本当に無念だろう。だが、阪神・矢野燿大監督の言葉が現実になると信じている。
「ヤギ(青柳)はそういうのをプラスに変えられる選手なので」
16日、ソフトバンク戦(ペイペイD)の試合中にショックなニュースが飛び込んできた。青柳晃洋投手が新型コロナウイルス陽性者との濃厚接触の疑いがあるとして隔離された。本人は同日の検査では陰性だったが、翌17日に陽性と発表された。開幕投手に決まっていた右腕が3月25日のヤクルト戦(京セラD)のマウンドに立つことは不可能になった。
矢野監督が開幕投手を公表したのは、青柳がチームを離れたわずか5日前だ。11日の中日戦で7回1失点と好投した28歳を「もちろん、去年の結果も踏まえてね。任せていいんじゃないかって、みんなもそう思っている」と指名。4日に本人に通達していたことを明かした。
7年目で自身初の開幕投手。昨年の最多勝右腕は「目指していたところでもありますし、第一の目標でもあった。そこで投げるという気持ちを持ってずっとオフからやっていた」と意気込んでいた。競争を促すために、指揮官がなかなか明言しなかった大役。「やっと言ってもらえたなという感じです」とも笑顔を見せていた。オフから誰よりも意欲を見せていた投手だからこそ、悔しさは計り知れない。
矢野監督は「いや、もうしゃあないよ」と受け止めると「そういうのをバネにできる選手なので」と続けた。これまでも決して順風満帆な野球人生ではない。球団の生え抜きの開幕投手では史上最下位のドラフト5位入団。指揮官は「上手い選手でも、センスがある選手でもない。それが練習をしっかりやったり、素直な心を持ってるというか。そういうふうに野球に取り組んでくるとね、こういうこと(開幕投手)があるんだなって。それをヤギから学ばせてもらっている」と感慨深く語り、青柳自身も「ドラフト下位で、ずっと制球面や苦手なことが多かった。2軍にいる選手、プロを目指している人に『こんなへたくそでも、ここまでできる』と見てもらえたら」と実感していた。
その歩みも開幕投手に選ばれた理由の一つ。春季キャンプでは「去年と同じでは結果が出ない」と常に進化を心がけていた。生命線であるスライダーとツーシームを封印。新たな投球パターンを身につけるため、シンカーやカーブの使い方を試行錯誤し、この数年は投げていなかったチェンジアップにも再挑戦した。矢野監督は「開幕投手って結果だけでなく、姿勢やそういうものも求められる。元々チャレンジする意欲の高い選手。ヤギの挑戦する姿勢はチームにもいい影響を及ぼす」と話していた。
何よりも、矢野阪神を象徴するような投手だ。2軍監督時代から期待をかけ、1軍監督に就任した2019年に先発として定着。少しずつ成績も上がり、タイトルを獲得するまでに至った。「ずっと見てきたので俺もうれしい。指導者としても励みになるというか」。今季限りでの退任を表明しており、監督として指名する「最後の開幕投手」にふさわしい名前だった。
背景を考えれば考えるほど心苦しいが、誰にでも起こりうること。「しゃあない」と「バネにできる選手」という言葉が全てだ。「僕は矢野監督になってから出てきた選手。いろいろ思うところはあります。監督と一緒に日本一になって、有終の美を飾れたらうれしいなと思います」と話していた背番号50。一つの晴れ舞台は消えてしまったが、何度でも指揮官とハイタッチをかわしてほしい。
文・安藤理
1986年1月27日生まれ。36歳。愛知県出身。2021年に報知新聞社入社。22年から阪神担当。
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