ヘビー級3団体統一戦、王者オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)と前王者アンソニー・ジョシュア(英)のダイレクトリマッチが20日(日本時間21日)、サウジアラビア第2の都市、紅海に臨むジッダで開催される。第1戦でウシクが勝利し、世界をあっと驚かせてから11カ月。「紅海の猛威」とのキャッチフレーズがつけられたヘビー級ビッグファイトの行方を占ってみよう。
まずは昨年9月、両者が拳を交えた第1戦を振り返りたい。ロンドン五輪スーパーヘビー級金メダリストのAJことジョシュアは身長198センチ、体重108キロ。一方、同五輪ヘビー級金メダリストでウシクは身長190センチ、体重100キロ。体格差、そしてヘビー級での実績で上回るジョシュアの有利が予想されたが、蓋を開けてみればクルーザー級4団体統一王者からクラスをあげたウシクが持ち前のテクニックとスピードでジョシュアを翻弄。文句なしの判定勝ちで2階級制覇を達成したのである。
これはAJにとっては実に手痛い敗北だった。母国のオリンピックで金メダルを獲得し、鳴り物入りでプロ入りしたジョシュアは期待にこたえて無敗のまま世界チャンピオンに輝いた。スター街道をひた走る中で18年に伏兵アンディ・ルイスJr(米)に苦杯をなめたのが唯一のつまずきだが、奇しくも今回と同じサウジアラビアで雪辱し、何とかベルトは取り戻した。
しかし、前回のウシク戦の敗北はルイス戦以上にダメージが大きかったと言えるだろう。フルラウンド戦っての判定負けは、ルイス戦のように“ポカ”というエクスキューズが許されない内容だったからだ。事実、メディアによるリマッチの勝利予想はウシクに傾いている。
もし、ジョシュアが世界戦2連敗となれば、「もうAJの時代は終わった」とさえ言われかねない。イギリスのスーパースターにとって今回の試合はまさに背水の陣。本人も自覚十分で、記者会見では「絶対に勝たなくてはいけない試合」と強調した。
強い危機感は言葉だけでなく、行動にも表れている。その最たるものがトレーナーの変更で、新たにアメリカのチャンピオンメーカー、ロバート・ガルシア氏とタッグを組んだ。ガルシア氏はメディアに対し「アンソニーは初戦で間違いを犯した。でも今、彼は違った人間になっている」と語っており、AJの“改造”に自信を見せている。
ロシアが母国ウクライナに侵攻したことで、一時は領土防衛隊に入って銃を手にしたウシクは、その後ジョシュアとのリマッチに向けてトレーニングを再開。海外のメディアからは、「ますますパワーアップしている」、「身長2メートル級のパートナーを何人もつぶしている」などなど、充実ぶりをうかがわせるニュースが続々と届けられた。
言うまでもなく、ウシクの自信のよりどころは危ないシーンのなかった第1戦の内容だ。今回も前回と同じようにこまめにポジションをずらし、相手に的を絞らせないボクシングでジョシュアの強打を封じにかかるだろう。集中力さえ切らさず、前半にリードを奪えば、そのまま最終ラウンドまで試合を支配できる。そう考えているとみて間違いない。
変更と工夫が求められるのはジョシュアだ。初戦では攻めあぐねるシーン、パンチを出そうとしても打ち込めないシーンが目立った。そのあたりの対策をガルシア氏とどのように練り直したのか。同氏が指摘するようにアドバンテージである身長差、リーチ差、体重差、パワー差をいかに出せるかがポイントになる。爆発力は断然ジョシュアだ。もしロックオンに成功すれば、ウクライナの王者がキャンバスにバッタリと倒れる衝撃のシーンを世界は目にすることになるだろう。
ボクシングの歴史は世界タイトルマッチのリベンジがとても難しいことを私たちに教えてくれる。五輪金メダリストのプライドと、大英帝国の威信を背負うAJがどのような巻き返しを見せ、歴史に名を残すのか。“紅海の猛威”に世界から視線が集まる。
文・渋谷淳(しぶや・じゅん)
1971年生まれ、東京都出身。慶應義塾大卒。新聞社勤務をへて独立し、現在はボクシングを中心にスポーツ総合誌「Number」などに執筆。著書「慶応ラグビー 魂の復活」(講談社)。ボクシング・ビート誌のウェブサイト「ボクシングニュース」、会員制有料スポーツサイト「SPOAL(スポール)」の編集にも力を注いでいる。
ボクシング 配信予定 | DAZN番組表
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8月21日(日) 2:00 | ウシク vs.ジョシュア | ヘビー級3団体統一タイトルマッチ |
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