ハマの主砲・牧秀悟内野手がチームの中心で打線を支えている。4番に座って迎える2年目のシーズンでも、勝負強いバッティングを披露し続けている。ビハインドで迎えた逆転チャンスでは右方向へ運ぶ。勝ち越しがかかる終盤には、強引にスタンドに本塁打を放り込むパワーも併せ持つ。チーム25年ぶりの優勝を目指す戦い。シーズン残り43試合時点で、打率2割9分、18本塁打、リーグ2位の70打点をマーク。ここぞの場面で存在感を示し続けている。
8月に入って、球団史に名を記す活躍も見せている。8月1日の広島戦（マツダスタジアム）。初回２死一塁からの第1打席で左前安打を放ち、今季100安打目をマークした。7回には左前適時打を放って101安打とした。プロ1年目の2021年は153安打、昨季は148安打を記録しており、新人から3年連続の100安打となった。
前身を含めて球団では1958年から69年まで12年連続の近藤和彦、1959年から67年まで9年連続の桑田武以来、3人目だった。1960年のリーグ優勝に貢献した2人に名前を並べた。
「つないでくれた打席だったので、自分も流れに乗れた。良いところで打てて、安打が出てよかった。これからも積み重ねていきたい」と試合後にチームバスの前で囲まれて取材に応じた牧は、声を弾ませた。
球団初、NPB史上6人目の記録にも迫っている。牧はあと2本でルーキーイヤーから3年連続のシーズン20本塁打となる。過去に入団1年目から3点連続で20本のアーチを放ったのは清原和博（西武・1986年から13年連続）、原辰徳（巨人・1981年から12年連続）、有藤道世（ロッテ・1969年から8年連続）、石井浩郎（近鉄・1990年から5年連続）、森徹（中日・1958年から3年連続）の5人だけだ。達成すれば球団初だが、レジェンドの記録に肩を並べようとしている。
夏男だけに、過去2年の8月の月間成績も後押しとなる。1年目は打率3割7分8厘で4本塁打だった。2年目は打率3割0分9厘、6本塁打。いずれの年も好成績を残している。暑い季節にこそ強さを発揮する4番打者が、バットでチームを引っ張ってくれそうな勢いだ。
夏の始まりに、石井琢朗チーフ打撃コーチからこんなアドバイスを受けたという。「もうちょっと周りを見ながら、入り過ぎないようにしたらいいんじゃないか」。4番としての責任感を背負い込む余り、一時の勢いが完全に消えていたことに気づいた。助言を素直に受け入れて、投手だけを見て余裕をなくすのではなく、全体を見渡し、大局観を持って打席に入ることができるようになった。
3月の野球日本代表・侍ジャパンのWBC（ワールド・ベースボール・クラシック）では2本塁打を放ち、大舞台であっても実力をいかんなく発揮するタイプだ。試合前の円陣で声出し係を務めたことが話題になった。
チームメートの宮崎敏郎内野手、佐野恵太外野手とともに選手間投票で選出されて2年連続でオールスターにも出場した。ホームラン競争では初戦でオリックス・杉本裕太郎外野手と対戦して、延長戦の末に勝利を飾った。続く準決勝では昨季までチームメートだった中日・細川成也外野手とこれまた延長戦を戦い、敗れはしたが、存在感を十分に示した。
7月23日には出身地である長野県中野市の「栄誉賞」を受賞した。侍ジャパン代表としてのWBC制覇への貢献などを讃えるもので、牧は中大4年でドラフト指名を受けた20年に続いて２度目の受賞となった。横浜スタジアムで行われた授賞式では、中野市の湯本隆英市長らから、表彰状と銀杯、地元名産のシャインマスカットやきのこなどが贈呈され祝福された。「これからも市民に勇気と希望を与えられる選手になれるよう頑張ります」と牧は笑顔でこたえていた。
勝利を呼び込む打点を上げ続けている。8月8日の中日戦（横浜スタジアム）では、5回2死一塁から同点の右越え適時三塁打を放つと、7回には勝ち越しの右中間適時二塁打でチームの連敗を4でストップ。お立ち台では「今日は嫁の誕生日でした。いつもありがとー！」と絶叫して盛り上げた。
若き主砲が25年ぶりの栄冠へチームを導く。
文・宮田和紀（スポーツ報知）
1976年10月5日生まれ。46歳。大阪府出身。1999年に報知新聞社に入社。2022年からＤｅＮＡ担当。
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