輝きと信頼を取り戻す一戦に
ヘビー級3冠戦がいよいよ12日(日本時間13日)、イギリスはロンドンSSEアリーナでゴングとなる。WBAスーパー、IBF、WBOの3本のベルトを腰に巻く王者のアンソニー・ジョシュアが挑戦者のクブラト・プレフを迎え撃つ一戦だ。
激戦のヘビー級でメジャー4団体のうち3団体を制しているのがジョシュアだ。ロンドン五輪スーパー・ヘビー級金メダリストから鳴り物入りでプロデビューすると、身長198センチの恵まれた体格とアマチュアで培った確かな技術で連勝街道をばく進。プロ16戦目の2016年4月にIBF王座を獲得して世界チャンピオンとなった。
イギリスで“AJ”の人気はたちまち高まり、翌年には元統一王者のウラジミール・クリチコと対戦。この試合はサッカーで有名なウェンブリー・シタジアムに9万人の観衆を集め、ダウン応酬の激闘の末に“AJ”が11回TKO勝ち。名実ともにジョシュアがスーパースターに上り詰めた瞬間だった。
18年にはWBO王者だったジョセフ・パーカーのベルトも奪い、ついにメジャー4団体のうち3団体のベルトを集中に収める。そんなイケイケのスーパースターに落とし穴が待っていようとはだれが想像しただろうか。
ここまで23戦して23勝21KOのジョシュアは19年6月、初めてアメリカのリングに乗り込み、伏兵のアンディ・ルイスJrと対戦した。圧倒的有利が予想され、派手な米国デビューが期待される中、ジョシュアはなんと7回TKO負けで足元をすくわれてしまったのである。これは世紀の番狂わせと騒がれ、ジョシュア神話が一気に崩壊する事態となった。
同年12月、ジョシュアはルイスとのダイレクトリマッチで雪辱を果たし、ベルトを取り戻した。しかし、安全運転とも言える慎重な試合運びはかつてのジョシュアを知る者からすれば物足りなかったろう。あれから1年、ジョシュアが再び輝きと信頼を取り戻そうというのが今回のプレフ戦なのだ。
ルイス戦の敗北を「あのときはたった2発のコンビネーションを打って息が上がってしまった」と振り返るジョシュアはサンドバッグを休みなく10分間打ち続けるトレーニングなどでスタミナを強化。さらにはフェイントや頭の動かし方をより意識してディフェンスを磨き、破壊力のある一発だけに頼らず、コンビネーションで相手を崩す術を徹底して身につけたという。
いわばルイスとの2試合とコロナパンデミックはジョシュアに生まれ変わる機会を与えたと言えるかもしれない。連勝街道をひた走っていたころのジョシュアに自らのボクシングを省みる余裕はなく、知らぬ間に綻びが生じていたということだろう。
今回の試合で悪かった流れを完全に断ち切り、いい形で2021年につなげようとジョシュアは考えている。というのも2021年には同胞のWBC王者、現在ヘビー級で最強の呼び声高いタイソン・フューリーや、フューリーに初黒星を喫した前WBC王者のデオンテイ・ワイルダー、さらには1階級下のクルーザー級で4団体統一をはたしたオレクサンドル・ウシクらビッグネームとの試合が計画されているからだ。
IBFで1位にランキングされるプレフは元北京五輪ブルガリア代表で、39歳のベテラン。これまでの戦績は29戦28勝21KO1敗で、唯一の敗北は2014年に3冠王者だったクリチコに挑戦した試合だ。その後、しぶとくトップ戦線で生き残り、6年ぶりに世界挑戦のチャンスをつかんだのだからこの試合にかける思いは強いだろう。
そうしたプレフのキャリアは十分に認めた上で、総合力で上回る31歳の王者の優位は動かない、というのが大方の見方だ。ジャブからしっかり組み立て、得意の右強打につなぐことができればKO勝利も十分にあり得る。
ジョシュアとしては格の違いを見せつける試合をしてライバルとファンに実力をアピールしたいところ。ベテラン実力者のプレフをしっかり突き放せば、白熱が予想される来年のヘビー級戦線への期待がさらに高まるだろう。
文・渋谷淳(しぶや・じゅん)
1971年生まれ、東京都出身。慶應義塾大卒。新聞社勤務をへて独立し、現在はボクシングを中心にスポーツ総合誌「Number」などに執筆。著書「慶応ラグビー 魂の復活」(講談社)。ボクシング・ビート誌のウェブサイト「ボクシングニュース」、会員制有料スポーツサイト「SPOAL(スポール)」の編集にも力を注いでいる。
アンソニー・ジョシュアの戦績
- 国籍:イングランド
- 出身地:ワトフォード
- 生年月日:1989年10月15日
- 身長:198cm
- リーチ:208cm
- 試合数:24
- レコード:23-1、21KO
クブラト・プレフの戦績
- 国籍:ブルガリア
- 出身地:ソフィア
- 生年月日:1981年5月4日
- 身長:194cm
- リーチ:202cm
- 試合数:29
- レコード:28-1、14KO
ジョシュア vs. プレフのフルカード
- アンソニー・ジョシュアvs.クブラト・プレフ
- ローレンス・オコーリーvs.クシシュトフ・グロワッキ
- ヒューイー・フューリーvs.マリウシュ・ヴァハ
- マーティン・バコールvs.セルゲイ・クズミン
- スレイマン・ディオプホvs.キーロン・コンウェイ
ボクシング 配信予定 | DAZN番組表
日時(日本時間) | カード | 詳細 |
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12月13日(日) 03:00 | アンソニー・ジョシュア vs.クブラト・プレフ | WBAスーパー、IBF、WBO世界ヘビー級タイトルマッチ |
12月19日(土) 08:00 | ゲンナディ・ゴロフキン vs.カミル・シェルメタ | IBF世界ミドル級タイトルマッチ |
12月20日(日) 10:00 | サウル・アルバレス vs.カラム・スミス | WBA世界スーパーミドル級王座統一選 |
1月3日(日) 09:00 | ライアン・ガルシア vs.ルーク・キャンベル | WBC世界ライト級次期挑戦者決定戦 |
※配信予定、及び出場選手は変更になる場合あり
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