AFCフットサルアジアカップが9月27日にクウェートで開幕。日本代表は28日にサウジアラビアとグループステージ初戦を戦い、1-2で敗れた。イランとの覇権争いを繰り広げ、優勝候補に推される日本はなぜ、負けたのか。3度のアジアカップ出場歴を持つ元日本代表・渡邉知晃が分析する。
結果的に痛恨すぎた2つのチャンス逸失
(C)AFC
先制点までは完璧だった。開始早々の3分に、吉川智貴が前線からのプレスでボールを奪ってクレパウジ・ヴィニシウスにつなぎ、ドリブルで持ち込んで得意の左足でシュートを突き刺した。立ち上がりに少しバタついていたサウジアラビアに付け込んだゴールだった。
ここから勢いに乗りたい日本だったが、チャンスはありながらも追加点が遠かった。先制点後の第1ピリオド10分までに、サウジアラビアに大きな決定機はなかったが、日本には2度の決定機が訪れた。一つは7分に、キックインの流れから上村充哉が折り返したボールにゴール前でフリーの金澤空が合わせようとしたがミートできず。
さらに9分、ゴレイロの黒本ギレルメからオリベイラ・アルトゥールに渡り、吉川へとつないで相手ゴレイロが引き出されたところをヴィニシウスにパスし、無人のゴールにシュートを放ったが、ボールは枠を越えてしまった。
この時、何度もアジアの舞台で戦ってきた筆者は嫌な感覚を覚えた。試合の流れとは、得てしてチャンスを決め切れないでいると、相手に移ってしまうものだからだ。
そして11分、予感は的中してしまう。ゴレイロを使った攻撃の流れから同点ゴールを決められてしまった。時間の経過とともに徐々にリズムをつかんでいたサウジアラビアにとっては、先制されながらもその後のピンチを耐えて仕留めた、最高の一撃だった。
勝負の世界で”タラレバ”を言っても仕方がないものの、前述した2つのチャンスを決めて3点を奪っていたらゲームを終わらせることができていただろう。いつもなら入るようなシュートが入らないというのもアジアの戦いの難しさであり、初戦の難しさだ。
サウジアラビアの“勝因”となった守護神・フムード
(C)AFC
まさに徹底した戦いぶりだった。戦前の予想通り、サウジアラビアは日本に対して”リスペクト”を持った戦い方をしてきた。ディフェンスラインをハーフまで下げて、全員が連動するゾーンディフェンスでゴール前を固め、シュートに対しては体を張って守っていた。
そして攻撃時は、バックパスができないゴールクリアランス以外の7割、8割の場面において「ナチュラルパワープレー」の形で攻めてきた。ゴレイロが相手陣近くまで持ち上がって“5対4”の数的有利を生み出す“戦術ゴレイロ”とも言える攻撃手法は、2021年に開催されたフットサルワールドカップでもベスト4のうち3チームが積極的に活用するなど、世界的なトレンドになっている。サウジアラビアはそれを本当に徹底していた。
バルセロナでも指揮経験を持つスペイン人、アンドレウ・プラサ監督の下でおそらく何度もトレーニングしてきたのだろう。それがすぐにわかるほどの精度の高さだった。
日本はそのナチュラルパワープレーにリズムを崩された。日本のディフェンスシステムは、前からの積極的なプレッシングでボールを素早く回収し、自分たちがボールを保持する時間を増やしてリズムを作っていくことを狙いにしているが、高頻度でゴレイロを使われてしまうと、なかなかプレスをかけられなくなってしまう。常に数的不利となり、不用意にプレスをかけると数的優位を生かされ簡単にフィニッシュへと持ち込まれてしまうのだ。ディフェンスからリズムを作りづらい状況に追い込まれてしまっていた。
サウジアラビアの守護神・フムードを使った攻撃はとても整備されていた。狙いどころがはっきりしていて、日本がフムードにプレスをかけても落ち着いて回避されてしまう。うまくいかない時は割り切ってリスクのないプレーを選択していたため、サウジアラビアはゴール前で失点につながるようなボールの失い方をほとんどしなかった。
なにより、フムードの足元の技術の高さが突出していた。それを象徴するシーンは、プレー中に味方のカバーリングをしていた時だ。セーフティーにクリアするのではなく、コントロールして持ち上がり、味方に正確につなぐというシーンが何度も見られた。足元に自信を持っている証拠だろう。実際にサウジアラビアの1点目の起点となったのはフムードのプレーであり、2点目はアシストを記録してみせた。
木暮賢一郎監督は試合後「今日のサウジアラビアのGKは素晴らしかった」と語ったように、フムードのパフォーマンスはまさにサウジアラビアの“勝因”であり、日本の“敗因”の一つになっていた。攻撃面のみならず、試合を通して日本の強烈なシュートをことごとくセーブした守備技術の高さも秀逸だった。初戦のMOMは彼以外にあり得ないだろう。
シンプルに「残り2試合に勝つ」こと
(C)AFC
サウジアラビア戦の話はここまでにしよう。日本は初戦を落としたものの、大会はまだ終わっていない。グループステージは残り2試合あり、2位までがノックアウトステージに進めるだけに、日本が絶望するような状況では決してないのだ。
筆者自身、選手として出場した2014年大会は、グループステージ初戦で韓国に12-0で勝利したものの、第2戦でウズベキスタンに1-2で敗れた。それでも第3戦でキルギスに勝ってグループ2位でノックアウトステージへと進み、結果的に優勝を果たした。崖っぷちに追い込まれたことで逆にチームがまとまり、アジア王座へと上り詰めた。
まずは、次の韓国戦に勝つことが最重要ミッションだ。初戦を戦ったことで選手たちもアジアカップの雰囲気や戦い方に慣れることができたはずであり、残り2試合を勝たなければいけないという、わかりやすい状況になった。グループステージでは、勝ち点計算、引き分けの可能性や最終的な得失点を気にすることもあるが、シンプルに「勝つしかない」と明確になったことで、チーム全員が同じベクトルを向いて戦えるだろう。
「負けられない」「勝たなければいけない」という苦境を乗り越えた時こそ、本当に強いチームになれる。そうすれば自ずと、優勝が見えてくる。心理的に難しいことは承知の上で、敗戦のショックを引きずらず、身体的にもリカバリーして次の試合に備えてほしい。
経験豊富な吉川智貴が「自分たちの自信を取り戻せるような試合を、次の韓国戦でしたい」と試合後に語っていた。まさに、そこに尽きる。一つ勝つことでチームとして自信をつけ、勢いに乗ることができる。そんな勝利を30日の韓国戦では期待したい。
文=渡邉 知晃(わたなべ・ともあき)
1986年4月29日生まれ。福島県出身。小学2年生からサッカーを始め、順天堂大2年時にフットサルに転向。BOTSWANA FC MEGURO、ステラミーゴいわて花巻、名古屋オーシャンズ、立川・府中アスレティックFC、大連元朝足蹴倶楽部(中国)でプレー。日本代表として国際Aマッチ59試合出場・20得点、Fリーグ2017-2018シーズン得点王(45得点)、通算323試合出場・201得点など数々の実績を残し、2020-2021シーズン限りで現役を引退。子供への指導のかたわら、フットボールライターとして執筆業にも挑戦中。
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