2022シーズンのプロ野球は、7月29日のカードから後半戦に突入した。現役時代はヤクルトスワローズで、不動の1番打者として黄金時代を支え、現在はDAZNで解説を務める飯田哲也氏が、各球団の1番打者を総括。リードオフマンの重要性について語った。
(インタビューは7月15日に実施)
1番打者に求められるものは“出塁率+長打”に変わってきた
──飯田哲也さんといえば、リードオフマンとして1990年代にヤクルトの黄金時代を支えてきました。1番打者に求められるものとはなんでしょうか?
飯田哲也(以下、飯田 ) 1番打者には2つのタイプがあります。『長打が打てるタイプ』と、『出塁率を求めるタイプ』です。
私は後者。当時の野村克也監督は、先制点を大事にされる方でした。だからこそ「1番打者はなんとしても塁に出ろ」と。安打でも四球でも死球でも、なんでもいいからとにかく出塁することを考えて打席に立っていました。また、あの頃の野球は1番が出塁して2番が送って、3番や4番で返すのがセオリー。だからどのチームの1番打者も、出塁の意識は今以上に高く持っていたと思います。
一方で現代は前者のような『長打が打てるタイプ』が増えています。例えばヤクルトの塩見泰隆。出塁して盗塁もできるのですが、さらに長打も打てる。今の時代のリードオフマンは、塩見のように長打を打てて、足がある選手が最適ですね。
──時代によって、1番バッターの役割が少し変わってきた?
飯田 変わっていると思います。昔と比べると、今は1番打者に強打者のイメージが少しずつつき始めているのかなと。塩見を筆頭に、長打を打てる選手が増えてきました。私の時代は、1番打者にホームランはノーマーク。投手からするといかに塁に出さないか、打者からするとどうやって出塁するか。そこのせめぎ合いでしたね。
──出塁率を気にしていた飯田さんが、リードオフマンとして大事にしていたことは?
飯田 1番意識していたことは、三振しないことです。三振すると何も起こらない。ゴロを打てばエラーするかもしれないし、内野安打になるかもしれない。フライを打ってもポテンヒットの可能性がある。でも三振は振り逃げしかない。だから三振する1番打者は、私から言わせてもらうと残念ですね。
あとはチームの先頭なので、悪い流れを持ってこないようなプレーを意識していました。あっさり三振してしまうと、「今日の相手投手はすごいのかな」と仲間に思わせてしまう。だから簡単に打席を終えないことはかなり重要です。
──そういった極意は野村さんに教え込まれた?
飯田 野村さんからはいろいろな影響を受けましたね。バッティング練習を後ろで見ていて「フライを打ったら使わないぞ」と言われるわけですよ。たまにホームランとか打つと「調子に乗るなよ。わかってるだろうな」と(笑)。なので必死にゴロを打つ練習をしていましたね。
監督以外では、阪神タイガースの和田豊さんのバッティングを見て勉強していました。和田さんは、9割くらいライト前に打つ。いや、そこにしか打たない(笑)。でもすごくためになる打ち方をされていて、その1つがヘッドの返しです。和田さんは絶対にヘッドが返らないんですよ。
バットのヘッドが返るからゴロになるしフライになる。でも和田さんのようにヘッドが返らないと、しっかり弾き返すことができるし、詰まってもポトリと落とせる。野村監督にも「和田のバッティングを見とけ」と言われましたし、そこからたくさん学びましたね。
ソフトバンク時代に対戦した1番・投手・大谷翔平
──1番打者はチームにとってかなり大きな存在だと思います。初回は特に1番打者が出塁することで4番に打席を回すことができますね。
飯田 チームの鍵は1番と4番。おっしゃるように、1番打者が出塁することでクリーンナップにチャンスを作って回せる。
また、初回はどうしても投手が安定しないことが多いです。そこで3割打つような打者との対戦は神経を使う。さらに長打も狙えるような打者だと余計に嫌ですよね。日本ハム時代の大谷翔平が1番で起用されることがありましたが、とにかく嫌でした。
──飯田さんがソフトバンクのコーチ時代に『1番・投手・大谷』と対戦されています。
飯田 あの日(2016年7月3日の試合)は、オーダーを見て「(大谷が)1番だよ。大丈夫かな」っていう雰囲気だったのを覚えています。案の定、最初の打席で先頭打者ホームラン。中田(賢一)が投げたカーブを完璧に捉えられて、右中間スタンドに運ばれましたね。あの一発で流れを持っていかれました。
──一方でソフトバンクも、以前は柳田悠岐選手を1番で起用する形もありました。
飯田 昔はありましたね。あの頃はまだ柳田の足が速かったから(笑)。でも柳田も大谷と同じで、プレーボールでいきなり対戦するのは絶対に嫌なバッターです。出塁率が高くて長打も打てるので、まさに今の野球にあった1番打者だと思います。ただ、今のホークスで同じように1番打者として柳田を起用するならば、しっかりした3番や4番がいないと意味がありません。強打者の1番起用は、チームのバランスも非常に大事になってくると思います。
──先ほどは塩見選手の話が出てきましたが、他にも気になる1番打者はいらっしゃいますか?
飯田 私がヤクルトのOBだからというのもありますが、塩見はよく見ている選手です。今年のヤクルトが首位にいる要因は、彼のバッティングにあると思います。村上(宗隆)は確かにすごいバッターですが、塩見がチームにいい流れを持ってきているからだと思います。
そのほかでは巨人の吉川尚輝もいい1番打者ですね。打率もそこそこあって出塁率が高く、足も速い。巨人の1番打者は彼が最適だと思います。よくある話なのですが、1番打者としてある程度結果を残してくると、首脳陣は3番で使いたくなる。でもそこで動かさずに、信頼して1番で固定することが大事だと思います。
他にもたくさんいい1番打者はいるのですが、最も期待しているのはロッテの荻野貴司です。
「荻野貴司は現役時代の自分に重なる」
時事通信
──飯田さんのインタビューでは過去にも荻野選手の話が出ていましたが、荻野選手を評価しているポイントは?
飯田 荻野はリードオフマンとはなんぞやをわかっていますね(笑)。プレーを見ていると私の考えと非常に似ています。ファウルで粘れるし、選球眼がいい。足も速くて、塁に出ると常に相手へプレッシャーをかける。「1番打者ってそうだよね」と思うことをやっている選手です。
足の速さでいうと、楽天の西川遥輝も速い。でも1番打者としては、私とは違うタイプ。彼は長打も打てるから、打席に立った時に長打を欲しがっているように見える時があります。でも荻野はとにかく出塁に徹する。彼を見ていると「主役はクリーンナップで、自分はそこにお膳立てするんだ」という思いが感じられて、現役時代の自分と重なる部分が多いです。
──後半戦は1番打者の活躍に期待ですね。
飯田 最初に言いましたが、1番打者は『長打が打てるタイプ』と『出塁率を求めるタイプ』に分けられると思います。ぜひそこに注目しながら、各球団のリードオフマンたちがどんなプレーをしているのか見てもらいたいですね。
インタビュー= 川嶋正隆
1986年5月9日生まれ、福岡県福岡市出身。大学卒業後に携帯サイト『超ワールドサッカー』でライター兼編集者として勤務。2018年からフリーライターとしての活動を開始し、2020年からは念願かなってDAZN NEWSでプロ野球を担当している。
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