千賀滉大、自身3度目の開幕マウンドへ
ホークスは12球団最速で今季開幕投手を決めていた。まだ春季キャンプ中盤だった2月15日に、藤本博史監督の口から明らかにされた。
「決めました。伝えました。千賀で行きたいと思います。やはりチームのエース。(開幕戦は)143分の1かもしれないけど、そこを任せられるのはチームで一番信頼をされているピッチャーだと思いますから」
千賀滉大が自身3度目の開幕マウンドに臨む。
大役を務めるのは3年ぶりだ。昨季まで6年連続2桁勝利マークは、チームの福岡移転後初の快挙だ。斉藤和巳や和田毅、杉内俊哉らの名投手たちも成し得なかった領域に、千賀は足を踏み入れている。
しかし、過去2年は春季キャンプを故障のためリハビリ組や別メニューで過ごした影響で満足な準備期間を過ごすことが出来なかった。
今オフはここ数年なかった充実の時間を送ってきた。昨年の秋も、本来は免除されていた宮崎秋季キャンプに姿を現して調整を行なった。年が明けて、今年1月は2年連続で宮古島自主トレを敢行。長らく「自主トレ仲間」である石川柊太らと入念なトレーニングに打ち込んだ。2月の宮崎春季キャンプは、藤本監督ら首脳陣の方針で主力投手は自主調整となったためにB組からスタート。その中ではこんな頼もしい言葉も残していた。
「キャンプ序盤のブルペンだったけど、今年は自分と向き合いながら過ごせているのもあって、去年のシーズン中よりも今の時点で感触が良いです」
定期的にブルペン入りして投球練習に励む中、話題に上がったのが“新球種”だった。
昨年とは違う新たなスタイル
「シンカー、いきます」
捕手にそう伝えて、右腕を振りに行く。代名詞のお化けフォークは真下にストンと落ちる感覚だが、そのボールは右打者の膝元へ少し食い込む軌道でスッと落ちる印象だ。これがまた、かなりスピードもあって、パッと見でも分かるくらいにキレがあった。それも、まだキャンプ序盤の頃だったにもかかわらず、だ。
“シンカーを本格導入”
“お化けフォークの次はお化けシンカーだ”
各メディアでそんな見出しが派手に踊った。
千賀は周囲の過熱する反応に、ちょっと苦笑いしてこんな風に話した。
「これまでも投げていた“スプリーム”ですよ。ダルビッシュさんから教わった。それを、キャッチャーへ分かりやすく伝えるためにシンカーと言っているだけです」
とはいえ、いざ実戦が始まり、そしてオープン戦へと進んでいく中でその球種を投げる割合は昨年までより増しているように映る。配球全体としても、あまり使っていなかったカーブを多めに入れることを試すなど、昨年までとは違ったスタイルを確立させようとしているように見えた。
野球人・千賀滉大の生き方を、そこから感じ取ることができた。
「シンカーを覚えようとしたのは、自分の幅を広げるためでもあるし、そのためには色んな球種があった方が良いと思ったからだけど、単純に真っ直ぐとフォークだけというのは、僕もそうだし見ている人も飽きていると思うんです。ずっと一緒じゃ面白くない。進化していく方が面白くないですか? 僕はそういう考えなので」
球種だけではない。千賀は近年、投球フォームも大きく変えている。かねてよりマイナーチェンジは行なっていたが、大胆なフォーム変更に取り組んだのはコロナ禍で開幕延期となった20年の春先のことだった。だが、その年は準備期間が短すぎたことで元のフォームに近い形に戻してシーズンを戦い抜き、結果的に自己最多タイの13勝(8敗)をマークしたほか、自己最多の180.2回を投げて、こちらもキャリアハイの227三振を奪った。奪三振ではタイトルに輝いた。
ぶっちぎりでキャリアハイ
物事の考え方は十人十色だが、無理して投球フォームを変える必要はないのだ。しかし、千賀は新しいチャレンジを続けた。昨年、ある程度の形づくりはできていた。そして今シーズンを迎えるにあたって、十分に近いほどの準備期間があったことで、理想形だったものが完成形へとかなり近づいている。
「何事もやってみることが大事。やりもしないで、新しいコトに否定的になるのは僕は好きじゃないんです」
もう5、6年前だったが、あの頃から千賀はそんな話をしていた。
周囲の多くから「千賀ほどの球があれば、20勝だって夢じゃない」と言われながら13勝が最多という現状を打破したいという思いは胸の中でずっと抱いている。
「ぶっちぎりでキャリアハイ」
今季の目標を訊かれると、必ずそう答えている。
オープン戦は3試合に先発した。1勝1敗、防御率3.86。2月26日の宮崎でのオリックス戦では3回8安打を浴びて4失点で黒星を喫したり、福岡に戻ってからは新型コロナウイルスの濃厚接触者疑いとなったために予定先発が1度キャンセルになったりという出来事があったが、開幕前最終登板だった3月18日のカープ戦は7回1失点無四球8奪三振と万全をアピール。最速158キロの直球、変化球も自在に操って、球数も90球としっかり投げた。
「本当は5回終了後のインターバルを挟んで投げることを開幕前にクリアしたかったんで」と、『(6回で)もういいです』と藤本監督に申し出たが「球数が足りない」と苦笑いで返されて、「じゃ、30~40球放ってきます」とジョークを飛ばす余裕のやり取りもあった。
「まだオープン戦。アドレナリンはまだ出ていません」
本番モードになるのは、3月25日、PayPayドームのマウンドだ。相手は新庄ビッグボスが率いるファイターズ。それが決まった時、「とりあえず(ビッグボスと)インスタでつながっているので気をつけます」と笑っていた。
過去2度の開幕投手では、その時点での自己最速を更新してみせた実績もある。3年前は第1球目で161キロをたたき出した。
アドレナリン全開で臨む2022年の第1球。千賀はどんなボールで新庄ビッグボスの度肝を抜くだろうか。
文・ 田尻耕太郎
1978年生まれ、熊本市出身。法政大学卒。ホークス球団誌の編集を経て、2004年夏にフリーに。一貫して「タカ番」スタイルの現場主義を大切に取材活動を続けており、2021年にちょうど20年目のシーズンを迎えた。「Number」など雑誌・ウェブ媒体への執筆のほか、ラジオ出演やデイリースポーツ特約記者も務める。
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