AFCフットサルアジアカップで3大会ぶりの優勝を目指す日本代表は6日、準決勝でウズベキスタンと対戦し、2-1で逆転勝利を収めた。準々決勝同様に先制点を許す苦しい展開のなかで2つのセットプレーから戦況をひっくり返し、2018年に続いて2大会連続となる決勝進出を果たした。2014年大会の優勝メンバーの元日本代表・渡邉知晃が準決勝を分析する。
勝負を決めた2つのセットプレー
(C)AFC
この試合もまさしく死闘。アジアの強国・ウズベキスタンはやはり強かった。第1ピリオドから互いに何度もクロスバーとポストに“嫌われ”“救われる”シーンが生まれるなど、立ち上がりからハイテンションなゲームで一進一退の攻防を繰り広げた。
手に汗握る展開のなかで先制したのはウズベキスタン。右サイドで8番ニショノブが縦に突破すると、ラインギリギリのところで折り返し、ゴール前で待ち構えていたハムロエフが右足で合わせた。ハムロエフは今大会初ゴールをマークした。
ほしかった先制点を逆に奪われた日本だったが、ここで崩れることはなかった。失点後に投入された長坂拓海を中心に猛攻を仕掛け、相手ゴールを脅かし続けた。
迎えた第2ピリオドも、日本は落ち着いてゲームを運べていた。そして待望の同点ゴールが生まれる。23分、右サイドのキックインから吉川智貴のパスを受けたオリベイラ・アルトゥールがボールをコントロールしながら相手を剥がし、右足で強烈なフィニッシュ。日本のキャプテンが大事な場面でチームを救う一撃をお見舞いした。
吉川が試合後、「こういう拮抗した試合で、セットプレーで点が取れるとチームはすごく楽になる。前半からシュートも打てていましたし、入りそうだなという感覚はあった」と、日本にとって“いい流れ”の時間帯で追いつけたことは大きかった。
試合はここからさらにヒートアップ。時折、同点とされた焦りからか、ウズベキスタンが熱くなる場面が見受けられたが、日本は冷静に対応していた。相手に付き合わず、自分たちのやるべきことをやる。次の1点は日本に転ぶような空気感だった。
そして30分、この試合の決勝点が生まれた。
左サイドのコーナーキックから、キッカーの石田健太郎から同ラインでパスを受けた上村充哉が足の裏でリターンパス。これを石田がダイレクトで中に蹴り込むと、ファーで待ち構えた金澤空が押し込んだ。これは、サッカー指導者の中西哲生氏が定義したとされる「シビアゴール」だ。先制弾、同点弾、逆転弾、勝ち越し弾など、勝敗を左右する“より重要”とされる得点のカテゴライズであり、金澤は準々決勝・インドネシア戦の0-1からの同点弾に続いて、2試合連続でシビアゴールを奪ったのだ。
金澤は今大会初戦、サウジアラビア戦でも同じような形のフィニッシュをミートできずに外していた。金澤は試合後、そのシーンを踏まえてこう話した。
「選手の配置は話していましたが、その先は相手を見ながら決めました。充哉が足の裏でポンと落とした瞬間に僕のところが空いたので、健太郎くんが素晴らしいパスをくれて。サウジアラビア戦で外したシーンがよぎったので、めちゃくちゃていねいに蹴りました(笑)。ボールだけを見て、当てることだけを考えて。入って良かった」
悔しさ、不甲斐なさを噛み締め、二度と同じミスをしないと誓った、金澤のゴール。チームが苦しい時間帯に決めたゴールは、金澤の成長の証だった。
フットサルにおけるセットプレーは、試合の流れに関係なく得点できるという点でも重要だ。決勝進出をかけた大一番で、“日本の武器”を改めて見せつけたと言える。
木暮賢一郎監督は試合後、「1点目はハーフタイムに(あの形を)「狙える」と話をしたもの。2点目は実は、ベトナム戦のために用意したものでした。それをウズベキスタン戦でうまく使ってくれた」と明かしたが、まさにしてやったり。豊富なバリエーションがあり、繰り返しトレーニングを重ね、なおかつ戦況に応じた使い分けができる。重要な一戦で日本は「セットプレーの脅威」を相手に存分に示していた。
2人で一つのゴールを守ったダブル守護神
(C)AFC
31分にアクシデントが起きた。体を張って再三のピンチを防いできた守護神ピレス・イゴールが足を痛めピッチに座り込んでしまったのだ。プレーを続けることができず、ゴレイロは急遽、黒本ギレルメと交代することになった。
ゴレイロというポジションは通常、フィールドプレーヤーと異なり、戦術的な理由やケガがない限り頻繁に交代することがないポジションだ。しかも、試合の途中からピッチに入るのは簡単ではない。ピッチに立っていないと、ゲームのテンションや試合のリズムをつかむのが簡単ではないからだ。ましてや準決勝という大舞台で2-1とリードし、絶対に失点できない状況での出場だった。
黒本は今大会、初戦のサウジアラビア戦を先発フル出場したが、その後の3試合はイゴールがフル出場していたため、試合勘には多少の心配があった。
しかし、それは杞憂に終わる。黒本のパフォーマンスは本当に素晴らしかった。落ち着いて試合に入り、好セーブを連発。終盤にはウズベキスタンがパワープレーから何度も日本ゴールに襲いかかったが、ゴールを割らせなかった。残り25秒には、ウズベキスタンの超決定機を、黒本が2度のビックセーブで防いでみせた。
結果的に、黒本は失点を許すことなく試合を終わらせた。準決勝の日本のゴールマウスを守ったのはまさに“2人のゴレイロ”だった。試合後、黒本はイゴールと、そして内山慶太郎GKコーチと3人で熱い抱擁を交わしたが、その姿が彼らの絆の強さを物語っている。黒本は試合後にこう話した。
「(途中出場することになって)マジで? 今? と思った(笑)。イゴールも素晴らしかったし。でも、出るか出ないかは関係なく準備していました。しっかり勝ってよかったです。イゴールがどういう状態かはわからないですけど、(決勝で)もしもスタメンじゃなかったとしてもサポートをします。一番大事なのは優勝すること」
彼らには固い”絆”がある。イゴールはベトナム戦後に「ピッチに立っているGKだけじゃなくて、グループとしてゴールを守っています。クロだけじゃなく、(サポートメンバーとして帯同している)コウセイ(井戸孔晟)を含めてです」と語ったように、内山GKコーチを含むゴレイロ陣が、日本のゴールを守っている。
準決勝までの全試合で、ゴレイロ陣の活躍なくして決勝進出はありえなかった。
決勝進出の要因は「一体感」と「2ndセット」
(C)AFC
初戦のサウジアラビア戦を終え、不安を抱いたファンも多いだろう。筆者もその一人だ。監督や選手が代わっても、日本が優勝候補であることに変わりはない。
木暮監督は準決勝の前日インタビューで「アジアカップの歴史においてタイトルを獲ったことがあるのはイランと日本だけです。そうしたものは選手や監督が変わっても受け継がれていくべきものだと思っています」と語ったように、代表チームが移り変わったとしても、アジアの立ち位置を守り続けなければならない使命がある。
だからこそ、初戦の敗戦を受けて、たくさんの人が落胆した。
しかし、敗戦を糧に成長を続け、日本は決勝までたどり着いた。もしかしたら、あの“サウジアラビア戦の敗戦”がなければ、勝ち上がれなかったかもしれない。
第2戦から大きく変わったことがある。それは「一体感」が増したことだ。初戦時点で一体感が薄かったわけではない。崖っぷちに追い込まれて“増した”のだ。ゴール後に、得点者が真っ先にベンチに向かって走っていく姿がそれを象徴していた。
筆者がこれまで何度も繰り返し伝えてきたように、アジアカップで優勝するには「一体感」が不可欠だ。今の日本にはそれがあり、大きな武器になっている。
そして、もう一つ。
開幕当初から不安視されていたのは、良くも悪くも名古屋オーシャンズのメンバーが中心となる「1stセット頼み」だったということだ。初戦から出場時間が長く、韓国戦の第1ピリオドまでは、スコアを動かしていたのも1stセットだった。
しかし、韓国戦の第2ピリオドから変わった。
2ndセットが躍動を始め、スコアを動かすようになった。石田と金澤のゴール、そして、ベトナム戦で奪った清水和也の2ゴール。準々決勝で同点弾を決め、準決勝でも決勝弾を放ったのは金澤であり、いずれも2ndセットで奪ったゴールだった。彼らの活躍なくして、日本は決勝へと勝ち進むことができなかっただろう。
ついに日本は決勝まで上り詰めた。王座を懸ける相手は、当然のようにイランに決まった。圧倒的な強さで危なげなく、全試合で完勝を収めた。死角は見当たらない。だが、心配はない。2014年大会がそうだったように、試合はやってみないとわからない。3大会ぶり4度目のトロフィーを掲げる姿を、日本中が期待している。
文=渡邉 知晃(わたなべ・ともあき)
1986年4月29日生まれ。福島県出身。小学2年生からサッカーを始め、順天堂大2年時にフットサルに転向。BOTSWANA FC MEGURO、ステラミーゴいわて花巻、名古屋オーシャンズ、立川・府中アスレティックFC、大連元朝足蹴倶楽部(中国)でプレー。日本代表として国際Aマッチ59試合出場・20得点、Fリーグ2017-2018シーズン得点王(45得点)、通算323試合出場・201得点など数々の実績を残し、2020-2021シーズン限りで現役を引退。子供への指導のかたわら、フットボールライターとして執筆業にも挑戦中。
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