文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
バーレーンで3日間のテストが終了
シーズン開幕前のテストが終わりました。例年はスペイン、カタルーニャサーキットで行われてきたF1の開幕前テストですが、今年は新型コロナウイルスの影響からバーレーン・インターナショナルサーキットに場所を移しました。
また、昨年は6日間あったテスト日程が、コスト削減の目的から3日間だけに制限されました。1日の走行は前半と後半、各4時間の8時間で、3日間の走行時間の合計は24時間だけに。
冬の寒さ、雨や雪が懸念される南ヨーロッパから、シーズン中の気候に近い暖かさ、雨の少ないバーレーンになり、チーム側にとってはより実戦的なテストを集中的に行えそうな状況でした。
ところが、初日は風がとても強く、後半の4時間は砂嵐のようになってしまい、路面に大量の砂が降ったことで路面がとても滑りやすくなってしまいました。これでは、マシンの性能を見きわめることができませんでした。2日目と3日目は、砂嵐は収まったものの、まだ風が強かったうえに風向きが変わりやすい状態。
おかげで、急に向きが変わった強めの風で車体が翻ろうされてしまって、スピンをしたり、性能をフルに出し切れなかったりする場面も散見されました。
今シーズンは、昨年の車両をもとに開発するというルールで、設計変更には一部制約がかかるルールでした。ですが、やはり独自開発の車両で戦うF1ならではで、大部分のチームがさまざまな進化と改良を加えたマシンを投入してきましたね。
そしてテスト2日目と3日目には、強風の中とはいえ各種のテスト項目をこなし、決勝レースを想定した長めの周回や、予選を想定した短めのアタックラップも実施できました。
なお、今回のテストには6種類のタイヤがピレリから供給され、最も硬いものから柔らかいものへ、C1、C2、C3、C3プロトタイプ、C4、C5というものでした。
好調だったレッドブル&アルファタウリ勢
3日間を通してのベストラップは、大部分が3日目後半のセッション、終了近くのタイミングで柔らか目のタイヤで出したもの。
そのなかで最速だったのはレッドブルのマックス・フェルスタッペンがC4タイヤで出した1分28秒960でした。
2番手はアルファタウリの角田裕毅がC5タイヤで1分29秒053でした。最も柔らかいC5タイヤだったとはいえ、ルーキーがトップから0.093秒差。中堅どころの一角であるアルファタウリで2番手タイムだったのは、大センセーションとなりましたね。
このほか、レッドブルに移籍してきたセルジオ・ペレスはC4タイヤで8番手、アルファタウリで昨年自身初優勝を記録したピエール・ガスリーはC5タイヤで11番手でした。ペレスとガスリーは、3日目前半の走行で路面温度が高いなど、タイムを出すには不利な条件下でした。
レッドブルのマシンRB16Bは、昨年のRB16に見られたリヤが急に不安定になりやすい傾向がやや収まったようで、昨年より落ち着いた動きとなっていたように見えます。
アルファタウリのAT02は昨年のAT01にも増して安定感がある走りで、強風のなかでも高速のS字コーナーの切り返しを、ガスリーも角田もとても速いペースで駆け抜けていました。
ホンダのパワーユニットRA621Hは好タイムにつながる高性能を発揮しながら、3日間で4人合わせて791周4280.892kmを走っても目立ったトラブルがないという高い信頼性を示す形に。
より接戦になりそうな期待
3日間締めくくりのベストタイムで見ると、1分30秒台に15人がひしめく状態で、今季はより接戦になりそうな様子でした。
昨年大苦戦だったフェラーリは、SF21というマシンになり運動性が良くなったように見えました。昨年パワー不足を指摘されていたパワーユニットは、ティーポ065/6に進化して、よりパワーを増したようでした。新加入のカルロス・サインツが3日目にC4タイヤで1分29秒611を出して3番手になるなど、フェラーリは速さを取り戻しつつあるようです。
昨年コンストラクターズランキングで3位になったマクラーレンは、パワーユニットがルノーからメルセデスに変わったことで、それに伴う車体側とギアボックスの変更で、大きな改良の許可項目数を使いきってしまうことに。
それでも、ボディ形状やウイングなどの空力部品は改良ができるため、そこに活路を見出そうとするように、積極的な空力テストを行っていました。チームに新加入のダニエル・リカルドは3日目にC4タイヤで7番手となるタイムを出しています。
ルノーを引き継いだアルピーヌは、昨年のマシンを大幅に改良したA521を投入。かつてルノーで2度チャンピオンとなったフェルナンド・アロンソがF1とチームに復帰し、3日目にC4タイヤで10番手になりました。このA521は前身のルノーのR.S.20をもとにしていますが、R.S.20は2019年のR.S.19とほぼ同じでした。つまり、2年前のマシンを改良しての参戦ですが、なかなか良いところに来ているのではないでしょうか。
去年は予選で下位になることが多かったアルファロメオとウィリアムズも好結果を出しています。
アルファロメオは3日目にキミ・ライコネンがC5タイヤで4番手タイムを出しました。マシンの進化とともに、ここでもフェラーリのパワーユニット性能が向上したとうかがえました。
ウィリアムズは最終日を担当したジョージ・ラッセルがC5タイヤで6番手タイムを出しました。FW43Bというマシンは、サイドポンツーンやエンジンカウルなど空力を中心に、大幅な改良が施されたと見た目でもわかるほど。
アルファロメオとウィリアムズがどこまで前進できるか、興味深いところです。
ちょっと心配な点も
一方、ちょっと心配なところもありました。
ハースは、今年のマシンVF21について昨年のVF20をもとにルール変更の対応をしただけとしています。そうしたのは、使えるリソース(人、資金、物)を大幅なルール変更となる、来年のマシン開発に充てるためとのことです。
そのため、公式テストのタイムもあまり良くありませんでした。しかし、ミック・シューマッハーとニキタ・マゼピンというルーキーにとっては、良い経験を積むチャンスになりそうです。
アストン・マーティンとメルセデスは、懸念材料が大きくなってしまいました。今年から61年ぶりにF1に復帰するアストン・マーティンは、2日目のセバスティアン・フェテルの走行が、ギアボックスの問題で10周しかできませんでした。
メルセデスも初日にヴァルテリ・ボッタスの走行がギアシフトの問題で6周しかできず。
3日間を通して、アストン・マーティンは314周・1699.368km、メルセデスは304周・1645.248kmしか走れませんでした。これは、最長距離を走ったアルファロメオとアルファタウリの422周・2283.864kmの7割程度になってしまいます。
テスト日数が少ないなかでは大きな不安要素となりそうです。反面、テスト段階でトラブルがあったことは、実戦に向けてさらなる改良ができて、かえって良かったと見ることもできるかもしれません。
すべての答えは開幕戦で
開幕前のテストが終わりました。ですが、わからないことだらけな結果でもありました。
各チームとも実力を隠しているようなところもあり、どこまで本気でタイムアタックをしたのか、わかりにくい点も。風の影響もあり、現時点で勢力図を判断するのは難しいところです。
このテストでのデータと結果を受けて、大部分のチームはさらなる改良をして、開幕戦や序盤戦に持ち込んでくるでしょう。そうなると、まだまだわからないところがたくさんあります。おかげで「どうなるのだろう?」というワクワク感がいっぱいなところでしょう。
あとは3月26日~28日にかけて行われる2021シーズンの開幕戦、バーレーンGPを待つのみです。
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チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | バーレーンGP | 3月26日(金) ~27日(土) | 3月28日(日) |
第2戦 | エミリア・ロマーニャGP | 4月16日(金) ~17日(土) | 4月18日(日) |
第3戦 | ポルトガルGP | 4月30日(金) ~5月1日(土) | 5月2日(日) |
第4戦 | スペインGP | 5月7日(金) ~ 8日(土) | 5月9日(日) |
第5戦 | モナコGP | 5月20日(木) ~22日(土) | 5月23日(日) |
第6戦 | アゼルバイジャンGP | 6月4日(金) ~5日(土) | 6月6日(日) |
第7戦 | フランスGP | 6月18日(金) ~ 19日(土) | 6月20日(日) |
第8戦 | シュタイアーマルクGP | 6月25日(金) ~26日(土) | 6月27日(日) |
第9戦 | オーストリアGP | 7月2日(金) ~ 3日(土) | 7月4日(日) |
第10戦 | イギリスGP | 7月16日(金) ~ 17日(土) | 7月18日(日) |
第11戦 | ハンガリーGP | 7月30日(金) ~31日(土) | 8月1日(日) |
第12戦 | ベルギーGP | 8月27日(金) ~28日(土) | 8月29日(日) |
第13戦 | オランダGP | 9月3日(金) ~ 4日(土) | 9月5日(日) |
第14戦 | イタリアGP | 9月10日(金) ~ 11日(土) | 9月12日(日) |
第15戦 | ロシアGP | 9月24日(金) ~25日(土) | 9月26日(日) |
第16戦 | トルコGP | 10月8日(金) ~ 9日(土) | 10月10日(日) |
第17戦 | アメリカGP | 10月22日(金) ~ 23日(土) | 10月24日(日) |
第18戦 | メキシコGP | 11月5日(金) ~ 6日(土) | 11月7日(日) |
第19戦 | サンパウロGP | 11月12日(金) ~ 13日(土) | 11月14日(日) |
第20戦 | カタールGP | 11月19日(金) ~ 20日(土) | 11月21日(日) |
第21戦 | サウジアラビアGP | 12月3日(金) ~ 4日(土) | 12月5日(日) |
第22戦 | アブダビGP | 12月10日(金) ~ 11日(土) | 12月12日(日) |