6歳で本格化
「入厩当初から、サウスヴィグラス産駒らしい雄大な馬体で、最初からダートは確実に向くという印象でした」
そう語ったのは、昨年にダートグレード競走を3勝して殊勲調教師賞も受賞した堀師。母、祖母も大井で走り、父サウスヴィグラスも現役時代にJBCスプリントを制するなど、サブノジュニアは大井ゆかりの生え抜き血統馬だ。
3歳時には順調にオープンまで勝ち上がったものの、「ムラがあって、レース中に競馬をやめてしまう時も多かった」(堀師)こともあり、古馬になってからなかなか勝ちきれないレースが続いた。
そんな中で一つの転機となったのが現在の主戦である矢野騎手との出会いだ。2018年3月の弥生賞競走で初コンビを組むと、続く同年の東京スプリントでは、11番人気ながらも後方からメンバー中最速の上がりを見せて4着と好走。サブノジュニアとの初コンタクトと、当時の東京スプリントを矢野騎手は振り返る。
「乗る前は、大型馬で引っかかりそうな感じがしたし、乗り難しそうなイメージがありましたが、当時の東京スプリントで凄いキレと瞬発力を見せてくれました。イメージほど乗り難しいことはなかったですね。重賞未勝利でしたけど、交流重賞でも十分に通用すると、当時から既に感じていました」
5歳時には右前寛骨の骨折により約9カ月の長期休養を強いられたが、「そこまで競走能力に影響が出なかったので、一つの良い休養と捉えました」と堀師。良い状態での復帰にこぎつけると、6歳となった2020年に本格化の時を迎えた。
3連勝となった9月のアフター5スター賞では念願の重賞初勝利。矢野騎手は、試行錯誤しながら共にサブノジュニアを成長させてきた陣営の努力に感謝する。
「パシュファイヤーを付けたり馬具も変えて、陣営の努力がレースに表れ始めました。それまでは抜け出すとソラを使うこともありましたが、一度勝ち始めたら馬自身も自信をつけ始めましたね。連勝し始めてから馬が変わってきたのは、乗っていても感じました」
ダートスプリント界の頂点に
10月の東京盃競走(JpnⅡ)では5着に敗れて連勝ストップとなったが、11月のJBCスプリントでJpnⅠ初挑戦。ジャスティンやコパノキッキング、モズスーパーフレアなどJRAの重賞ウイナーもひしめく中で8番人気という評価だった。それでも、道中11番手で追走すると、直線鋭い脚で馬群を割って突き抜け、先頭でゴール板を駆け抜けた。
堀師が「馬の状態もレース展開も枠順も、全てが思い通りに噛み合った結果。そこまで1,200メートルにこだわって使わせてもらったことも大きかったです」と振り返るレースは、今年でデビュー20年目を迎えた矢野騎手にとっても会心のJpnⅠ初勝利となった。
「それまでは返し馬の時、馬を怒らせないようにソフトに乗ることを心がけていました。ですが、JBCという大舞台ということもあって、返し馬でもギリギリを攻めようと気合いをつけていったんです。レースでも行き足がついて、想定よりも一つ前のポジションを取れて我慢できました」
「それまでもこの馬が大きなところで通用すると言い続けていたのですが、少し前に重賞を勝ったばかりでもあったので、『(最も大きな)ここで勝つのかよ』という気持ちも(笑)。通用すると言い続けた分、結果が出てホッとした気持ちも強かったですね」
地方勢として3頭目のJBCスプリント制覇という快挙を成し遂げたサブノジュニアは、NARの年度代表馬、4歳以上最優秀牡馬、最優秀短距離馬の3冠を達成。輝かしい称号を手にした。
年度代表馬としてのプライド
JBCスプリントを制した後は、中央の重賞(カペラS=中山・ダ1,200メートル、根岸S=東京・ダ1,400メートル)に挑戦。JpnⅠ王者ということもあっていずれも59キロの斤量を背負った中で8着、9着と敗れた。前走は大井に戻って重賞のフジノウェーブ記念競走(ダ1,400メートル)に出走したが追い上げ届かず、1着キャプテンキングから0.3秒差の4着に惜敗。堀師は敗因について語る。
「カペラステークスは初めての中山。直線の短いところで反応しきれなかったところがありましたし、東京の根岸ステークスもこれまで一度しか左回りの経験がなかった分、外に張りながらの走りになって、スムーズさを欠いていました」
一方の矢野騎手は前走フジノウェーブ記念競走について、「大井の1,400メートルはリズム的に難しいところがあり、ペースが合わなかったこともある」と分析。芝スタートで坂のある中山と左回りの東京での初コース、距離や展開が向かなかった前走と、敗因は明らかだ。そんな中で迎える今回の東京スプリントは、これまでの全12勝中11勝を挙げている大井の1,200メートル。JBCスプリントと同舞台の最適条件だ。
矢野騎手が「この馬が一番輝ける舞台」と自信をのぞかせる中、堀師も順調な仕上がりを強調。9日に行われた最終追い切りも5ハロン65秒台、ラスト11秒6でまとめた。
「この馬自体、表向きに見せるタイプではありませんが、最終追いきりもいつも通りの反応を見せてくれました。今回もしまいだけ気合を。若い頃はやんちゃな面がありましたが、今はそれがなくなって落ち着いていますよ」
今回の東京スプリントでも、JRAのオープン特別を連勝中のリュウノユキナ(牡6、美浦・小野次郎)やキャンドルグラス(牡7、船橋・川島正一)など手強い相手が揃ったが、矢野騎手は「この馬自身が、自分の競馬ができるかどうかだけ」と、人馬一体で馬の力を出し切ることに集中する。
「今となっては、『矢野と言えばサブノジュニアだろ』とファンの皆さんに思っていただけるほどの存在。思い入れは深い。年度代表馬という立ち位置にいることを理解していますし、鞍上としてそれに恥じないような騎乗をしなければいけないと常に思ってこの馬に乗っています」
5枠9番という枠順も、「真ん中から外がいい」(堀師)、「出方次第で進路が取れる、内過ぎず、外過ぎずの枠がほしい」(矢野騎手)と口にしていた陣営の希望どおりだ。矢野騎手は力強く語る。
「地方競馬の代表として、中央の馬を倒すという強い気持ちを常に持っているんです」
ホーム大井の絶好舞台、年度代表馬としてのプライドを見せる時。復活Vを狙うサブノジュニアの東京スプリントの走りから目が離せない。
取材・構成=音堂泰博