日本代表は10月4日、AFCフットサルアジアカップ2022の準々決勝に臨む。対戦相手は、現日本代表コーチの高橋健介コーチが3年にわたり指揮を執ってきたインドネシア。アジアカップの優勝経験者であり元日本代表の渡邉知晃が、日本のノックアウトステージ初戦を展望する。
高橋健介が率いたインドネシア代表
インドネシア代表は、2018年から2021年まで、現日本代表コーチの高橋健介氏が監督を務めたチームである。高橋氏によってフットサルの基礎や最新戦術が浸透、構築されたことで代表チームが強化されたことは間違いない。
インドネシアはこれまで、アジアの強豪国ではなかった。アジアの同じ東南地区には常連のタイとベトナムがいるため、アジアカップに出場したことは何度かあったが、ノックアウトステージに進出したことはなかった。
近年、高橋氏を始めとする外国人監督を招聘し、国として強化を図ってきた。そして代表チームだけではなく、クラブチームにも外国人選手や監督を積極的に迎え入れ、高橋氏が「すごくベースが上がっている」と話すように、自国の選手たちのレベルを引き上げようとする取り組みを続けている。
現在、名古屋オーシャンズにも在籍したことがあり、2021年のワールドカップでポルトガル代表のキャプテンとして母国を初優勝に導いたリカルジーニョがプレーしていることで注目が集まっている。実は、筆者も2018年にインドネシアリーグでプレーした経験がある。その話は後ほどさせてもらおう。
今大会は、グループステージで優勝候補イランに敗戦を喫したものの、チャイニーズ・タイペイとレバノンにしっかり勝ちきって、グループ2位で同国史上初のノックアウトステージ進出を果たした。継続的な強化の成果だろう。
日本が初戦で敗れたサウジアラビア同様に、近年力をつけてきている新興国であり、侮れない相手だ。同じ東南地区ということもあり、2016年大会時のベトナムに近い感覚を感じているため、日本は細心の注意を払うべきである。
チームとしての勢いは日本以上。気を引き締めて試合に臨みたい。
今、インドネシアはフットサルが熱い?
(C)AFC
先ほど述べたが、筆者は2018年にインドネシアリーグに所属するビンタン・ティムール・スラバヤというチームでプレーしたことがある。正直に言うと、この移籍までインドネシアにフットサルリーグがあることを知らなかった。
ところが、リーグの初戦を戦った時にかなり驚かされた。会場の熱気・熱量が想像以上だったからだ。およそ3000人以上の人が見守り、客席は超満員。アリーナ内は、観客の声援で選手同士の声が聞こえないほどだった。そしてこの日が初出場だったにも関わらず、ウォーミングアップの際にスタンドから「ワタナベ!」と呼ぶ声が聞こえてきたくらい、リーグの選手たちは注目されている。ゴールが決まった際の歓声は日本で経験したことのない大きさのものだった。
この“熱”こそが、レベルを引き上げている要因だと感じた。リーグ戦は常に多くの観客が会場を訪れ、代表戦となればチケットは完売し、立ち見客が出るほどの盛り上がり。この熱量に引っ張られるように、選手たちは成長してきた。
インドネシでプレーして感じた印象は、スピードのある選手、身体能力が高い選手がとても多いということ。当時は戦術に長けたチームは少なく、フットサルの基礎知識を持たない選手も多かったため、フィジカルの強さとスピードを生かした個人能力がぶつかり合う試合が多かった。高橋氏も前日インタビューでインドネシアの特徴について聞かれ「総合的に見ると”速い”」と話していた。
筆者自身、リーグ戦では彼らのスピードとフィジカルに苦戦した覚えがある。イメージとしては、東南アジアと中東アジアの中間のような特徴を持ったチームだ。インドネシアの身体能力の高さには注意したい。
1対1の局面での力強さがあるので、日本としては「対人で負けないこと」も大事だが、それ以上に「組織として守ること」が求められる。仮に1人が抜かれた場合にも、カバーリングやチーム全体で連動した守備をしていきたい。
インドネシアが本格的にフットサルの戦術を採り入れてからまだ日が浅いため、日本の攻撃としては、質の高いボール回しや個人戦術を生かした2人組の関係で崩していくといいだろう。“フットサルへの不慣れさ”を日本は突きたい。
インドネシアの監督は元イラン代表主将
インドネシアを率いるのは、選手時代に長らくイラン代表として活躍したモハンマド・ハシェンザデ監督だ。日本代表の木暮賢一郎監督との対戦経験もあり、彼らは共に代表チームのキャプテンを務めていた。
2022年にインドネシアの監督に就任したハシェンザデ監督は、前任の高橋氏の後を継ぐ形でチームを強化している。アジアナンバーワンのクラブを決める大会、AFCフットサルクラブ選手権の優勝歴があるイランの強豪ギティ・パサンド・イスファハンのコーチや、2021年のW杯でイラン代表のコーチを務めた経験もある。
アジアカップを知り尽くす指揮官がいることは、初のノックアウトステージを戦うチームにとって重要だ。そして、インドネシアには勝ちたい理由がもう一つある。
10月1日に行われたサッカーインドネシア1部リーグのアレマvsペルセバヤ・スラバヤの試合後に暴動が起きた。試合結果に腹を立てたサポーターがグラウンドに流れ込み、警察が催涙ガスを発射し、煙から逃れようとした観客が出入り口に押し寄せたことがきっかけとなり、174人もの命が失われてしまった。
大会期間中に母国で起きた悲しい出来事に、彼らの感情は揺れ動いただろう。良い結果を出すことで、少しでも母国を勇気づけたいという想いも強いはずだ。
インドネシアで注意したいのは、背番号10番・ファジリアンだ。攻撃の中心として活躍する左利きのピヴォは、グループステージのレバノン戦で1ゴール、チャイニーズ・タイペイ戦ではハットトリックを達成するなど、得点能力が高く、それでいて味方を生かすことも得意だ。日本としては、ファジリアンに簡単にボールを入れさせないことと、そして彼の左足から放たれるシュートには十分に注意したい。
ここから先は、負けたら終わりの一発勝負。目の前の試合を一つずつ勝ち進み、まずは決勝まで上がりたい。筆者も経験があるが、決勝はまた一味違ったパワーを出すことができる。疲労が溜まっているなかで迎えるノックアウトステージ初戦は大きな山場だ。アジアカップ優勝に向け、日本の真価の問われる一戦となるだろう。
■プロフィール
文=渡邉 知晃(わたなべ・ともあき)
1986年4月29日生まれ。福島県出身。小学2年生からサッカーを始め、順天堂大2年時にフットサルに転向。BOTSWANA FC MEGURO、ステラミーゴいわて花巻、名古屋オーシャンズ、立川・府中アスレティックFC、大連元朝足蹴倶楽部(中国)でプレー。日本代表として国際Aマッチ59試合出場・20得点、Fリーグ2017-2018シーズン得点王(45得点)、通算323試合出場・201得点など数々の実績を残し、2020-2021シーズン限りで現役を引退。子供への指導のかたわら、フットボールライターとして執筆業にも挑戦中。
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