文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
通常日程のロシアGP
F1第10戦はロシアGP。前年の開催カレンダー(2019年9月27日~29日)とほぼ同様な秋開催になりました。開催コースのソチ・オートドロームは2014年冬季オリンピックのメイン会場。会場設計計画の段階で、すでにサーキットも入れられていたというコースです。
コースは、三つの区間のうち、最初の二つの区間は長いストレートや通過速度が速いコーナーがあり、ウイングをやや寝かして空気抵抗をやや減らしたいところ。
ところが最後の区間は通過速度が遅い直角のコーナーが多く、空気抵抗が増えてもウイングを立てることでダウンフォースを増やし、車体とタイヤを路面に押し付けたい区間となります。
このように、相反するコース特性に最適なセットを見つけたものが有利となるコースです。
ハミルトンとメルセデスの失敗
そんなソチのコースを得意とするのはメルセデスチーム。2014年の初開催から毎年すべて優勝してきています。今年も、メルセデス勢の優位は変わりませんでした。
金曜日のフリー走行では、バルテリ・ボッタスがトップ。土曜日になるとフリー走行からルイス・ハミルトンが優勢。ハミルトンは「F1LAB#10」で紹介したように、予選Q2を通過できなくなりそうな危ない場面もありましたが、なんとか通過。
Q3ではポールポジションを獲得。これでミハエル・シューマッハーの生涯通算91勝のF1最多優勝記録に並ぶチャンスを得ました。
ところが決勝前にハミルトンとメルセデスチームは手痛い失敗をしてしまいました。
決勝前、ピットからスターティンググリッドに向かう際に、ドライバーたちはスタート練習をよく行います。ただ、このスタート練習のしかたと場所については、木曜日の段階でレースディレクターから全参加者(チームとドライバー)に向けた「レースノート」という書類で共有されていました。
さらに、改訂バージョンではピットレーンの走路上ではスタート練習を含む停車禁止も通達されていました。これらの指示や通達には、絶対に従わなければいけないとルールで決められています。
全車は指示された場所でスタート練習をしましたが、そこの路面にはタイヤのゴムが乗って、実際のスタート位置と路面の状態が異なってしまいます。そこで、ハミルトンは、通達で禁止されていたピットレーン出口でスタート練習を2度してしまいました。ハミルトンはチームにも無線で確認し、チームもそこで練習して良いという趣旨の返信をしたための、ダブルエラーでした。
その結果、1回の練習につき5秒のタイムペナルティ(ピットで5秒停止かレース後のタイムに5秒加算)を2回で、ハミルトンには合計10秒のタイムペナルティが科されてしまいました。
スタートからトップを走っていたハミルトンは、ピットストップの際に10秒停車を選び、これで優勝争いから脱落。頑張って追い上げましたが、3位が精いっぱいでした。
ハミルトンのペナルティのあとトップになったボッタスは、他を寄せ付けない圧倒的なハイペースで快走。2位のマックス・フェルスタッペンに大差をつけたあとは、フェルスタッペンのペースとタイム差をうかがいながら、マシンとタイヤをいたわる走行で優勝しました。これでボッタスは今季2勝目。ハミルトンとのポイント差を縮めて、チャンピオン争いに踏みとどまりました。
ホンダ勢4台の入賞
2位はレッドブルのフェルスタッペンでした。ボッタスには追い付けませんでしたが、3位のハミルトン以降には15秒以上の大差をつけてのゴール。
イタリアGP、トスカーナGPとホンダのパワーユニットのトラブルに苦しんだフェルスタッペンでしたが、ホンダが中一週の間にトラブルを解決して、ふたたびパワーを与えてきたのでした。
冒頭で記したように高速と低速の相反する特性を求めるソチのコースでもホンダ勢は好調で、アルファタウリのダニール・クビアトとピエール・ガスリーがそれぞれ8位と9位。クビアトは地元のロシアGPで金曜日のフリー走行からいつも以上の頑張りと速さを見せていました。
レッドブルのアレクサンダー・アルボンも10位となり、ホンダのパワーユニットを搭載した4台全車が入賞しました。これは、昨年のモナコGP以来の好結果でした。
ホンダにとって、パワーユニットでみるとメルセデスはまだ追いかける存在でも、フェラーリやルノーに対しては優勢に戦えたレースでした。
フェラーリの復調
今回のロシアGPはまた中団グループが激しい戦いでした。4位のセルジオ・ペレス(レーシングポイント)、5位ダニエル・リカルドと7位エステバン・オコン(ともにルノー)らが活躍。さらにその後ろでも熱いバトルがありました。
入賞ドライバーには、6位にフェラーリのチャールズ・ルクレールもいました。ずっとマシンの性能に苦しんできたフェラーリ勢でしたが、今回アップデート(改良部品)入れて、やや性能を持ち直しました。これが、ルクレールを6位に後押ししました。
フェラーリがやや復調したことで、マクラーレン、レーシングポイント、ルノー、フェラーリ、アルファタウリの戦いは以前にもまして熾烈になってきそうです。
次戦はニュルブルクリンクへ
より激しい戦いとなりつつあるF1は、中1週間を空けてアイフェルGPとなります。(10月11日決勝)。開催コースはドイツのニュルブルクリンクサーキット。
このサーキットでのF1開催は2013年以来。現代のマシンとタイヤにとっては未知への挑戦です。また、雨が多いコースなうえ、10月の現地の気候は寒いことも予想され、タイヤの使い方や戦略も難しくなりそうです。
だれが、状況に上手く対応して有利に戦えるのか?ここが最大の注目点です。
ニュルブルクリンクは1927年のサーキット開設以来、メルセデスの地元コースでした。ロシアでは勝利と失敗があったメルセデス。先達たちからの歴所と伝統を担う地元戦で、より完璧をめざしてくるでしょう。
しかし、大昔にスクーデリア・フェラーリがメルセデスのシルバーアローに大逆転を果たした歴史もあるところ。
さらに歴史を振り返ると、ニュルブルクリンクはホンダにとって1964年にF1デビューを果たした記念すべき場所でもあります。
数々の歴史を備え、80年代に生まれ変わった難コースでの戦い。どうぞお楽しみに。
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チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | オーストリアGP | 7月3日(金) ~ 4日(土) | 7月5日(日) |
第2戦 | シュタイアーマルクGP | 7月10日(金) ~11日(土) | 7月12日(日) |
第3戦 | ハンガリーGP | 7月17日(金) ~18日(土) | 7月19日(日) |
第4戦 | イギリスGP | 7月31日(金) ~ 8月1日(土) | 8月2日(日) |
第5戦 | 70周年記念GP | 8月7日(金) ~ 8日(土) | 8月9日(日) |
第6戦 | スペインGP | 8月14日(金) ~15日(土) | 8月16日(日) |
第7戦 | ベルギーGP | 8月28日(金) ~29日(土) | 8月30日(日) |
第8戦 | イタリアGP | 9月4日(金) ~ 5日(土) | 9月6日(日) |
第9戦 | トスカーナ・フェラーリ1000GP | 9月11日(金) ~12日(土) | 9月13日(日) |
第10戦 | ロシアGP | 9月25日(金) ~ 26日(土) | 9月27日(日) |
第11戦 | アイフェルGP | 10月9日(金) ~ 10日(土) | 10月11日(日) |
第12戦 | ポルトガルGP | 10月23日(金) ~24日(土) | 10月25日(日) |
第13戦 | エミリア・ロマーニャGP | 10月31日(土) | 11月1日(日) |
第14戦 | トルコGP | 11月13日(金) ~ 14日(土) | 11月15日(日) |
第15戦 | バーレーンGP | 11月27日(金) ~ 28日(土) | 11月29日(日) |
第16戦 | サクヒールGP | 12月4日(金) ~5日(土) | 12月6日(日) |
第17戦 | アブダビGP | 12月11日(金) ~ 12日(土) | 12月13日(日) |