巨人の投手陣で唯一、開幕から先発ローテを守っているのは、ここまでリーグ2位タイの5勝を挙げている戸郷翔征投手。開幕前に2軍降格という壁を乗り越え、先発陣をけん引して好調を維持している。
2020年は高卒2年目ながら開幕ローテを勝ち取ると9勝6敗、防御率2.76。菅野とともに一度も離脱することなく、先発陣の一角としてリーグ連覇に大きく貢献した。昨季は目標を15勝に設定していたが、後半戦わずか1勝と失速して無念の9勝止まり。初めて規定投球回に到達したが、防御率は4.27と悪化した。「全然満足していないですし、1年通していい結果じゃなかった」と悔しさを味わっただけに、今年へかける思いは人一倍強い。
自身だけでなく、近い将来に向けて若手投手陣の底上げも念頭に置いている戸郷は今オフ、同学年の横川、戸田、育成・笠島の3人と「TEAM TOGO」を結成。自主トレリーダーとしてチームを引っ張るかたわら、昨年球団が契約したボディービル日本選手権9連覇の鈴木雅氏の指導の下、下半身を徹底的に強化した。
「昨年はストレートが軽々とはじき返されて悔しかった。手元で伸びるキレのいい真っすぐを投げるためにも、下半身を強化することが必要だと思う。もっともっと圧倒できるような投球をするために、追い込んでいきたい」
昨季19本の被本塁打のうち、15本が直球。球の質の向上をテーマに掲げ、下半身をいじめ抜いた。
2月のキャンプでは、昨季限りで現役を引退した元西武の“平成の怪物”松坂大輔氏から宝刀・スライダーを伝授された。日米通算170勝を挙げ、一時代を築いた伝説の右腕から、スライダーの握りや腕の振り方など約2分間、貴重なアドバイスを受けた。
「僕は(球を離す瞬間に指で)切っていたんですけど、松坂さんはあまり切らない感じで。今までの僕にはなかった感覚で、すごく新鮮だった」
これまでは抜けてしまうのを恐れ、曲げようと意識しすぎていたが、腕の振りに集中することで、打者により近く、鋭い曲がりへと進化した。
春季キャンプ序盤は順調に調整を重ね、当初は開幕投手候補に名を連ねていた戸郷。もちろん開幕ローテ入りも有力視されていたが、実戦期間に入ると精細を欠いて失点を重ねた。桑田投手チーフコーチから「ローテを任せられる内容ではない」と指摘され、キャンプ終了後に2軍降格。「実戦で結果が出なかった。悔しさしかない。まだ技術が不足していると感じました。1軍のローテにいないと僕自身もいけないと思う。結果を求めていきたい」と自らを奮い立たせた。
開幕直前に壁にぶつかった戸郷だったが、決して後ろを向くことはなかった。キャンプ期間中は「出力が出ていなかった」と自らを分析。結果を追い求めすぎた結果、配球や制球への意識が強くなった。そのためテイクバックが小さくなり、球威も失われた。「出力が出なかったのは心残りでもあって。一から自分を見つめ直して、トレーニングにおいても、技術面においても、結構自分を追い込んでやっていました」。今の自分に必要なことは何か。自らの持ち味を見つめ直す中で思うようにいかないこともあった。だが思い切りよく、強いボールを投げることを意識することで、本来の投球がよみがえった。
ファームでは最速154キロを計測するなど球威も取り戻し、2試合連続で好投。復調した右腕は、3月22日の楽天とのオープン戦最終戦(東京D)で1軍の先発の機会を得ると、4回1安打1失点で最速153キロをマーク。最後の最後で滑り込み、自らの力で開幕開幕ローテ入りを手にした。開幕2カード目の初戦、3月29日のヤクルト戦(神宮)で7回2失点10奪三振と好投し、今季初先発初勝利。その後も順調に白星を重ね、今季9登板中8度のクオリティースタート(QS=6回以上自責3以下)を達成。チームの先発の柱として、5月までに5勝を挙げている。
開幕前に2軍降格したことで悩むことも多かったが、「一つのターニングポイントだったと思う」とその期間を振り返る。
「やっぱり2軍に落ちたことが1番変われたきっかけです。初心に戻ることで、自分と向き合うことが出来ました」
仲間でありライバルでもある若手の頑張りも力に変えている。開幕ローテ入りを果たした山崎伊、赤星、守護神の大勢らも戸郷とともに1軍の舞台でチームの勝利に貢献。「僕自身も全て(ポジションが)決まっているわけではない。(勢いに)押されると、ちょっと嫌な気持ちもする。いい向上心を持てているんじゃないかなと思います」。ライバルの活躍が、相乗効果をもたらしているのかもしれない。
戸郷はハーラートップタイの6勝目をかけて、3日のロッテ戦(東京D)に先発する。相手先発は佐々木朗希投手。前日2日に先発し、両リーグ単独トップの6勝目を挙げた菅野が、「明日は戸郷が『絶対佐々木朗希くんに負けない』と言っていた」と話したように、4月10日のオリックス戦(ZOZO)で史上最年少での完全試合を達成したロッテの若きエースとの投げ合いに、負けるつもりは一切ない。
「対戦の少ない相手なので、攻めのピッチングで1点でも少なく長いイニングを投げられるように頑張ります」と背番号20。巨人の将来のエース候補は“令和の怪物”との注目の投げ合いを制し、ここからさらに弾みをつける。
文・灰原万由
1997年6月20日生まれ。24歳。千葉市生まれ、大阪府吹田市育ち。東京工業大学附属科学技術高から中央大学法学部を経て、2020年報知新聞社に入社。昨年から読売ジャイアンツ担当。主に投手を取材中。
関連ページ
● 【交流戦特集】佐々木朗希との対戦は「歴史に残る名勝負になる」。専門家が見た巨人・岡本和真の成長|プロ野球
DAZNについて
DAZNなら好きなスポーツをいつでも、どこでもライブ中継&見逃し配信!今すぐ下の記事をチェックしよう。
● 【番組表】直近の注目コンテンツは?
● 【お得】DAZNの料金・割引プランは?