きすぎてチームディフェンスの穴になってしまう懸念から、より守備の安定している原修太にポジションを奪われていた。
こうなると富永の役割は完全に『飛び道具』で、彼がメインで使われるのは3ポイントシュートでしか追い付けないシチュエーションだけとなる。だが彼はこの状況で3ポイントシュートにこだわるのではなく、そもそもの本質的な課題であるディフェンスに目を向けた。「今日は最初からディフェンスにフォーカスするつもりでした」と試合後の彼は語るが、第2クォーターに最初の出番がやって来た時には、ファーストタッチで3ポイントシュートを決め、2本目の3ポイントシュートも決めたためにオフェンス特化の印象が強かった。
流れを引き寄せた富永のディフェンスとリバウンド
(C)FIBA
「ディフェンスにフォーカスするつもり」という彼の意思がコート上で表現されたのは、日本代表が追い詰められた第4クォーターだった。指揮官のトム・ホーバスにしても、チームメートにしても、フィンランドに攻守でじわじわと締め上げられる状況を何とかできるのは富永の3ポイントシュートだと、すがるような気持ちになっていただろう。
だがここで彼は、ディフェンスとリバウンドでチームに喝を入れようとした。
自分のマークから目を離さず、ボックスアウトを徹底。馬場雄大に吉井裕鷹とハードワークを売りにする選手たちが攻守にエナジー全開のプレーを続けるなか、富永も同じぐらいの強度を攻守一つひとつのプレーに込めていく。
第4クォーター最初の日本の得点を3ポイントシュートでもたらした後、相手がファンブルしたボールに飛びついてスティールを狙う。これはラインを割って相手ボールとなったが、思い切り悔しがった後、「もっと沸け、もっと盛り上げろ」と手を振り上げて客席を煽りつつ、自分の気持ちも高めていった。
この時、フィンランドはマイボールが続いている状況であるにもかかわらず貴重なタイムアウトを1回使っている。日本代表の、そして会場の異常なまでに盛り上がったテンションを嫌い、一度試合を止めたのだ。それでも、富永のディフェンスとリバウンドへのフォーカスは途切れず、彼が作り出した流れも止まらない。
フィンランドがエース、マルカネンにボールを集め始める。マルカネンが放った3ポイントシュートがリングに弾かれると、そこに跳び込んでリバウンドを拾ったのは富永だった。ジョシュ・ホーキンソンがゴール下で構えていたが、この試合で37分半出場し、第1クォーターの終盤に少し休んだ以外は出ずっぱりのホーキンソンに託すのではなく、自分から飛び込むハッスルの発露であり、チームプレーでもあった。
次のフィンランドの攻めでは、オフェンスリバウンドを奪われるも、ヘルプに寄った富永が、相手の一度下げようとしたパスを奪い取ることに成功。そこから速攻に転じたところで富永が倒され、相手にはアンスポーツマンライクファウルが宣告された。
このフリースローで点差を縮め、今度は富永が相手の警戒を引き付けてホーキンソンへのハイローのパスでアシストを記録。これで69-73と4点差、重苦しい雰囲気の中で迎えた第4クォーター開始から、わずか2分半で富永がディフェンスとリバウンドで奮闘し、試合の流れを日本代表へと引っ張ってきた。
ドイツ戦の悔しさ、フィンランド戦でのリベンジ。チームで勝ち取った歴史的勝利
(C)FIBA
フィンランドはまだリードしていたが、この流れに抗うことはできなかった。ここから河村勇輝が『ゾーン』に入り、逆転に持っていくとそのまま10点差まで突き放し、歴史的な勝利をモノにしている。
富永はドイツ戦でスタメン落ち、個人としてもチームとしても結果を出せずに屈辱を味わったが、フィンランド戦で見事なリベンジを果たした。シュートが入る、入らないではなく、ディフェンスとリバウンドの奮闘で、自分で試合の流れを引き寄せる働きぶりは、彼個人の成長という意味でも非常に大きな意味がある。
今回は富永だけを取り上げたが、この勝利は誰が欠けていてもあり得なかった。富永とともにこの試合の主役になった河村、死力を尽くしたホーキンソン。無得点ではあるが立ち上がりに良いリズムを作り、終盤には経験豊富なポイントガードらしいゲームコントロールを見せた富樫勇樹。苦しい場面で底力を見せた比江島慎。唯一プレータイムのなかった井上宗一郎も、ベンチで誰よりも声を張り上げて戦っていた。
試合後の渡邊雄太は「これが本当にバスケットと言うか、一人じゃ勝てない」と語る。足をひきずりながらも満面の笑みで、そしてホッとした表情でこう言葉を続けた。「これだけ良いチームメートがいて今日はみんなに託したというか、ホントにやってくれました。僕がダメでもみんながやってくれると信じてたので。ホントにチームで勝ち取った勝利です」
【日本×フィンランド|ハイライト】FIBAバスケットボールワールドカップ2023
関連記事
● バスケットボール男子日本代表 2023年試合日程・結果・テレビ放送・ネット配信予定
DAZNについて
DAZNなら好きなスポーツをいつでも、どこでもライブ中継&見逃し配信!今すぐ下の記事をチェックしよう。