5月30日に日本生命セ・パ交流戦2023が開幕する。2021年の交流戦では、パ・リーグで負け越していたオリックス・バファローズが優勝。その勢いのままに後半戦のペナントレースも勝ち進み、パ・リーグを制覇した。昨年は、交流戦前からセ・リーグ首位に立っていた東京ヤクルトスワローズが2度目の優勝を飾る。10の貯金を作ったことでその後のペナントレースも優位に戦い、セ・リーグ連覇を飾った。
ペナント優勝に向けても大事な交流戦。DAZNで解説を務める秦真司氏に、今季の戦いを展望してもらった。
※インタビューは5月22日に実施
短期決戦だからこそ先手必勝
──5月30日から日本生命セ・パ交流戦が始まります。普段対戦しないチームとの対戦にファンは心躍らせます。一方で交流戦ならではの難しさもあると思いますが、いかがでしょうか?
交流戦は対戦する球場も違えば、応援の声も雰囲気も違います。難しさは様々ですが、大きなポイントの1つは「リーグ内で1チームだけ負け」ということが起こってしまうという点です。通常であれば、1チームだけが負ける状況はない。引き分けがあるにせよ、3チームが勝てば3チームは負ける。なのでゲーム差はそれほど開かないです。
しかし交流戦は違います。例えばセ・リーグ球団で1チームだけ負けて、後の5チームが勝つ場合もある。そうなると1チームだけが大きく取り残されてしまう。なので交流戦の勝敗は、その後のペナントレースを考えるとかなり大きなポイントです。
──だからこそ順位の入れ替えも激しい印象があります。また、交流戦を境にチームの調子が大きく変わることもありますね。
2021年のオリックスもそうでした。交流戦前は負け越していましたが、交流戦で優勝してから一気にリーグ優勝に突き進みました。去年も開幕9連敗した阪神が交流戦で大きく勝ち越して、最終的にはAクラスに滑り込んでいます。逆に交流戦で結果を残せずにずるずるいってしまったチームもいます。
また、交流戦は1巡しか対戦しないので、最初に流れを掴めるかが大きな見どころになりますね。
──同一リーグのチームはシーズン中に何度も対戦するため、相手を研究できます。交流戦は1チームに対して3戦だけ。普段の対戦よりも準備を含めて難しさがあるのでは?
間違いなくあります。短期決戦だからこそ、レギュラーシーズンとは違ってトーナメントのような感覚です。だからこそ大事なのは「先手必勝」。相手のことを探っている時間はないので、今の時点で自分たちのベストを出すことを意識して、それを相手にぶつける。そういう考えで臨んだ方がいい結果が出ると思います。
先手必勝に重要なのは捕手の洞察力
──あまり対戦経験のない相手に「先手必勝」を実現させるために必要なことは?
必要な要素は様々ですが、その中の1つに捕手の出来があります。相手チームのデータを頭に入れることも大事ですが、交流戦では捕手の「活きた感覚」の部分が大事です。データを頭に入れつつ、自分の投手の調子、相手バッターの反応など様々な情報を使って、データだけでないリードが必要になってきます。
その日その日で投手の調子は様々で、投球の中でいい球、悪い球があります。本来はそれらをうまく使いながら打ち取っていくものですが、交流戦に関しては短期決戦がゆえに、その日一番いい球をどんどん使っていくべきです。データに頼った投球も大事なのですが、その日何の球が生きてるのか。そこを早く、敏感に感じ取って、どんどん強気に投げることが先手必勝につながると思います。
一方で、今の打者はアジャストする能力が高く、すぐに対応してきます。だからこそ打者がどの球に狙いを定めているかを感じる力も必要。相手の狙いを外す投球ができるかどうかは、捕手の腕の見せ所です。
──交流戦のカギを握る捕手ですが、秦さんの注目選手はどなたでしょうか?
各チームともいい捕手がいますが、個人的に気になっているのはヤクルトの中村悠平捕手とソフトバンクの甲斐拓也捕手ですね。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも活躍した2人は、日本を代表する捕手だと思います。
──以前から秦さんは中村捕手の成長ぶりを高く評価していました。具体的にどういう部分を評価されていますか?
捕手で大事な要素は大きく3つあって「キャッチング」、「ブロッキング」、「スローイング」です。中村捕手の捕る、止める、投げるは、セ・リーグでトップレベルにあると思います。それらの基本動作がしっかりとできることで、投手も安心感を持って投げられる。当たり前のことを当たり前にできる。さらに中村捕手の場合は、難しい球でも当たり前に止める、捕ることができ、捕手としての能力は高いと思います。
そこに加えて、洞察力が高い。打席に立っているバッターを常に見ながら、相手が何を考えているかを感じとろうとしています。相手から発せられる情報をしっかりとキャッチして、それを配球に生かしていますね。
パ・リーグの打者は積極的なバッティングをしてきます。そこで中村捕手がどういう配球をするか。投手の調子と相手の狙いのバランスを考えて、どうゲームを組み立てるのか楽しみです。
──甲斐捕手も同じように捕る、止める、投げる技術が高い?
あの千賀滉大投手の“お化けフォーク”を捕っていたくらいですから(笑)。止める、捕る技術は球界トップクラスです。さらに彼の場合は、“甲斐キャノン”という武器がある。ランナーを出したとしても、そう簡単に二塁に進ませないので、そこはチームとしても大きいですね。
彼の二塁への送球は、真似しようとしてできるものではありません。それこそ動きながらボールを捕っている感じ。左足を出しながら捕球して二塁に投げるのですが、あの体捌きでバランスを取るのはとても難しいこと。彼にしかできない芸当ですね。
──秦さん一押しの2選手について、今回の交流戦で楽しみな対戦はありますか?
中村捕手については、ソフトバンクとの対戦が楽しみです。パ・リーグの打点王である栗原陵矢選手とは福井県対決ですし、近藤健介とはWBCのチームメート対決。同じくWBC組の周東佑京もいますし、彼の足を止められるかは見どころですね。
甲斐捕手については絶好調のDeNA打線との対決でどういうリードをするのか。個別に見ても、打率4割を超える宮﨑敏郎選手にどういう配球で臨むかは見ものです。また牧秀悟とのWBC対決もあります。
世界王者である中村捕手と甲斐捕手が、チームメートたちをどう抑えるかは楽しみの1つですね。
インタビュー= 川嶋正隆
1986年5月9日生まれ、福岡県福岡市出身。大学卒業後に携帯サイト『超ワールドサッカー』でライター兼編集者として勤務。2018年からフリーライターとしての活動を開始し、2020年からは念願かなってDAZN NEWSでプロ野球を担当している。
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