ヘビー級3団体統一王者、AJことアンソニー・ジョシュア(イギリス)が日本時間26日、ロンドンのトッテナム・ホットスパー・スタジアムで防衛戦を行う。挑戦者は元クルーザー級4団体統一王者のオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)。目前に迫ったビッグマッチの行方を占ってみよう。
まずはこの試合が実現するまでに経緯を少し説明しておきたい。主要4団体のうちWBA、IBF、WBOと3本のベルトを腰に巻くジョシュアは19年、アンディ・ルイス(アメリカ)にまさかのプロ初黒星という悪夢を乗り越え、ダイレクトリマッチで3本のベルトを取り戻した。そして昨年からは最大のライバルである同胞のWBC王者、タイソン・フューリーとの4団体統一戦がクローズアップされてきた。
フューリーとジョシュアの一戦は、現在のボクシング界で最大級のメガファイトだ。もし実現すればサッカー・スタジアムが8万、9万の観衆であふれかえり、ファイトマネーは日本円でウン十億円、ひょっとするともう一つゼロが増えることもあり得るだろう。
ファンも関係者も大いに期待したビッグマッチは、フューリーが前WBC王者のデオンテイ・ワイルダー(アメリカ)との第3戦を迫られてひとまずお預けに。こうしてジョシュアはWBO指名挑戦者のウシクと防衛戦を行うことになったのだ。
このように説明するとAJにとって、ウシク戦はフューリーとのビッグマッチに向けた“前哨戦”という印象を与えてしまうかもしれないが、そうイメージするのはちょっと待ってほしい。ウシクはジョシュアと同じロンドン五輪金メダリスト(ウシクはヘビー級、ジョシュアはスーパー・ヘビー級)であり、プロではヘビー級の一つ下のクルーザー級で4団体を制覇して“比類なきチャンピオン”に輝いた選手なのである。
もう少し挑戦者の説明をしよう。ロンドン五輪後にプロに転向したウシクは母国でキャリアを積み、WBOクルーザー級王者になってからアメリカに進出。その後、井上尚弥(大橋)が出場して日本でも話題になったトーナメント戦、WBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)に出場し、他団体のチャンピオンを次々に撃破してクルーザー級の4冠を獲得した。これにより一気に名声は高まり、その後は4つのベルトをすべて手放して2019年にヘビー級に進出。2年かけて目標とするヘビー級のチャンピオンシップに駒を進めたというわけだ。
ウシクはサウスポーの万能型で、ジャブを軸にパンチのバリエーションが多く、アングルや相手との距離を変えるポジショニングもうまい。アマチュア時代から培ったテクニックはエキスパートをうならせるものがあり、スキルではジョシュアを上回るという声が少なからずある。挑戦者としては間違いなくAクラスと言えるだろう。
ならばAJ危うし!かと言えば、話はそう簡単ではない。ウシクが素晴らしい選手であったとしても、今回の試合が体重無制限のヘビー級。身長198センチのジョシュアは身長でウシクを8センチほど上回り、体重でも10キロ程度のアドバンテージがある。パワーではジョシュアが絶対的に有利だ。しかもこの王者は決して鈍重ではなく、ヘビー級ではトップクラスのスピードとフットワークを有しているのである。
イギリスのブックメーカーが出しているオッズをチェックしてみても、ジョシュアの有利は動かない。クルーザー級からヘビー級を制したイギリスの元世界王者、デビッド・ヘイは「6ラウンド以内に終わる」とジョシュアのKO勝ちを予想した。
確かにジョシュアが序盤からグイグイと圧力をかけ、自慢の右ストレートを炸裂させて試合が終わるという展開は大いにあるだろう。ただしウシクが前半をうまく乗り切り、試合が長引けばどうなるか。中盤から終盤にかけてウシクの動きにジョシュアが翻弄されて失速──というチャンピオンにとって最悪のシナリオも十分に考えられる。ウシクはまさにそこを狙っていくだろう。
この試合の2週間後、アメリカでフューリーとワイルダーが第3戦を行う。有利と言われるフューリーが勝利すれば、当然ジョシュアとの英国対決が再びクローズアップされる。もしウシクが勝つようならフューリーvs.ウシクというカードも話題を呼ぶに違いない。はたしてジョシュアが予想通りの強さを見せるのか、ウシクがテクニックでアップセットを起こすのか。ヘビー級の今後を占う一番は間もなくゴングが鳴る。
文・渋谷淳(しぶや・じゅん)
1971年生まれ、東京都出身。慶應義塾大卒。新聞社勤務をへて独立し、現在はボクシングを中心にスポーツ総合誌「Number」などに執筆。著書「慶応ラグビー 魂の復活」(講談社)。ボクシング・ビート誌のウェブサイト「ボクシングニュース」、会員制有料スポーツサイト「SPOAL(スポール)」の編集にも力を注いでいる。
アンソニー・ジョシュア データと対戦記録
- 国籍: イングランド
- 生年月日: 1989年10月15日
- 身長: 198.1 cm
- リーチ: 208.3 cm
- 全対戦数: 25試合
- 対戦記録: 24勝1敗(22KO)
オレクサンドル・ウシク データと対戦記録
- 国籍: ウクライナ
- 生年月日: 1987年6月17日
- 身長: 190.5 cm
- リーチ: 198.12 cm
- 全対戦数: 18試合
- 対戦記録: 18勝0敗(13KO)
アンソニー・ジョシュア vs オレクサンドル・ウシク 全対戦カード
- アンソニー・ジョシュア vs オレクサンドル・ウシク: ジョシュアのWBA, WBO, IBOヘビー級王座防衛戦
- ローレンス・オコリー vs ディラン・プラショヴィチ: オコリーのWBOクルーザー級王座防衛戦
- カラム・スミス vs レーニン・カスティージョ: ライトヘビー級
- マキシム・プロダン vs フロリアン・マルク: プロダンのIBFウェルター級インターナショナル王座防衛戦
- クリストファー・オーズリー vs クーセイン・バイサングロフ: WBAミドル級インターコンチネンタル王者決定戦
- キャンベル・ハットン vs イサン・ドゥラ: ライト級
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ボクシング 配信予定 | DAZN番組表
9月23日(木) 21:00 | ジョシュア vs.ウシク | 記者会見 |
9月24日(金) 21:00 | ジョシュア vs.ウシク | 前日計量 |
9月26日(日) 02:00 | ジョシュア vs.ウシク | WBA・IBF・WBO世界ヘビー級王座統一戦 |
10月2日(土) 02:30 | スカルディナ vs.ドーベルシュタイン | WBOインターコンチネンタルSミドル級王座決定戦 |
※配信予定、及び出場選手は変更になる場合あり
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