IBF世界スーパーフェザー級タイトルマッチが4日(日本時間5日)、英ウェールズ・カーディフのモーターポイント・アリーナで行われ、チャンピオンの尾川堅一(帝拳)は挑戦者3位のジョー・コルディナ(イギリス)に2回1分15秒KO負け。昨年11月に獲得した王座の初防衛に失敗した。
海外のファンに自分の力をアピールする──。そう意気込んでイギリスに乗り込んだ尾川の野望がカーディフの夜に散った。挑戦者の地元にセットされた試合は完全アウェー。コルディナに大声援が送られ、日本から来た王者にブーイングが飛ぶ中、尾川の顔には笑みすら浮かんでいた。ところが、試合後に明かした心境は「のまれた」だった。ふてぶてしく見えたのは外見だけで、実際のところ余裕はなかった。
それでも立ち上がりの尾川の動きは決して悪くなかった。コルディナの鋭いジャブをもらったシーンはあったが、相手はジャブのうまいオリンピアンだからこれは折り込み済み。自らもジャブ、左フックを当て、さらにはワンツーを立て続けに打ち込むと、挑戦者は警戒心を高めたように見えた。尾川の「僕の怖さをまず見せる」という目的は十分にはたしたように思えた。
ジャッジ3人のうち2人が初回を尾川のラウンドと採点したから、やはりチャンピオンの立ち上がりは悪くなかったと言える。ただし、本来のスピードに乗り切れていなかったのは確かで、尾川は「動きが硬い。何か変化をつけなければいけない」と感じた。そこでガードを上げたり、下げたりして相手を誘おうと考えた。その矢先に悪夢のクライマックスは訪れたのである。
2回、尾川が変化をつけようとガードを下げた瞬間、コルディナの右がジャストタイミングでアゴに炸裂した。スローで見ると吸い込まれるように右を食らった王者はグシャリと音が聞こえてきそうな壮絶なダウンを喫する。大の字から起き上がろうと体を動かしたがダメージは深刻で、再びキャンバスに転がって10カウントを聞いた。
コルディナは年間KO賞候補とも言える鮮やかなノックアウト劇に興奮が収まらない。コーナーに駆け上がり、雄叫びを上げて世界タイトル獲得をアピールした。しばらくして起き上がった尾川はコルディナをしっかり祝福し、前チャンピオンらしい振る舞いでリングを下りた。
2017年12月、IBF王者のテビン・ファーマー(米)を下して一度は世界王者になったものの、身に覚えのないドーピング違反により無効試合と裁定された。あの“幻の王座獲得”から4年、昨年11月に再び世界タイトルマッチの舞台に立った尾川は涙の王座獲得を果たしたが、手にしたベルトをわずか半年あまりで手放すことになった。
尾川は所属ジムを通じて「アゴで倒れたのは初めてなので、これはもう自分の完全な負けです」、「今日モロに食らって倒れたので、ボクシング人生12年やって、年齢なのかもわからないですけど納得するところもあります。悔しいですけど」とコメントした。
幼少から日本拳法に打ち込み、プロボクサーに転じたのは大学を卒業してからだった。類い希な強打を持つ一方で、決して器用というわけではなく、努力に努力を重ねて全日本新人王、日本チャンピオンとひとつずつステップアップし、ついには世界チャンピオンにまで登り詰めた。アマチュア出身者が大勢を占める現在のボクシング界で独自の光を放ってきたボクサーだった。
イギリスで勝ってWBCとWBO王座を保持するスティーブン・フルトン(米)との3団体統一戦というビッグマッチにつなげる夢はこの敗戦で大きく後退した。必殺の右“クラッシュ・ライト”を武器に国内外で活躍してきた34歳はボクシング人生の大きな岐路に立たされた。
文・渋谷淳(しぶや・じゅん)
1971年生まれ、東京都出身。慶應義塾大卒。新聞社勤務をへて独立し、現在はボクシングを中心にスポーツ総合誌「Number」などに執筆。著書「慶応ラグビー 魂の復活」(講談社)。ボクシング・ビート誌のウェブサイト「ボクシングニュース」、会員制有料スポーツサイト「SPOAL(スポール)」の編集にも力を注いでいる。
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