文・小倉茂徳(おぐら・しげのり)
モータースポーツジャーナリスト・解説者。鈴鹿サーキットと同じ1962年生まれ。1987-88年ホンダのF1チームの広報スタッフとしてF1を転戦。以後、現職に。子供向けにレーシングカーの仕組みと面白さを伝えながらSTEM教育への入り口となるレクチャーも行っている。2016年からは、スポーツのネット配信DAZNのF1解説を担当。
例年以上に大型移籍が続出
F1の2021シーズンがバーレーンで開幕します。今シーズンは、ドライバーのラインナップが大きく動きました。
まずフェラーリからセバスティアン・フェテルが離れることとなり、その後任にカルロス・サインツが決まりました。サインツの移籍で空いたマクラーレンのシートは、ダニエル・リカルドが座ることに。リカルドが離れたルノーの空席には、3年ぶりのF1復帰となるフェルナンド・アロンソが収まることになりました。
そして、このドミノ倒しのような一連の移籍劇の引き金を引く役割となったフェテルは、レーシング・ポイントからアストン・マーティンへと変わったチームへと新天地を求めています。
さらに昨季レーシング・ポイントで大活躍だったセルジオ・ペレスが、レッドブルへと移籍。新たなチームへ移った選手たちは、みな希望に満ちた表情をしています。
一方、昨年と同じチームに残ったドライバーは、全20人中12人。ほぼ4割が入れ替わった、とても新鮮なラインナップのシーズンとなっています。
チャンピオン経験者が4人
今季はフェルナンド・アロンソが2018年以来のF1復帰を果たしました。アロンソは2005年、2006年のワールドチャンピオンで、当時最強だったミハエル・シューマッハーとフェラーリに真っ向から挑み、王座を勝ち取った実績があります。
さらにアロンソは2018年、2019年にトヨタとル・マン24時間レースで優勝し、2019年のデイトナ24時間もキャデラックで優勝。レーサーとして技の幅を増したうえ、チームプレーもよりつかんでF1に戻ってきたようです。
春先にはロードバイクトレーニング中、事故に遭って上あごを骨折してしまいましたが、3月12日~14日にバーレーンインターナショナルサーキットで行われた開幕前のテストには問題なく間に合わせ、事故の影響を感じさせない走りを見せていました。
アロンソが今季所属するアルピーヌは昨年までのルノーチーム。ルノーチームは、アロンソが2度のチャンピオンを獲得したときのチームで、名前は変わっても古巣への復帰となります。実際、アロンソが復帰に伴ってファクトリーを訪れた際、昔の仲間に再会したそうです。
ただアルピーヌのマシンA521は、もとをたどると一昨年のR.S.19をベースにしたものなので、戦闘力としてはちょっと心配なところも。マシンの改良がどこまで進むのか? という点が問われます。そのことを考えると、経験豊富なアロンソの存在はアルピーヌにとって大きいでしょう。
今季はこのアロンソを含めて、4人のワールドチャンピオンが参戦する、豪華なシーズンになりました。
2020年には4年連続チャンピオンとなり、ミハエル・シューマッハーが持つ通算ドライバーズタイトル数7回のF1最高記録に並んだルイス・ハミルトンがいます。ハミルトンは今年36歳と大ベテランの域になりましたが、心・技・体とも充実しているといい、今季は前人未到となる8度目のタイトルが最大の目標となるでしょう。
今季、61年ぶりF1復帰となったアストン・マーティン。伝統ある同チームの新ドライバーに迎えられたセバスティアン・フェテルも、2010年から2013年のレッドブル在籍時代、4年連続でワールドチャンピオンになっています。
レッドブル当時は圧倒的な速さで先行逃げ切りのレース展開を得意としていました。ですが2015年にフェラーリへ移籍してから、フェテルはドライバーズタイトルに手の届かないシーズンが続きました。
とくに2020年はフェラーリのマシンに十分な戦闘力が見られず、安定性も足りずに苦戦を余儀なくされることに。今季は新天地アストン・マーティンへと挑戦の場を移し、心機一転を図ろうとしています。
さらに、アルファロメオのキミ・ライコネンも2007年にフェラーリでチャンピオンになっています。現役最年長のライコネンは現在41歳。今季終盤には42歳を迎えることになります。彼は2001年にF1デビューを果たし、2002年に移籍したマクラーレン時代から、多くのシーズンでランキング上位に入る戦いぶりを見せてきました。
2018年限りでフェラーリを去り、2019年からアルファロメオに移籍しました。すると、マシン性能の理由もあり、それ以降は下位での争いを余儀なくされています。それでも昨年のポルトガルGPで、ライコネンはまだまだ健在なところを見せてくれました。
このレースで16番手スタートのライコネンはソフトタイヤを履き、小雨混じりでコントロールが難しい路面であるにもかかわらずオーバーテイクを連発。オープニングラップを終える頃には7番手にジャンプアップし、2周目の途中には6位まで浮上するなど、その鮮やかなドライビングはまさに圧巻の手練ぶりでした。
アロンソ、ハミルトン、フェテル、そしてライコネンと、この4人を合わせるとタイトルの獲得回数は14になります。1950年から始まったF1世界選手権の歴史は、昨年で70周年を迎えました。そのうち、2割近いチャンピオン獲得回数がこの4人によって達成されています。それだけに今季はとても豪華なシーズンと言えるでしょう。
新人も当たり年
今季のF1には3人の新人もデビューします。いずれも、F1直下クラスのF2で昨年上位だった選手たちです。
そのうち2人がハースチームに入りました。昨年のF2チャンピオン、ミック・シューマッハーと同ランキング5位のニキタ・マゼピンです。
ミックは1990年代後半から2000年代前半にF1で黄金時代を築いたミハエル・シューマッハーの息子として知られています。
ですがミック・シューマッハーはここまで父親のスタイルとも異なる、自身の戦いをしてきました。昨年はF2では着実に得点を重ねてチャンピオンを獲得しましたが、それはまるでベテランドライバーであるかのような堅実な戦いぶりに見えました。
ニキタ・マゼピンは、昨年のF2で際立った速さを見せていた一方、粗っぽいスタイルの目立ったシーンも多々ありましたね。
このルーキー2人が所属するハースは、来年予定している新規定のマシン開発にチームの力を傾注するため、今季のマシンはほぼ去年のままとしています。そのため、予選や決勝でハースのタイムや順位は芳しくないかもしれません。それでも、この2人がF1でどのように成長するかは大きな見どころとなるでしょう。
そして、今年の新人の中で別格的な存在になっているのが、アルファタウリの角田裕毅です。
昨年のF2ではランキング3位でしたが、F2最優秀新人賞とFIA(国際自動車連盟)による、世界中の全競技での最優秀新人賞も獲得しました。
また、昨年12月にアブダビで行われた若手ドライバーによるF1テストでも好成績で、3月12日~14日までバーレーンで開催された開幕前のテストでも全体で2番手のタイムを出し、世界中にセンセーションを巻き起こしました。
小林可夢偉以来となる7年ぶりの日本人F1ドライバーは、シーズン開幕前から卓越した存在となっています。中堅チームであるアルファタウリが今季はどこまでマシンの戦闘力を上げるかにもよりますが、何か大きなことをやってくれるんじゃないかとつい大きな期待を抱いてしまいますね。
見どころはまだまだいっぱい
このように4人のチャンピオン経験者、大型移籍、3人の有望な新人という魅力的なラインナップの今シーズンですが、見どころはまだまだいっぱいです。
先述の移籍ドライバーにも名があったペレス、リカルドに、ヴァルテリ・ボッタスといった豊富な経験を備えたドライバーたちの活躍も見どころと言えるでしょう。
また、マックス・フェルスタッペン、チャールズ・ルクレール、カルロス・サインツ、ジョージ・ラッセル、ランド・ノリス、ピエール・ガスリー、エステバン・オコン、ランス・ストロール、アントニオ・ジョヴィナッツィ、ニコラス・ラティフィといった、20代の若さときらめく才能を持つ選手たちもいます。
そして、ハミルトンの連覇を誰が止めるのか? チームメイトのボッタスはさらに強くなって同僚の連覇に待ったをかけるのか? それだけでなくメルセデスの連覇を7でストップさせるチームが現れるのか、対抗馬の一角と目されるフェルスタッペンとペレスがそれを実現させるのか、という点はとても興味深いところです。
2021年はホンダにとって参戦ラストシーズン。レッドブルとアルファタウリに供給されるホンダのパワーユニットはさらなる改善を受け、最強メルセデスをついに凌駕するのか。最後のチャンスで、世界の頂点に立てるのかが要注目となりますね。
一方で昨年は苦戦を強いられた名門フェラーリは、2人の若いドライバーとともに復調できるのかも気になります。マクラーレンは? アストン・マーティンは? アルピーヌは?などなど。多くの見どころとともにワクワク感が溢れ出るような、2021年のF1は間もなく始まります。
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チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | バーレーンGP | 3月26日(金) ~27日(土) | 3月28日(日) |
第2戦 | エミリア・ロマーニャGP | 4月16日(金) ~17日(土) | 4月18日(日) |
第3戦 | ポルトガルGP | 4月30日(金) ~5月1日(土) | 5月2日(日) |
第4戦 | スペインGP | 5月7日(金) ~ 8日(土) | 5月9日(日) |
第5戦 | モナコGP | 5月20日(木) ~22日(土) | 5月23日(日) |
第6戦 | アゼルバイジャンGP | 6月4日(金) ~5日(土) | 6月6日(日) |
第7戦 | フランスGP | 6月18日(金) ~ 19日(土) | 6月20日(日) |
第8戦 | シュタイアーマルクGP | 6月25日(金) ~26日(土) | 6月27日(日) |
第9戦 | オーストリアGP | 7月2日(金) ~ 3日(土) | 7月4日(日) |
第10戦 | イギリスGP | 7月16日(金) ~ 17日(土) | 7月18日(日) |
第11戦 | ハンガリーGP | 7月30日(金) ~31日(土) | 8月1日(日) |
第12戦 | ベルギーGP | 8月27日(金) ~28日(土) | 8月29日(日) |
第13戦 | オランダGP | 9月3日(金) ~ 4日(土) | 9月5日(日) |
第14戦 | イタリアGP | 9月10日(金) ~ 11日(土) | 9月12日(日) |
第15戦 | ロシアGP | 9月24日(金) ~25日(土) | 9月26日(日) |
第16戦 | トルコGP | 10月8日(金) ~ 9日(土) | 10月10日(日) |
第17戦 | アメリカGP | 10月22日(金) ~ 23日(土) | 10月24日(日) |
第18戦 | メキシコGP | 11月5日(金) ~ 6日(土) | 11月7日(日) |
第19戦 | サンパウロGP | 11月12日(金) ~ 13日(土) | 11月14日(日) |
第20戦 | カタールGP | 11月19日(金) ~ 20日(土) | 11月21日(日) |
第21戦 | サウジアラビアGP | 12月3日(金) ~ 4日(土) | 12月5日(日) |
第22戦 | アブダビGP | 12月10日(金) ~ 11日(土) | 12月12日(日) |