スーパー・ミドル級の4団体統一王者、サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)が7日(日本時間8日)、米ラスベガスのT-モバイル・アリーナで、WBAライト・ヘビー級スーパー王者のディミトリ・ビボルに挑戦する。ボクシング界を牽引するスーパー・スターが新たな野望に向かって大きな一歩を踏み出した。
昨年1年でスーパー・ミドル級王座の4団体統一を成し遂げたカネロ。常々「歴史を作りたい。新しいチャレンジがしたい」と口にするスーパー・スターが次なるターゲットに定めたのがライト・ヘビー級だ。対戦相手には19戦19勝11KOの無敗王者、ビボルを指名した。
もともとスーパー・ウェルター級で世界王者となり、ミドル級でもベルトを手にしたカネロがいきなり2階級アップしてライト・ヘビー級にチャレンジしたのが2019年11月のこと。さすがに2階級アップは厳しいとの声が挙がる中、カネロは強打のWBO王者、セルゲイ“クラッシャー”コバレフに11回KO勝ちして世界をあっと驚かせた。
カネロはこの王座をすぐに返上し、1階級下げてスーパー・ミドル級のベルト制覇に舵を切った。4団体統一成功は既に述べた通りだが、カネロがその試合内容でさらに強化を高めたことも書き留めておくべきだろう。
まずは20年12月、WBAとWBC王座を獲得したカラム・スミス(英)戦だ。スミスは身長190センチの無敗王者。173センチのカネロは距離を詰めるのに苦労するとの予想に反し、体格差をものともせずにスピードとテクニックで試合をコントロール。大差判定勝ちで難なく最初のベルトを手にしてみせた。
翌年5月にはサウスポーの技巧派、WBO王者のビリー・ジョー・サンダース(英)に8回終了TKO勝ち。11月にはこちらもテクニックが売りのIBF王者カレブ・プラント(米)を11回TKOで退ける。すべて違ったタイプに勝ちきる強さはパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキング1位にふさわしい戦いぶりだった。
そんなPFPキングの挑戦を受けて立つビボルは、WBA王座を8度防衛している安定チャンピオンだ。しっかりガードを固め、脚を使いながらジャブを突き、ワンツー主体の攻撃というオーソドックスなボクシングを身上としている。ここ6試合は連続して判定決着という結果が示すように、派手でパワフルな印象はなく、基本に忠実なレベルの高い実力派と言えるだろう。
試合の予想はやはり実績で上回るオールラウンダー、カネロの優位に傾く。身長183センチのビボルは体格で優位に立つが、カネロはこれまでにもスミスをはじめ、大型選手とは豊富な対戦経験を誇っている。ビボルは武器であるジャブとフットワークで距離をキープしながら戦おうとするだろう。しかしカネロのプレスのかけ方、崩し方は実に巧妙で、ビボルがやすやすと自分のボクシングができるとは思えない。
ビボルが距離をキープし続けても勝機はないと考え、思い切ってリスクを犯すスタイルで勝負すれば試合はグッとスリリングな展開になるはずだ。ただし、その場合は多彩なアングルから攻撃を繰り出すカネロのパワーパンチの餌食になる危険性は高まる。このような状況でビボルがどのようなスタイルを選択するのか、どのようにしてカネロに食い下がるのか。そこがこの試合の見どころと言えるだろう。
カネロが勝利するという前提に立つと、やはり気になるのは今後のことだ。正式なアナウンスはないものの、アメリカのメディアはカネロが9月にWBAスーパー&IBFミドル級王者、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との第3戦に臨むと報じている。
カネロとゴロフキンはこれまで2度対戦し、17年9月の第1戦がドロー、1年後の第2戦はカネロの判定勝ちだった。2試合ともクロスファイトであり、第3戦が早い段階から期待された。とろこが両陣営の間でなかなか折り合いがつかず、ファン待望のラバーマッチはお預け状態となってきた。
ご存知のようにゴロフキンはこの4月、日本でWBAミドル級スーパー王者だった村田諒太(帝拳)を9回TKOで下し、40歳にして健在ぶりをアピールした。クラスを上げてスーパー・ミドル級でカネロと対戦する条件もノープロブレムとしており、第3戦のお膳立ては既にそろっている。
そしてカネロは「2つの階級で比類なきチャンピオンになるというアイデアはいいと思う」とも語っており、ライト・ヘビー級でのベルト統一にも興味を示している。ゴロフキンとの完全決着戦に勝利したあとは、史上初となる2階級4団体制覇に大きく足を踏み出す。そんなシナリオが現実味を帯びている。
ライト・ヘビー級は17戦全KO勝利のアルツール・ベテルビエフがIBFとWBC王座を保持し、6月にWBO王者ジョー・スミスJr(米)との3団体統一戦が発表された。つまりこの試合の勝者とビボルを倒したカネロが対戦すれば一気に4団体統一戦が実現することになる。カネロの言う「新たな歴史」がまたひとつ刻まれるのだ。
ビボル戦の先に描かれている青写真はカネロのモチベーションを大いに高めていることだろう。そのためにも重要となるのがビボル戦になる。ボクシング界のキング・オブ・キングス、カネロの戦いぶりを存分に堪能したい。
文・渋谷淳(しぶや・じゅん)
1971年生まれ、東京都出身。慶應義塾大卒。新聞社勤務をへて独立し、現在はボクシングを中心にスポーツ総合誌「Number」などに執筆。著書「慶応ラグビー 魂の復活」(講談社)。ボクシング・ビート誌のウェブサイト「ボクシングニュース」、会員制有料スポーツサイト「SPOAL(スポール)」の編集にも力を注いでいる。
サウル"カネロ"アルバレス データと戦績
- 国籍: メキシコ
- 生年月日: 1990年7月18日
- 身長: 172.7 cm
- リーチ: 179.1 cm
- 総試合数: 60試合
- 戦績: 57勝1敗2分(39KO)
ディミトリー・ビボル データと戦績
- 生年月日: 1990年12月18日
- 身長: 182.9 cm
- リーチ: 182.9 cm
- 総試合数: 19試合
- 戦績: 19勝0敗(11KO)
カネロ vs ビボル 全対戦カード
- サウル"カネロ"アルバレス vs ディミトリー・ビボル: ビボルのWBAライトヘビー級王座防衛戦
- フィリップ・フルゴビッチ vs 張志磊: ヘビー級
- モンタナ・ラブ vs ガブリエル・ゴラス・バレンズエラ: スーパーライト級
- シャフラム・ギヤソフ vs クリスティアン・ゴメス: ウェルター級
- ホセリート・ベラスケス vs ホセ・ソト: フライ級
- アレクシス・エスピノ vs アーロン・シルバ: ミドル級
- マーク・カストロ vs ペドロ・ビセンテ・シャルバーイ: ライト級
- エルヌル・アブドゥライモフ vs マヌエル・コレア: スーパーフェザー級
- フェルナンド・アンヘル・モリーナ vs リカルド・バルドビノス: スーパーライト級
ボクシング 配信予定 | DAZN番組表
日時(日本時間) | カード | 詳細 |
---|---|---|
5月8日(日) 9:00 | カネロ vs.ビボル | WBA世界ライトヘビー級タイトル戦 |
5月13日(金) 9:00 | アコスタ vs.リベラ | スーパーフライ級10回戦 |
※配信予定、及び出場選手は変更になる場合あり
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