現役時代はヤクルトスワローズ(現:東京ヤクルトスワローズ)などで捕手兼外野手として活躍し、引退後は様々な球団でコーチを務め2019年は読売ジャイアンツのファームバッテリー兼打撃コーチを担当。現在はDAZNのプロ野球放送で解説を務める秦真司氏が、3回にわたって日本シリーズを展望する。
(インタビュー・構成=川嶋正隆)
──パ・リーグではクライマックスシリーズ(CS)を勝ち上がってきた福岡ソフトバンクホークスが4年連続の日本シリーズ進出を決めました。
工藤公康監督の凄さは、シーズン7カ月というスパンで見て、開幕ダッシュの他に9月10月にどれだけスパートできるかということを大きく考えている部分ですね。これはあくまで僕の考えですが、開幕でメンバーが揃っていなくても五分の成績で戦えていれば、10月11月に勝負できるというイメージが工藤監督の頭の中にはあるのかなと思いますね。そこは他の球団の監督との大きな違いだと思います。
──昨シーズンは読売ジャイアンツを相手に4連勝を達成し、ポストシーズン10連勝(現在は12練習中)を達成するなど短期決戦の鬼ともいわれています。
おそらくですが、今回の日本シリーズについても日本一を考えるなかで1戦目に仮に負けても2戦目に勝てばいいという考えがあるはずです。去年と同様に、1戦目は種まきでいいと考えているでしょう。
昨年を振り返ると、坂本勇人へのインコース攻めですね。坂本はインコースに強い選手なのですが、そこにあえてインコース攻めをしていました。あれは間違いなく種まきで、坂本を完璧に崩しましたね。
──工藤監督の思考を読み解くと7試合を考えた上で1試合目の使い方が大事になると?
おそらくですが、工藤監督の中では3つ負けられるという考え方をしているのでしょう。だからこそ1試合目に種まきができるのかなと思います。1試合目にしっかりと種を撒いて、そこで負けたとしても1勝1敗でホームに戻ることができれば十分に勝機があると思っていはずです。
当然、全ての試合で勝つに越したことはないのですが、1戦目は相手を探りトライする。そういうことを考えた作戦や起用を考えていると思います。当然ですが、ソフトバンクはタレントが揃っているので、メンバーが揃えば相手を圧倒できます。そういうチーム力がある上で、シーズン中のプラン、CSのプラン、日本シリーズのプランをしっかり立てて戦えている感じがします。
──というとやはり日本一は?
ソフトバンクですね。日本一になると思います。
──逆に巨人がそのソフトバンクを倒すために必要なものはなんですか?
巨人が勝つためには菅野智之が2勝して、残りの2勝を誰がするか。難しい戦いですが、接戦に持ち込んで中川皓太、高梨雄平、大江竜聖が押さえ込んで僅差のゲームを逃げ切れるかどうかがポイントになるかなと思います。どちらにしても、大差がつく試合になるとは思えないので、僅差をモノにできるかどうか。そういう戦いになるんだということを、ベンチメンバーを含めてチームで共有できるかが大事ですね。
さらに巨人には様々な細かな部分のこだわりも必要になります。相手データプラス打者の動きを見て打球処理をし、相手の動きを見て次の塁を狙うなどちょっとした細かなスタートやスライディングや守備位置など、相手が嫌がるような動きができるかどうかが大事になります。そこでしか勝機は見出せないのかなと思います。それくらい細かい動きを一人一人がやりきらないと、ソフトバンクに対応できないでしょう。
──ディテールが勝敗を分けると?
感性の部分です。ミーティングだけではなくて、自分の目で見ている感覚や100分の1秒の中で相手の仕草、動作、バットに当たる角度などを見逃さずにプレーできるかどうか。相手の動作を見逃さずに安打を凡打に変えたり、セーフをアウトにすることができるかどうか。
そういう感性の高さをグラウンドでうまく表現できるかが大事です。よく集中力とは言いますが、かなり高いレベルで、ベンチにいるメンバー含めて集中力を高め、一瞬の隙を付き相手と戦えるか。隙を逃さずにやれるかが勝負のポイントになると思います。
特に1番、2番の吉川尚輝や松原聖弥は、動物的な動きができるタイプでそういう感性を緊張感のなかで表現することができるかどうかが楽しみですね。いい方に出ればいいですが、体が動かない状況になってしまえばジャイアンツに勝ち目はないと思います。
やってやろうという気持ちで、自ずと体が動くようなことができれば面白いと思います。「ナイスプレー」や「スーパープレー」というものをいくつ見せられるか。ここ一番でそういうプレーが出せると流れが掴めますし、日本一になれるチームにふわさしくなる。
緊張感で動けなくなる選手も出てくるでしょう。緊張感を力に変えられるだけのプラスアルファの能力を出すことができるのか。それが出てくればジャイアンツは戦前の予想をひっくり返せる。いろいろなデメリットを跳ね返せるでしょう。ただ、戦前の予想は非常に厳しい状況、条件だと思います。
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