2022年型の新生・ホークス
藤本博史新監督を迎えてV奪回を期す福岡ソフトバンクホークスが2月26日に、いよいよオープン戦の初戦を迎える。
新生ホークスとなり「世代交代」の言葉をどれだけ耳にしただろう。王貞治球団会長兼特別チームアドバイザーからも「ホークスもその時を迎えたと思っている」との発言が飛び出した。
ただ、出番は与えられるのではなく自ら掴むものというのがプロ野球の常であり、約20年間ホークスを取材してきた筆者から見ても、それはこれまでのチームの良き伝統の一つだったと感じている。
藤本監督もその考えは曲げていない。
「若手若手と言うけれど、若手だけで野球はできない。ベテランや中堅も一体とならないと強い野球はできません。柳田(悠岐)、中村晃、今宮(健太)、松田(宣浩)が若手と競争していくのが大事だと思っています」
ただ、その中でも「ベテラン、中堅、若手が競争し合ってもらえればいい。レギュラーは決まっていない。若い選手も十分チャンスだと思ってもらっていい」とも口にした。
オープン戦は、2022年型のホークス、さらには藤本野球を構築していく大事な戦いの場だ。その中で、特に注目したい若鷹とは──。
ロマン砲・リチャードはポジション奪取なるか
藤本監督の期待筆頭株であり、良い意味でも悪い意味でも気になって仕方ないのがリチャードだ。昨季まで2年連続ウエスタン・リーグ本塁打王の大砲。昨季終盤に待望の一軍デビューを果たすと34試合出場の116打席で7本塁打を放った。仮にシーズン500打席に立ったと換算すると、30.2本塁打を放つことになる。
今年は1月の自主トレ期間中に新型コロナウイルスの陽性判定を受けて、キャンプインからしばらくは筑後のC組で過ごした。しかし、災い転じて福となす。同じくコロナの影響でC組キャンプを送っていた柳田悠岐にバッティング談義を求めたのだ。
「シーズン中だと邪魔になるかなと思って、昨年は聞けなかった。今しかないと思って。柳田さんの(打球の)『角度』がすごくいいと、ずっと思っていたんです。ホームランもそうだけど、ヒットゾーンに打球が落ちる。だから3割打てるんです。ボールに対してどうバットを入れているのか、どんな意識なのか教えてもらいました」
そもそも左右が違うのにと思ったが、リチャードは「それがいい」と言った。
「僕から見ると、左打ちの柳田さんは鏡映しみたいでめちゃくちゃ分かりやすいんです」
また、我々が“変態打ち”と評する柳田特有の超絶打球についても「あれは変態なんかじゃないですよ。理に適っていて、あれこそ僕の理想。バットのヘッドを返さないで打っている」と言葉を並べた。
「自分のやっていることの中に、それも意識しながら取り組んでいます。フリー打撃では良い感じで打てています」
松田の壁を乗り越え、三塁のレギュラー獲りへ。とにかくオープン戦で結果を残すのみだ。
注目の中堅手争い
そして、ポジション争いでし烈を極めているのが中堅手争いだ。右翼は柳田、左翼は栗原陵矢で固まっているのに対し、中堅は左打ちでは上林誠知、牧原大成、柳町達の3人が候補に挙がる。右打ちは佐藤直樹、真砂勇介あたりか。争いに敗れればベンチウォーマーどころか、一軍に生き残ることすら難しくなる。
また、藤本監督が「なかなか決まりません」と頭を悩ますのが、今季の打順構想だ。
「3番に柳田、4番がグラシアル、5番は栗原のジグザグは固まっています。まずは1番。出塁率の高い選手が理想なので中村晃と言いたいところですが、彼にはチャンスで回ってくる6番に座ってほしい」
1番候補として名前が挙がるのが中堅手争いもしている牧原大と上林、そして二塁レギュラー候補の三森大貴だ。なかでも三森は昨季交流戦以降にスタメン定着を勝ちとりシュアな打撃を見せた。さらに16盗塁の脚力もリードオフマン向きだ。藤本監督の構想は当然耳にしており、「僕もそこを目指していかないといけない」と鼻息荒い。キャンプを通じても「自分のやりたいこと、今年の形がしっかり出来た」と手応えを口にしていた。
また、他の野手では近年チームの課題とされていた右打ち野手の野村大樹や井上朋也のバッティングにも期待したいところ。
野村大は藤本監督も「代打の切り札になれる」とお墨付きの勝負強さがある。井上は19歳とは思えない落ち着きと高い野球センスが感じられる逸材で、将来の中軸候補だ。松田とリチャードが争う三塁手争いにどれだけ迫れるか楽しみ。そして、ルーキー野村勇は、藤本監督が「タイムを計ったら佐藤直より上。本多コーチは『周東より足が速い』と言っていた」という韋駄天。25歳入団でもともと即戦力と期待されているが、球界トップレベルの“一芸”をオープン戦の中でどんどんアピールしてほしい。
田中正義はローテー入り目指す
一方、投手陣は若い先発候補がずらり。
開幕投手は千賀滉大にすでに決定。2カード目の初戦も石川柊太が内定しており、東浜巨と和田毅の実績組もローテ入りをほぼ確実にしている。そして、先発期待の外国人勢が開幕には間に合わない見通し。つまり開幕先発陣の6枠まで残り2つのイスを争うことになる。
充実著しいのが田中正義だ。5球団競合のドラフト1位入団ながら5年間未勝利と苦しんだ。しかし、昨季は自己最多18試合登板で防御率2.16と好投。昨年から表情が明るくなっていたが、今春キャンプでは逞しさも加わってきたように映る。目標を訊ねるとプロ1勝ではなく、「ローテ入り。そうなれば2桁勝利も見えてくる」とはっきり口にするようになった。
また、見えるといえば、キャンプ途中からメガネを着用するようになった。「自主トレの時に、トレーナーさんから視機能にのびしろがあると言われて。しっかり焦点を合わすなど正しく視ることが、体の動きを良くすると考えている。新スタイルの田中正の覚醒が楽しみだ。
さらにローテ候補には右腕では松本裕樹や杉山一樹、左腕では大竹耕太郎や大関友久の名前が挙がってくる。コロナの影響で調整が遅れていた右の板東湧梧、左の笠谷俊介も経験値でいえば逆転可能だ。投手の場合、野手ほどアピールチャンスは多くない。目の前の一戦集中が必至だ。
藤本監督は「(3月11日からの)東京遠征あたりが1つの目安」と開幕一軍メンバーの絞り込みについて示唆している。
2年ぶりのリーグVと日本一を目指すシーズンを戦い抜く前に、まずはチーム内での白熱バトルが繰り広げられる。公式戦とは違う、手に汗握る毎日がまた始まっていく
文・田尻耕太郎
1978年生まれ、熊本市出身。法政大学卒。ホークス球団誌の編集を経て、2004年夏にフリーに。一貫して「タカ番」スタイルの現場主義を大切に取材活動を続けており、2021年にちょうど20年目のシーズンを迎えた。「Number」など雑誌・ウェブ媒体への執筆のほか、ラジオ出演やデイリースポーツ特約記者も務める。
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