AFCフットサルアジアカップが9月27日にクウェートで開幕。3大会ぶりの優勝を目指す日本代表は、28日にサウジアラビアとのグループステージ初戦を迎える。2014年、2016年、2018年の3度のアジアカップ出場歴を持つ元日本代表・渡邉知晃が、初戦をプレビューする。
初戦は内容よりも勝ち点3が大事
(C)AFC
2021年のフットサルワールドカップが終わり、新たな指揮官に木暮賢一郎監督を擁立して再スタートを切ったフットサル日本代表が、最初の目標に掲げてきたアジアカップに挑む。フットサルの国際大会に限った話ではないが、どんなスポーツの大舞台でも共通して言われる通説がある。それは「とにかく初戦が大事」というもはや普遍の真理──。
まさしく「内容よりも結果が大事」とはよく言ったものである。筆者は、3度のアジアカップ出場を通して、今大会の"初戦の難しさ"を体感してきた。例えば結果的に準優勝を手にした2018年の前回大会もそうだった。初戦のタジキスタンは、当時の力関係からすれば日本が絶対的に優位であり、“大量得点で快勝”できるような相手だった。
しかし、先制するも追いつかれ、3-1まで離すも1点差に詰め寄られ、最後はかろうじてパワープレー返しで4-2にして勝利するという “辛勝”っぷりだったのだ。
初戦は難しくかつ、なによりも大事。これは間違いない事実だ。11月に開幕するサッカーのワールドカップでも、日本は初陣となるドイツ戦をなにより重視するだろう。グループステージ突破を見据える上で、初戦で敗れてしまうとその後の戦いが数字的にも精神的にも厳しくなり、逆に、勝ち点3を手にすることでチームとして勢いに乗れるからだ。
特に今大会の日本代表メンバーは、ピレス・イゴール、清水和也、吉川智貴、内村俊太をのぞいた10選手が初めてアジアカップを戦う。若く、勢いのあるメンバーが多いということは、初戦の結果次第で波に乗れるかもしれない一方で、“アジアの経験不足”を理由につまずいてしまうことが、絶対にないとは言い切れない。初戦には、“ならでは”の緊張感があり、思い通りにいかない時間帯が必ず訪れる。そこでいかに我慢して、チームとして耐え抜けるかが重要である。経験のある選手には、リーダーシップを取って落ち着かせる役割があり、“4人の経験者”に期待したい部分だ。今回が4度目の出場となる吉川が、「アジアにはアジアの戦い方がある」と語ったように、アジアカップ独特の空気感、慣れないボールやピッチ、普段戦っているFリーグとは異なる身体能力や戦い方をしてくる相手に対して、選手全員が早くアジャストしていくことが求められる。
ポイントとなるのは先制点とセットプレー
(C)AFC
先制点がもたらすものは大きい。チームに安心感と自信を与えてくれるからだ。初戦を勝つために大事なのは、「早い時間帯で先制点を取る」こと。9月15日、18日に国内で行われた国際親善試合・ブラジル戦後、木暮賢一郎監督が「アジアではリスペクトを受けた状態で戦う試合が多い事実がある」と話したように、アジアでベスト4に入るような強豪国以外は、日本に対して“リスペクトを持った戦い方”をしてくる傾向がある。
初戦のサウジアラビアもそういった戦い方を選択する可能性は高い。具体的に言えば、ディフェンのスラインを下げてスペースを消し、ゴール前を固めた守備をして、そこからのカウンターでゴールを狙ってくる方法だ。日本としては、ボールを保持する時間が増える一方で、不用意なボールロストや攻撃の終わり方には十分に気をつけないといけない。
アジアには身体能力が高く、スピードのある選手も多く、こういった戦い方に慣れているため、カウンターも速く、精度が高い。先制を許すと相手はさらに守備を固めてくるので、「定位置攻撃」で崩すことが難しくなってしまう。逆に日本が先制できれば、相手は逆転するために前がかりとなり、リスクをかけて攻撃してくるため、ゴール前のスペースが空きやすく、カウンターを仕掛けられる局面が増えることで追加点を奪いやすくなる。
“日本の胸を借りにくる”相手に勝つには、早々に先制点を奪ってしまうことが重要だ。
その手段として有効であり、鍵を握るのがセットプレーだ。これは試合の流れに関係なくスコアを動かせる方法であり、日本代表も得意としている。実際、ブラジル戦でゴールを奪ったのも、コーナーキックからのアルトゥールのボレーであったし、左利きのヴィニシウスらを含め、セットプレーから得点を狙えるタレントを揃えている。仮に苦しい時間帯が訪れ、流れが悪くなったとしても、セットプレーからゴールを奪えばペースを引き戻すことができる。相手が日本語を理解していないこともメリットであり、例えば「ブロックするふりをして走り込むからそこに合わせてくれ」などと直接話して共通認識を得ることも可能だ。こういったアジアならではといった部分は、試合で最大限に生かしていきたい。
近年力をつける侮れない相手、サウジアラビア
サウジアラビアは、2大会ぶり2度目のアジアカップ出場であり、アジアにおける経験値は高くないものの、近年は国としてもフットサルに力を入れてきている新興国だ。初出場となった2016年大会は1分2敗でグループステージを敗退したが、西地区予選のグループAを2位で通過して出場権をつかんだ今大会は当然「前回以上」を目指してくる。
日本とは直近の対戦歴もあり、今年の4月1日にUAEで行われた国際親善試合では4-2で日本が勝利を収めた。しかし、後半のスコアは2-2と、決して侮れない。
指揮を執るのは、世界的な名門クラブ、バルセロナで監督経験を持つアンドレウ・プラサ氏であり、テクニカルスタッフにもスペイン人が名を連ねている。身体能力に優れる選手たちが質の高い指導を受け、強化を続けている。経験豊富で、知識にも戦術にも長けた指揮官が率いるチームは、5カ月前から間違いなくレベルアップしているだろう。立ち上がりから集中して試合に入り、早い時間に先制して理想的な展開に持ち込みたい。
なによりも勝ち点3だ。実力で日本が優位であることは間違いないが、試合に絶対はない。選手が自分の特徴を出し、チームとしてやるべきことを徹底して結果をつかみたい。
文=渡邉 知晃(わたなべ・ともあき)
1986年4月29日生まれ。福島県出身。小学2年生からサッカーを始め、順天堂大2年時にフットサルに転向。BOTSWANA FC MEGURO、ステラミーゴいわて花巻、名古屋オーシャンズ、立川・府中アスレティックFC、大連元朝足蹴倶楽部(中国)でプレー。日本代表として国際Aマッチ59試合出場・20得点、Fリーグ2017-2018シーズン得点王(45得点)、通算323試合出場・201得点など数々の実績を残し、2020-2021シーズン限りで現役を引退。子供への指導のかたわら、フットボールライターとして執筆業にも挑戦中。
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