広島は過去4年ともシーズントータルのチーム本塁打数がリーグ4位と、パワー面でライバルに後れをとっている。セ・リーグ3連覇を成し遂げた2018年は丸佳浩(39本)、鈴木誠也(30本)、サビエル・バティスタ(25本)を中心に重量打線を形成したが、丸は巨人へFA移籍、バティスタはドーピング問題による契約解除でチームを去り、ここ数年は鈴木誠也におんぶに抱っこだったが、その至宝も21年オフにポスティングで海を渡った。
その間にも長打力の底上げを図って外国人選手を補強したが、ホセ・ピレラとケビン・クロンは目立った成績を残せず、昨季から加わったライアン・マクブルームも勝負強さは魅力的だったが、17本塁打と長打力不足を解消するほどの打棒は見せられなかった。昨年はそのマクブルームがチーム最多本塁打だっただけに、メジャー通算54本塁打のマット・デビッドソンは特効薬として期待は特大だ。
エルドレッドの再来
デビッドソンは09年のドラフトで1巡目全体35位という高順位で指名され、アリゾナ・ダイヤモンドバックスに入団。この年のドラフトでデビッドソンの少し上、全体25位でロサンゼルス・エンジェルスに指名されたのが、大谷翔平の兄貴分としてお馴染みのスーパースター、マイク・トラウトだった。
腕っぷしの強さと強靭なリストでフィールドのあらゆる方向に長打を飛ばせるパワーは早くから注目を集め、翌10年にはまだ19歳ながらマイナーで2桁本塁打を記録するなど早熟のパワーヒッターとして一目を置かれる存在となり、11年からは4年連続でBaseball America誌が選ぶプロスペクトランキングに顔を出し、13年に出場したマイナーリーグのオールスターゲームでは特大ホームランを放ってMVPを獲得するなど、着々と自力をつけていった。
そんな若手有望株のデビッドソンはトレードの駒として他球団から引く手あまたで、13年オフにはその年40セーブを挙げた一流クローザーのアディソン・リードとのトレードで、シカゴ・ホワイトソックスに移籍。チームが固定できないでいた三塁手問題を解決してくれる存在として期待が大きかったが、その後2年間はマイナーでの武者修行が続く。
ここで腐らずアーチを連発したデビッドソンは、16年6月にデビューイヤーとなった13年以来となるメジャー昇格を勝ち取ったが、新天地に初お目見えの試合でヒットを放った際にベースランニングで右足を骨折し、シーズンを棒に振る不運に見舞われた。しかし、デビッドソンは翌年からこれまでの鬱憤を晴らす。
17年は開幕2戦目にスタメンで初出場を飾ると、骨折後最初のバッターボックスとなる第1打席で見事ホームラン。怪我の影響を感じさせないパワフルなバッティングでほぼレギュラーとして稼働し、打率.220・165三振と粗さは目立ったが、チーム2位の26本塁打と気を吐いた。
勢いづいたデビッドソンは翌18年の開幕戦で堂々と4番に座ると、いきなり3本の柵越えを放ち、計5打点の大暴れ。ジョージ・ベル(トロント・ブルージェイズ)、カール・ローズ(シカゴ・カブス/後のタフィ・ローズ)、ドミトリ・ヤング(デトロイト・タイガース)に次ぐ、史上4人目の「開幕戦で1試合3本塁打を記録した選手」として球史に名を刻んだ。
幸先の良すぎるスタートをきったデビッドソンだったが、徐々にトーンダウンし、結局打率.228・20本塁打・165三振と、前年とほぼ同じ成績に落ち着いた。また、この年は大谷翔平がMLBで二刀流を実現して新人王に輝いたが、デビッドソンもプチ二刀流に挑戦し、大量リードで敗色濃厚の試合限定だったが3試合に登板し、見事3イニングを無失点に抑えた。
その後は粗い打撃が災いしてメジャーに定着できず、5年連続でオフにはFAになるなどジャーニーマン生活を経て、広島に流れ着いた。昨季もアリゾナ・ダイヤモンドバックスとオークランド・アスレチックスでは2チームで計13試合に出場して打率.147・2本塁打と結果を残せなかったが、マイナー最上クラスの3Aでは自身初の打率3割(.310)を記録し、86試合で32本塁打・OPS1.058と無双状態だった。このことからもパワーが衰えていないことは証明済みで、「3Aの上の4A」とも評されるNPBでどこまでやれるか楽しみだ。
デビッドソンのバッティングスタイル、「豪快なスウィングからのホームランが魅力だが、四球はあまり選ばず、ブンブン振るので三振が多い」は、どことなくブラッド・エルドレッドを思い起こさせる。
エルドレッドは12年6月に来日したが、その年のマイナーでの成績は63試合で打率.305・24本塁打・OPS1.069と似通っており、来日時に31歳という点も共通だった。市内をママチャリで移動するなど、日本人以上に日本人っぽい性格で広島市民に愛された偉大な先達に、デビッドソンはどこまで近づくことができるだろうか。
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