29日から2022年の「伝統の一戦」は第3ラウンドを迎える。阪神は開幕から苦戦が続き、勝率2割台の最下位に低迷。巨人戦も2勝4敗と負け越しているが、これまでの戦いの中でファンが最も盛り上がりを見せた瞬間は、やはりこのカードの一幕だろう。
4月15日の甲子園。佐藤輝明内野手(23)がエース菅野を打ち砕いた。0-1の5回に2ランを放ち、今季初の逆転勝利。6連敗を止め、新型コロナウイルスから復帰した青柳に白星をプレゼントした。
「菅野さんから打ったことがなかったので。初ヒットですよね? うれしいです。なかなか捉えきれない中、最後に打てる球が来て。それがホームランだったのでよかったです」
前の打席まで通算8打数無安打に抑えられていた球界屈指の右腕から初めての快音。23歳の大砲は声を弾ませていた。
入団前から対戦したい相手として真っ先に名前を挙げた好投手と、29日に早くも今季3度目の対戦となる。場所は敵地・東京ドームに変わるが、再現が期待される。
今季ここまで打率2割8分4厘、6本塁打、14打点はチーム3冠。菅野だけでなく中日・大野雄、広島・森下とエース級からも本塁打を放っている。2年目にして、もう打線の主役。苦しいチームは頻繁に打順を組み替えているが、首脳陣の焦点は「佐藤輝をどこに置くか」。4番に始まり、2番、3番。一時は1番も検討された。チーム7勝のうち4試合で打点を記録している男がキーマンであることは明らかだ。
主砲―。あっという間にそう呼ばれるようになった背番号8には、印象に残るコメントがあった。22日のヤクルト戦(神宮)。ともに打線の軸を担う大山が先制弾、自身は貴重な追加点を奪う適時打を放って勝利した試合後だった。
「打つべき人が打てば、勝てると思うので」
チームを支えるべき打者だと自覚しているような言葉。2年目の選手がサラリと言ったことに驚かされた。
数々の大打者も決して最初から責任を負ってなどいない。偉大な先輩に引っ張られ、背中を追うように大きくなった。最近のセ・リーグに目を向けても実感できる。巨人・坂本は小笠原道大、阿部慎之助、ラミレスら豪華な布陣の中でもまれ、飛躍した。その坂本に支えられ、岡本和が成長。ヤクルトではバレンティンがどっしり座る打線の中で、山田が川端らとともに力をつけ、チームの顔になった。そして、村上が続いた。広島もメジャーに挑戦した鈴木誠也が新井貴浩、菊池涼や丸に囲まれながら羽ばたいた。パ・リーグでも、西武やソフトバンクには常にその構図が成り立っている。
佐藤輝は、そんな手本がいないままタテジマの看板を背負った。さらに酷なのは、本来は一緒にクリーンアップを組む2人も不在。マルテは右足を痛めて離脱しており、大山も左足を痛めてスタメンから姿を消している。井上ヘッドコーチは「輝明しかいないとなってしまうと、重荷だけど」と思いやった。重圧を理解しながらも「あいつも成長というか、自覚が出てきたので大丈夫だと思います」と託すしかない状況だ。
ルーキイヤーの昨季はシーズン後半に大失速。野手のプロ野球ワースト記録となる59打席連続無安打の屈辱も味わった。まだ進化が注目される段階であるはずの今季。求められる仕事は想像以上に大きくなった。ドラフト制以降、球団史上最年少で開幕4番に座ったスラッガー。大役を見事につとめ上げた時の価値は計り知れないものになる。
文・安藤理
1986年1月27日生まれ。36歳。愛知県出身。2021年に報知新聞社入社。22年から阪神担当。
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