大富豪の御曹司
1999年生まれのニキータ・マゼピン。父ドミトリー・マゼピンはロシア屈指のビジネスマンであり、これまで保険会社、石油会社、ロシア連邦財産基金などの重役を歴任。2002年にはガスプロムグループであり、ロシア最大の石油会社シビル社の社長に就任する。その後2007年には同国最大規模の化学薬品会社となるウラルケム社を立ち上げ、現在に至るまで同社の会長を務めている。つまり、愛息子ニキータは生まれながらにして大富豪の御曹司ということになる。
ニキータは7歳の時にカートでレースキャリアをスタートさせ、モスクワのカートスクールで腕を磨いたという。2011年~2014年にかけてはさまざまなカートカテゴリーに挑戦し、15歳当時の2014年にフォーミュラカーでデビューを果たす。
14-15シーズンのMRFチャレンジフォーミュラ2000のラウンド1に参戦。カタールで行われた4つのレースでは5位、2位、リタイア、6位に終わり、ラウンド1のみの参戦(ラウンド3まである)ながら総合10位となった。
2015年1月~2月はニュージーランドで開催されているトヨタレーシングシリーズに参戦。シーズン通して304ポイント、全21ドライバー中18位という結果に終わった。このときのランキング1位が現アストンマーティンのランス・ストロールでシリーズ906ポイント。後に激しく争うカラム・アイロットは358ポイントで16位だった。
そして同年の4月~10月まではフォーミュラ・ルノー2.0ノースヨーロピアンカップにフル参戦。シリーズ通して3位表彰台が1度のみ、125.5ポイントで総合12位に終わった。なお、同シリーズは1位ルイ・デレトラ、3位笹原右京、5位ユアン・ダルバラという結果に。マゼピンは下部カテゴリーの当時、レース運びの安定性にムラがあったと伝えられている。
2016年からはF3にステップアップ
迎えた2016年はF3ヨーロピアンチャンピオンシップにハイテック・グランプリより参戦。しかし最高位は8位2度でシリーズ10ポイント奪取に留まり、総合20位に終わった。同シリーズでは1位ランス・ストロール(507ポイント)、3位ジョージ・ラッセル(264ポイント)、6位カラム・アイロット(226ポイント)、8位アントワーヌ・ユベール(160ポイント)、13位周冠宇(チョウ・グアンユー/101ポイント)と、ライバルたちに比べ大きく見劣りする結果に。
また、このコンペティションでの第2ラウンド、ハンガリーでのセッションではアイロットとコース上のライン取りで一触即発となり、マゼピンがアイロットの顔面を殴ったことで大問題となった。マゼピンはハンガリーでのレース1で失格処分となっている。
一方で同年にはフォース・インディアとのテストドライバー契約を結び、マゼピンは7月のシルバーストンテストで、104周の走行を経験している。
2017年も立て続けにF3ヨーロピアンチャンピオンシップに参戦したマゼピン。2年目は最高位が2位2度でシリーズ108ポイントを奪取している。前年よりは躍進したものの、総合10位と物足りない内容だった。このシリーズでは1位ランド・ノリス(441ポイント)、4位アイロット(344ポイント)、6位ダルバラ(191ポイント)、8位周冠宇(149ポイント)という成績だった。後にハースF1チームで同僚となるミック・シューマッハは2017年当時、F3初挑戦で94ポイントのシリーズ12位となり、マゼピンよりやや下の順位でシーズンを終えている。
2018年はARTグランプリよりGP3にエントリー。ここではシリーズ4勝をマークし、198ポイントでマゼピンは総合2位となった。このコンペティションでチャンピオンに輝いたのは、2019年のF2でレース中に命を落とすユベール(214ポイント)だった。
F2に2019年より昇格
GP3で総合2位となり、翌2019年にマゼピンはF2へと昇格。ARTグランプリよりF1直下のカテゴリーへと挑むことになった。
だがマゼピンはF2初年度で大苦戦。同じARTグランプリのマシンを駆るニック・デ・ブリーズが4勝をマークし、266ポイントで2019年のF2王者となった。その一方、マゼピンは3度の8位がシーズン最高位。シリーズ通じて11ポイント奪取にとどまり、総合18位という惨憺たる結果に。
2019シーズンのF2はラウンド9スパ・フランコルシャンにおいて、ユベールがクラッシュで事故死するという悲劇も起こっている。スパでのレース1、レース2はともに中止となった。
マゼピンの荒いっぽいスタイルは同年も目立ち、何度となく問題視された。とりわけクローズアップされたのがロシア・ソチでのスプリントレースだ。オーバーランした後にマゼピンはコース復帰を図るも、レースラインを超えて松下信治のマシンに激突するという危険なシーンを創出。この大クラッシュで松下は一時意識を失い、病院に緊急搬送された。マゼピンのこの危険行為について、スチュワード裁定で次戦ヤス・マリーナでの15グリッドペナルティが科されている。
このワンシーンについてはレーシングアクシデントではなく、マゼピンの故意的な行動&ライバルを巻き添えにする危険な事故として激しく非難された。スチュワード裁定の15グリッド降格ではなく「ライセンスを剥奪すべき」との声が多くのモータースポーツファンから相次いだと当時報じられている。
一方で同年、マゼピンはスペインで行われたF1のインシーズンテストにメルセデスから参加し、チャンピオンマシンを駆っている。
2020年はF2で年間5位
これまでF3で活動してきたハイテック・グランプリが2020年よりF2にも参戦することを発表。マゼピンはF3時代の2016年に所属した古巣からF2の2年目へと挑むことに。
ラウンド4シルバーストン1のレース1、ラウンド9ムジェロのレース1でそれぞれ勝利し、同シリーズでは2勝をマークした。
同年のラウンド7、ベルギーのレース1では、トップ争いで後方からオーバーテイクを仕掛けてきた角田裕毅に対し、ラインを閉めてコース外に追いやったとして5秒のタイムペナルティが科された。結果的に角田が1位、マゼピンは2位でのフィニッシュとなった。
この直後、ピット前に戻ってきたマゼピンは2位の順位ボードを弾き飛ばし、それが危うく角田に当たりそうになるシーンも。この行為はさらなる審議対象となったが、注意処分のみで終わっている。ちなみにマゼピンはその前のラウンド6スペインのレース1でもペナルティにより13位フィニッシュとなっていた。
マゼピンは総合3位(162ポイント)の状態で最終12ラウンドのバーレーン2を迎えた。時同じくしてF1昇格が懸かっていた角田裕毅は当時5位(157ポイント)で同レースに臨み、レース1の予選でポールポジションを獲得した角田が4ポイントを獲得。マゼピンとのポイント差を1まで詰めた。
迎えたレース1ではマゼピンがオープニングラップの1コーナーで仕掛け、角田を抜いてトップに立つ。だがタイヤを消耗したマゼピンは中盤からタイムが伸び悩む状態に。そして残り5周でマゼピンは角田に抜かれ、トップの座を取り返した角田がそのまま先頭でフィニッシュチェッカーを受けた。
なお、このレースでマゼピンは角田にホームストレート上で抜かれた際、ピットレーン出口までラインを絞りブロックしたとして5秒ペナルティ。そして終盤にはフェリペ・ドルゴヴィッチに対して必要以上のブロッキングをしたため、こちらも5秒加算。3番手でファイナルラップを終えたマゼピンだったが、合計10秒のペナルティにより結果的に9位降格となった。
マゼピンは同胞ロバート・シュワルツマンにラウンド12の2レースでポイント数で抜かれ、総合5位に順位を落としてF2の2020シーズンを終えている。
ハースからF1参戦の決め手は資金力?
F2ラウンド12の直前である2020年12月1日、2021年のレギュラードライバーになるとハースF1チームから公表された。その翌日には1日遅れでミック・シューマッハがマゼピンの同僚として、ハースからF1デビューすることが明らかに。
2021年、ハースはマゼピン&シューマッハのルーキーコンビでF1へ挑む運びとなった。だがハースには「なぜマゼピンを起用?」「結局は金か」「だったらアイロット(2020年F2総合2位)のほうがふさわしい」などの批判が数多く寄せられた。
F1の舞台までたどり着いたマゼピン。これまでの活動に父ドミトリーのバックアップがあったことは広く知られた事実だった。
父ドミトリーはF1界へも何度となく接点を持とうとしていた。2018年途中にフォース・インディアが破産申請をした際に、同チームの買収に向けてマゼピン父が動いてたことでも知られている。結果的にフォース・インディアはローレンス・ストロール率いる投資グループ、コンソーシアムの手に渡った。そのチームがレーシング・ポイントの名称を経て、2021年よりアストンマーティンとしてF1に参戦することは周知のとおり。
フォース・インディアの買収に失敗したマゼピン父は2019年春、ウィリアムズ買収に乗り出すのではないかとのうわさも浮上した。だがこちらも実現せず。後にウィリアムズは2020年夏、アメリカの投資会社ドリルトン・キャピトルに保有権が移行している。
2019年の夏にメルセデスのマシンでテスト参加した際、父ドミトリーは愛息子をチャンピオンマシンに乗せるため、約12億円もの資金を投入したとも言われている。このときにマゼピンはメルセデスのマシンを駆って好タイムを出した。その直後にレッドブルF1チームのアドバイザー、ヘルムート・マルコ氏は「メルセデスのマシンは確かにものすごく速い。F2の中で二流のドライバーが乗っても、良いタイムを出せるわけだからね」と皮肉交じりに言及している。
そしてマゼピン父はF1との結びつきを強めることを推進させ、2020年の初秋にはハースのチーム代表ギュンター・シュタイナー氏と接触したことが明らかになった。
これは愛息子ニキータをハースからF1デビューさせるための話し合いだったとされる。結果的にそれは間もなく実現することとなったが、一方ではマゼピン父がハースF1チームの買収話を持ちかけたとも、まことしやかに囁かれていた。
アメリカのチームであるハースF1はマゼピンのチーム入りとともに、資金面でもロシア色がかなり強まるのではないかと言われ、同年のマシン「VF-21」は、ロシアのカラーを大きくあしらったデザインに。チーム名もドミトリー・マゼピン氏が共同オーナーを務める肥料会社ウラルカリ社がメインスポンサーの冠となっており、先々はチームそのものがマゼピン父の所有になる、というシナリオも十分に現実味を帯びている。
マゼピンはSNSでも批判集中
ハースから2021年のF1デビューが発表され、F2での最終ラウンドを終えてから数日後、2020年12月9日にマゼピンは新たな騒動を巻き起こす。車の助手席に乗ったマゼピンは動画を撮影。後部シートにいた女性の胸を触るというシーンを『Instagram』にそのままアップ。
この動画はすぐさま大きな問題として取り上げられ、マゼピンは直後に動画を削除。ハースも「忌まわしい事態」と公式声明で不快感を示したほか、FIAもこの行為を問題視した。マゼピンはその直後に謝罪動画を投稿したが、その動画も公開から9日後に削除されている。
これらのことを受け“マゼピンをハースのマシンに乗せるな”として、署名活動がオンライン上でも盛んに行われることに。それでもハースは結局「マゼピンの来季シートは変わらない」との意向を公式に示した。
マゼピンはそれ以前にもSNSで騒動を巻き起こしている。ウィリアムズのジョージ・ラッセルが新型コロナウイルスによるシーズン中止期間を利用し、ファンに向けてライブ配信を行った。
そこにマゼピンが自らの公式アカウントで参加。ラッセルに対して「キミの知られざる性癖がカミングアウトされるんじゃないかと期待しているんだけど」と書き込んだことで、思わぬ形で注目を集めた。ちなみに2016年のF3ヨーロピアンチャンピオンシップで、マゼピンとラッセルはハイテックGPの同僚だった。そのシーズン、マゼピンとラッセルのポイント数は前述のとおり10-264と圧倒的な大差でラッセルがアドバテージを示していた。
さらには父ドミトリー・マゼピンが所有するウラルカリ社の鉱山(ロシア中西部ソリカムスク)で2018年12月22日、9名の死亡者が出る痛ましい鉱山火災事故が起こった。その追悼の日にパーティーを楽む様子をSNSで公開するなど、奔放さを発揮。当然この件も「不謹慎だ」として非難の的となっている。
他にもモータースポーツファンとのダイレクトメッセージで品のない言葉を送り、そのスクリーンショットが出回るなど、マゼピン騒動の例は枚挙にいとまがない。
F1デビューシーズンは最後尾がほぼ定位置に
迎えた2021シーズン、ハースは翌2022年シーズンに向けて開発を集中し、ポテンシャル面で厳しいパッケージとなる。マゼピンはシーズンを通じてテールエンダーを務めるレースがほとんどとなり、決勝で大きな見せ場を作ることさえできない、もどかしい展開が続いた。
最終戦のアブダビGPではゴールドのスペシャルヘルメットを持ち込んで2021年ラストレースに挑もうとしたが、土曜の予選終了後に新型コロナウイルス感染が発覚。リザーブを務めるピエトロ・フィッティパルディが土曜日までの公式セッションに参加していなかったことから決勝参加資格なしとなり、代役不在に。最終戦の決勝でハースの出走はシューマッハ1台のみとなった。結果としてハースの2人はノーポイントで2021年を終えることになった。
ほとんどのレースで最後尾を走ることとなったマゼピンは、シーズンを通じて予選最高位が20台中18番手が最高位で、Q2に2度進出した僚友ミック・シューマッハに敵わない展開が続いた。予選でシューマッハとの相対成績は20-2となり、予選の平均タイムでもシューマッハが0.915秒リード。これは同じマシンを駆る状態ながら、大差と言える。
ハースはシーズン中盤の2021年9月23日、2022年もシューマッハ&マゼピンのセットで挑むことを公表。ハースは2022年の規定に合わせて開発を進めており、2021年はルーキードライバー2人の教育に充てた形となった。
迎えた2022年は車両規定が変わる中、2年目のシーズンインを果たすはずだったマゼピン。だが2月24日にロシア軍がウクライナ侵攻を行ったことから、バルセロナテスト中のチームはハースのマシンからウラルカリ社のロゴ、ロシアカラーのあしらいを外す決断に至った。
そして3月5日、ハースはニキータ・マゼピンとのドライバー契約、及びウラルカリ社とのパートナーシップを解消したと公表した。マゼピンはこれでF1のシートを失い、2年目の開幕直前にしてハースから去ることになっている。
プロフィール
ニキータ・マゼピン
1999年3月2日生まれ|ロシア国籍|ハース(2021~)
通算成績(2021年終了時点)
- 出走/21回
- 優勝/0回
- PP/0回
- FL/0回
年 | チーム名 | 勝利数 | 年間成績 |
---|---|---|---|
2021年 | ハース | 0勝 | 21位 |
2021年の成績
- 年間:0ポイント/21位
- 優勝/0回
- PP/0回
- FL/0回
レース名 | 決勝順位 |
---|---|
第1戦バーレーンGP | Ret. |
第2戦エミリア・ロマーニャGP | 17位 |
第3戦ポルトガルGP | 19位 |
第4戦スペインGP | 19位 |
第5戦モナコGP | 17位 |
第6戦アゼルバイジャンGP | 14位 |
第7戦フランスGP | 20位 |
第8戦シュタイアーマルクGP | 18位 |
第9戦オーストリアGP | 19位 |
第10戦イギリスGP | 17位 |
第11戦ハンガリーGP | Ret. |
第12戦ベルギーGP | 17位 |
第13戦オランダGP | Ret. |
第14戦イタリアGP | Ret. |
第15戦ロシアGP | 18位 |
第16戦トルコGP | 20位 |
第17戦アメリカGP | 17位 |
第18戦メキシコGP | 18位 |
第19戦サンパウロGP | 17位 |
第20戦カタールGP | 18位 |
第21戦サウジアラビアGP | Ret. |
第22戦アブダビGP | DNS |
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チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | バーレーンGP | 3月18日(金) ~19日(土) | 3月20日(日) |
第2戦 | サウジアラビアGP | 3月25日(金) ~26日(土) | 3月27日(日) |
第3戦 | オーストラリアGP | 4月8日(金) ~4月9日(土) | 4月10日(日) |
第4戦 | エミリア・ロマーニャGP | 4月22日(金) ~ 23日(土) | 4月24日(日) |
第5戦 | マイアミGP | 5月6日(木) ~7日(土) | 5月8日(日) |
第6戦 | スペインGP | 5月20日(金) ~21日(土) | 5月22日(日) |
第7戦 | モナコGP | 5月27日(金) ~ 28日(土) | 5月29日(日) |
第8戦 | アゼルバイジャンGP | 6月10日(金) ~11日(土) | 6月12日(日) |
第9戦 | カナダGP | 6月17日(金) ~ 18日(土) | 6月19日(日) |
第10戦 | イギリスGP | 7月1日(金) ~ 2日(土) | 7月3日(日) |
第11戦 | オーストリアGP | 7月8日(金) ~9日(土) | 7月10日(日) |
第12戦 | フランスGP | 7月22日(金) ~23日(土) | 7月24日(日) |
第13戦 | ハンガリーGP | 7月29日(金) ~ 30日(土) | 7月31日(日) |
第14戦 | ベルギーGP | 8月26日(金) ~ 27日(土) | 8月28日(日) |
第15戦 | オランダGP | 9月2日(金) ~3日(土) | 9月4日(日) |
第16戦 | イタリアGP | 9月9日(金) ~ 10日(土) | 9月11日(日) |
第18戦 | シンガポールGP | 9月30日(金) ~10月 1日(土) | 10月2日(日) |
第19戦 | 日本GP | 10月7日(金) ~ 8日(土) | 10月9日(日) |
第20戦 | アメリカGP | 10月21日(金) ~ 22日(土) | 10月23日(日) |
第21戦 | メキシコGP | 10月28日(金) ~ 29日(土) | 10月30日(日) |
第22戦 | サンパウロGP | 11月11日(金) ~ 12日(土) | 11月13日(日) |
第23戦 | アブダビGP | 11月18日(金) ~ 19日(土) | 11月20日(日) |