文・柴田久仁夫(しばた・くにお)
1956年静岡県生まれ。1980年代よりフランス・パリを拠点とし、TV番組制作の現場で手腕を振るう。1987年よりF1の世界にも足を踏み入れ、それ以来数々のレースを取材してきた。訪れたサーキットでは素足でトラックの感触を確かめるというライフワークも行っている。2016年より本拠地を東京に移し、現在は『DAZN』のモータースポーツ中継でも解説を務める。
F1での2季目で真価が問われるミック・シューマッハ
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モータースポーツの世界で二世ドライバーは珍しくないですが、成功例は極めて少数です。
ましてや父親が7度の世界チャンピオン、ミハエル・シューマッハだったら、そのハードルはとてつもなく高くなることでしょう。その意味で言えば、ミハエルの息子ミックは十分に健闘しているというべきかもしれません。
と、なんとも煮えきらない書き出しになってしまったのは、ミック・シューマッハが今のF1で一種タブーのような存在だからです。
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ミックがF3チャンピオンの実績を引っ提げて、F1直下のFIAF2選手権に参戦したのは2019年のことでした。開幕戦バーレーンで囲み会見が行われたのですが、その時の異様な光景は今も忘れられずにいます。
そもそもF2ルーキーが特別に記者会見を開くこと自体異例なのですが、そこに名だたるF1ジャーナリストたちがどっと押しかけたのです。少し遅れて到着した僕は、二重三重の人垣に阻まれ、すごすごと引き下がるしかありませんでした。
当時のF1は、ルイス・ハミルトンとメルセデスの完全一強時代。マックス・フェルスタッペンが速さを見せ始め、シャルル・ルクレールも前年からF1にデビューしていましたが、その実力はまだまだ未知数でした。
2014年以来メルセデスがタイトルを独占し続ける状況に、F1界は危機感を抱き始めていました。彼らに拮抗できるようなビッグネームといえば「シューマッハ」しかない。しかもミックはフェラーリ・ドライバー・アカデミーの一員であり、F1昇格後は、父の跡を継いでフェラーリドライバーになるのは既定路線だった(はずです)。
ハミルトン(メルセデス)vsシューマッハ(フェラーリ)の一騎討ちをF1界は期待し、だからこそ普段は下位カテゴリーのドライバーなど鼻も引っ掛けない多くのF1ジャーナリストたちがミックに会いに行ったのでした。
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しかしその後のミックが、彼らの期待したような成長を遂げているかといえば「かなり微妙」と言わざるをえません。
F3に続いてF2でも、タイトルを獲得しました。しかしプレマというトップチームに在籍しながら、1年目はわずか1勝、選手権12位にとどまり、2年目でようやくチャンピオンになれました。
2つのカテゴリーを卒業するのに2年ずつかかったことについては「一歩ずつ、着実にステップアップしていった」という好意的な評価もありました。
しかしジョージ・ラッセルや、同じプレマの先輩であるルクレールがF2初年度にタイトルを取ってF1に上がっていった事実と比較すると、物足りなさは否めません。そして2021年のF1昇格後も、光る走りは見せられずにいます。
確かに1年目の去年は、絶対的に非力なマシンというハンデキャップを負っていました。ハースが今季のマシン開発に資源を集中させた結果、遅い上に極めて不安定でコントロールが難しい車に乗せられた。
その結果、一度も入賞はできませんでしたが、予選ではチームメイトのニキータ・マゼピンに対し19勝3敗と圧勝しています。
チーム内の評価も、たとえばドライバー2人を統括する立場の小松礼雄エンジニアは、Q2に進出したフランスGPでの予選での速さや、レースでの落ち着いた走りに好意的でした。ただしマシンがとてつもなく遅く、運転しにくいこと、何よりチームメイトがマゼピンだったことで、客観的な評価はなかなか難しかったと思います。
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その意味で今季は、ミックの力量がはっきり見えるシーズンになるはずです。ハースのマシンは見違えるほど速くなり、チームメイトには巧手ケビン・マグヌッセンが戻ってきた。もはや言い訳はできない状況です。
で、今季序盤3戦を終えた段階でどうかといえば、2年ぶりに復帰したマグヌッセンがいきなり5位、9位とポイントを手にしたのに対し、ミックはまだ一度も入賞できていません。第2戦サウジアラビアGPの予選では大クラッシュを喫し、マシンを大破させているのも、いただけないところです。
一方でF1界全体に目を転じれば、フェルスタッペンとルクレールが次代のスターとしての地位を着々と築いています。そんな状況で、かつての「シューマッハ待望論」は、すっかり影を潜めている印象です。
ただし去年ルクレール以上の速さを見せていたカルロス・サインツが予想外に低迷しているのは、ミックにとって追い風といえるでしょう。サインツがこのまま復調しなければ、ミックが来季ルクレールのチームメイトになる可能性も、ないことはない。実現すれば、話題性は十分すぎるほどです。
Kunio SHIBATA
ただ、そのためにはフェラーリドライバーに相応しい実力を披露し、実績を積み上げる必要があります。今のミックに、はたしてそれができるのか。
F2時代、アントワーヌ・ユベールが事故死した際、彼はジュリアーノ・アレジに深い思いやりを見せていました。それを間近で目撃した身としては、彼の活躍を祈るのみなのですが。
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【レース情報】
F1 第4戦:エミリア・ロマーニャGP
4月22日(金)20:30~フリー走行1回目
4月22日(金)24:00~予選
4月23日(土)19:30~フリー走行2回目
4月23日(土)23:30~スプリントレース
4月24日(日)22:00~決勝
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チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | バーレーンGP | 3月18日(金) ~19日(土) | 3月20日(日) |
第2戦 | サウジアラビアGP | 3月25日(金) ~26日(土) | 3月27日(日) |
第3戦 | オーストラリアGP | 4月8日(金) ~4月9日(土) | 4月10日(日) |
第4戦 | エミリア・ロマーニャGP | 4月22日(金) ~ 23日(土) | 4月24日(日) |
第5戦 | マイアミGP | 5月6日(木) ~7日(土) | 5月8日(日) |
第6戦 | スペインGP | 5月20日(金) ~21日(土) | 5月22日(日) |
第7戦 | モナコGP | 5月27日(金) ~ 28日(土) | 5月29日(日) |
第8戦 | アゼルバイジャンGP | 6月10日(金) ~11日(土) | 6月12日(日) |
第9戦 | カナダGP | 6月17日(金) ~ 18日(土) | 6月19日(日) |
第10戦 | イギリスGP | 7月1日(金) ~ 2日(土) | 7月3日(日) |
第11戦 | オーストリアGP | 7月8日(金) ~9日(土) | 7月10日(日) |
第12戦 | フランスGP | 7月22日(金) ~23日(土) | 7月24日(日) |
第13戦 | ハンガリーGP | 7月29日(金) ~ 30日(土) | 7月31日(日) |
第14戦 | ベルギーGP | 8月26日(金) ~ 27日(土) | 8月28日(日) |
第15戦 | オランダGP | 9月2日(金) ~3日(土) | 9月4日(日) |
第16戦 | イタリアGP | 9月9日(金) ~ 10日(土) | 9月11日(日) |
第18戦 | シンガポールGP | 9月30日(金) ~10月 1日(土) | 10月2日(日) |
第19戦 | 日本GP | 10月7日(金) ~ 8日(土) | 10月9日(日) |
第20戦 | アメリカGP | 10月21日(金) ~ 22日(土) | 10月23日(日) |
第21戦 | メキシコGP | 10月28日(金) ~ 29日(土) | 10月30日(日) |
第22戦 | サンパウロGP | 11月11日(金) ~ 12日(土) | 11月13日(日) |
第23戦 | アブダビGP | 11月18日(金) ~ 19日(土) | 11月20日(日) |