ホンダで長らく活動したエンジニア、浅木泰昭氏がこれまでのF1事業について語っている。
元ホンダ・レーシングのF1エンジン開発責任者である浅木氏は、2023年4月末のHRC退職直前『DAZN』の『WEDNESDAY F1 TIME #10』に出演。レーシングドライバーの中野信治氏、番組MCのサッシャ氏がインタビュアーを行った。
1982年よりホンダF1第2期(1983年~1992年)の活動に携わった後、その後オデッセイやN-BOXなど、同社を代表する市販車の開発にも尽力した浅木氏。しばらくF1の世界から距離を置いていたとのことだが、2017年に開発責任者として、F1の現場へ復帰することになった。
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2020年10月2日、突如ホンダが2021年でF1活動を終了すると表明。ホンダはレッドブル・パワートレインズとその後協力関係を続けているものの、ホンダとしてのPU供給は2021年限りでピリオドとなった。
当時開発責任者として陣頭指揮を執っていた浅木氏は、ホンダのF1活動終了を直前の9月下旬に知ったという。
「私もびっくりしましたよ。撤退発表の10日前に知らされたんですよね。たぶんもっと早く知らせたら、私がなにか(撤退阻止のため)画策するんじゃないかと思われていたんじゃないかと」
「もう全部が決まった後言われて、その10日間は必死でいろんなことやりましたよね。八郷(隆弘)社長(当時)には新骨格エンジン(RA621H)を出させてくれ。レッドブルには今からエンジンを変えるけど、間に合わせてくれと」
「そんな話をすると(ホンダF1活動の)撤退の話を知らない技術者たちは“浅木さん無理です”って直訴しに来るし。(撤退の決定を)知ったらみんな選択肢は他にないわけですし。たった10日間ですけど、その間は眠れなかったですね」
DAZN
ホンダとしての最終シーズンになる2021年へ向け、浅木氏はタイトルを手にするために並々ならぬ意欲を抱いていたという。
「あのままメルセデスにパワーも負け、発電量も負け、次の年もなんとなくわかるわけです。古い骨格で戦うとね。そんな消化試合みたいな最後の年にするわけにはいかないじゃないですか。何としても実力を出しきらなきゃいけない」
「これは信頼性とかのテストが完璧に終わっているわけではなかったんです。でも、ちゃんと回っているときだけでもメルセデスの前を走るんだと。そういう気持ちで投入した」
「思いのほか(新骨格エンジンの)出来が良くてですね。あんまり壊れずに(2021年)戦うことができた」
「撤退発表のときは、技術者は本当にガッカリしたと思う。ですけど、そこまでには新骨格を入れると。レッドブルも良いと言ってくれるし、社長も良いと言ってくれるし」
「新骨格入れるぞと。来年(2021年)技術者たちの意地を見せるんだとしゃべったときは、何百人かいる技術者たちの目の色が変わった気がしましたよね」
Red Bull Content Pool
「その意地で、普通ならありえない期間で新骨格を投入して。技術者としても相当成長したんじゃないかと思う」
「これだけ気持ちが合うと、こんなこともできるんだという。初めての経験でしたね」
だが、2021年はメルセデスからチャンピオンの座を奪えるかどうかと言うと、現実は甘くないとの感覚も抱いていた模様だ。
「その時は一回でもいいからメルセデスの前を走る、というつもりだった。そんなチャンピオンとか言うのは見えていなかった」
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そして2021年のタイトル争いはし烈を極め、マックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンは同ポイントで第22戦アブダビGPの最終決戦を迎える形に。
フェルスタッペンは第1スティントのソフトで、ポールスタートだけに序盤は有利かと思われた。だがミディアムのハミルトンがターン1にトップで飛び込み、そのまま7度王者がレースを先導。
そこからハミルトンは速いペースで周回を重ね、タイヤをハードに交換し第2スティントに移行。あとは最後まで走り切る流れとなった。ここでソフトで走り続けていた第1スティントのセルジオ・ペレスが、ハミルトンの前に立ちはだかる。そしてハミルトンのレースペースを抑え込んだ。
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この時のことを「期待に反して彼ら(メルセデス)は速かったですよね」浅木氏は語っている。
「(ペレスは)やるなぁと思いましたよ。本当によく(ハミルトンの勢いを)止めてくれてね。その前の角田(裕毅)選手も結構バトルをしてくれてたんですよね」
「それからペレス選手がすごいバトルをして。正直言いますとね、ペレス選手はバトルが終わった後エンジンに異常が出て。バトル中は持ってくれて良かった」
フェルスタッペンはハミルトンとの差を詰めたものの、そこから追い抜くどころか逆に差は広がっていく。レッドブル・ホンダとしては完全に手詰まりとなってしまった。
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これでハミルトンの8度目総合優勝は決定的かと思われた。だがニコラス・ラティフィのクラッシュによって、終盤の53/58周目にセーフティーカーが入ると状況が一変する。
フェルスタッペンは迷わずピットに入り、ソフトタイヤにチェンジした。ハミルトンはトラックポジションを失う可能性があることから、そのままステイアウトを選択。両者の間に入っていた周回遅れもセーフティーカー終了の前に追い抜きが許され、これでトップのハミルトンと2番手フェルスタッペンの差はほとんどなくなる。
ロングランを続けたハードタイヤのハミルトンと、フレッシュなソフトタイヤを履いたフェルスタッペンでは、残り1ラップでも勝負ありの状況に。浅木氏はその時の感情をこう回顧している。
「よく頑張ったんだけどね、みたいな話をしないといけないと思ってました。あの時リタイアしなければ勝っていたのに、とか一年を振り返っていた」
「頑張ったんだけどな、という話を忘れなくちゃいけない。それどころじゃなかった。勝っちゃうじゃん!どうすんだ、と思っていた。ここ(ファイナルラップのターン5)で抜けなくても、絶対次は抜くし、勝つと思っていましたけどね」
結果としてフェルスタッペンはファイナルラップのターン5でハミルトンをオーバーテイク。そのままトップでチェッカーを受け、初の総合優勝。ホンダとしても1991年の故アイルトン・セナ以来、実に30年ぶりのチャンピオン創出となった。
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翌2022年の鈴鹿、日本GPではフェルスタッペンのタイトル連覇が決まった。その際の表彰式には、浅木氏が登壇している。
このレースは大雨で長時間の赤旗中断もあり、オランダ人ドライバーのタイトル確定は持ち越しになったかと思われた。しかし結果としてフルポイント、かつコースカットのペナルティでチャールズ・ルクレールが3位降格となったため、優勝したフェルスタッペンの2連覇が決まることに。
浅木氏は「ハーフポイントだと思っていた。我々はそういう認識でした」と口にしている。
「栃木に帰る準備をしていたんですけど(表彰式に)呼ばれた。本当に良かったですよ。最初で最後でしょうけどね。日本の方、お客さんが本当に喜んでくれて。みんなを代表して(表彰台に)上がった感じがして良かった」
「ホンダのお膝元ですし、格別ですよね。表彰式で飲んだシャンパンは美味しかったですよ。酒まみれで新幹線に乗りましたけどね。(お酒の)匂いが相当したと思います」
エンジンサプライヤーとして、ワールドチャンピオンを生んだという気概について「世界一の技術者になる。F1でないとそれは証明できないんですよね。最高峰レースで初めて世界一になったという自信が付く。(後輩の技術者)みんなその自信に溢れたんじゃないかと期待しています」と胸を張った。
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2021年にF1活動を終了したホンダは、レッドブル・パワートレインズとの協力関係を続けている。だがその関係はパワーユニット開発が事実上の凍結となっている2025年までとなっており、レッドブル・パワートレインズは大きくレギュレーションの変わる2026年より、フォードとの提携に切り替わる。
ホンダとしては2026年以降について、F1とどう関わるのかまだ明確になっていない。エンジンサプライヤーとしてF1の舞台に戻るのではないかと期待する声も多い中、これまで現場で奮闘していた浅木氏は、ホンダそして後進や若き技術者たちへの奮起&期待を口にしている。
「まず、2026年のF1レギュレーションというのが、カーボンニュートラル、燃料もバッテリー及びモーターも相当出力を上げる。環境に対してF1がいいことをやっていくんだと風に舵を切られましたよね」
「それはホンダが目指す方向と一致しているわけじゃないですか。2026年どうするという話になると、我々HRCというところに合流した理由がですね、レース会社なんで。レースの検討は続けていいという。だからF1の技術研究というのはしていい会社なんで。参戦するかどうかを決めるのは本田技研工業になりますけど、我々は技術開発を続けていく」
「今の(2026年から始まる)レギュレーションだとね、ホンダが目指すカーボンニュートラル社会の実現のために貢献できるんじゃないかと」
「F1がそういうような状況にもなってきたんで。辛抱強く、そういう判断ができるように技術者としては準備だけずっとしていこうと」
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4月いっぱいで浅木氏はHRCから退社となった。この収録はその直前だったが、これまで42年間にわたり技術者として歩んできた感想を口にしている。
「振り返って言えば、私は技術者として非常に楽しかったですよ。楽しいホンダ人生だったので、みなさんも何をやるにしても楽しい人生を送ってもらいたい」
「自分の作ったもので世の中が変わったり、喜んでくれたり、そういうことができるというところが楽しかった」
「世界一になったという自信が、良い結果になると信じている。そこを切り開いていくのは技術者一人ひとりですから。それを期待している」
浅木氏は“あなたにとってF1とは、どのようなものか”と尋ねられ、頂点に立った経験のある技術者としてその矜持を示しつつ、こう述べている。
「世界最高のレース。そこで勝てば世界一」
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チーム・ドライバー
日程・番組表
レース | フリー走行・予選 | 決勝 | |
---|---|---|---|
第1戦 | バーレーンGP | 3月3日(金) ~4日(土) | 3月5日(日) |
第2戦 | サウジアラビアGP | 3月17日(金) ~18日(土) | 3月19日(日) |
第3戦 | オーストラリアGP | 3月31日(金) ~ 4月1日(土) | 4月2日(日) |
第4戦 | アゼルバイジャンGP | 4月28日(金) ~ 29日(土) | 4月30日(日) |
第5戦 | マイアミGP | 5月5日(金) ~ 6日(土) | 5月7日(日) |
第6戦 | エミリア・ロマーニャGP | 5月19日(金) ~ 20日(土) | 5月21日(日) |
第7戦 | モナコGP | 5月26日(金) ~ 27日(土) | 5月28日(日) |
第8戦 | スペインGP | 6月2日(金) ~ 3日(土) | 6月4日(日) |
第9戦 | カナダGP | 6月16日(金) ~ 17日(土) | 6月18日(日) |
第10戦 | オーストリアGP | 6月30日(金) ~ 7月1日(土) | 7月2日(日) |
第11戦 | イギリスGP | 7月7日(金) ~ 8日(土) | 7月9日(日) |
第12戦 | ハンガリーGP | 7月21日(金) ~ 22日(土) | 7月23日(日) |
第13戦 | ベルギーGP | 7月28日(金) ~ 29日(土) | 7月30日(日) |
第14戦 | オランダGP | 8月25日(金) ~ 26日(土) | 8月27日(日) |
第15戦 | イタリアGP | 9月1日(金) ~ 2日(土) | 9月3日(日) |
第16戦 | シンガポールGP | 9月15日(金) ~ 16日(土) | 9月17日(日) |
第17戦 | 日本GP | 9月22日(金) ~ 23日(土) | 9月24日(日) |
第18戦 | カタールGP | 10月6日(金) ~ 7日(土) | 10月8日(日) |
第19戦 | アメリカGP | 10月20日(金) ~ 21日(土) | 10月22日(日) |
第20戦 | メキシコシティGP | 10月27日(金) ~ 28日(土) | 10月29日(日) |
第21戦 | サンパウロGP | 11月3日(金) ~ 4日(土) | 11月5日(日) |
第22戦 | ラスベガスGP | 11月16日(木) ~ 17日(金) | 11月18日(土) |
第23戦 | アブダビGP | 11月24日(金) ~ 25日(土) | 11月26日(日) |