2018年の夏、U-20日本女子代表がFIFA U-20女子ワールドカップフランス2018で優勝し、世界一にたどり着いた。
池田太監督が率いるU-20日本女子代表は、全員が90分を通してハードワークを欠かさない好チームだった。優勝候補のドイツ、イングランド、そしてグループステージで一度負けていたスペインまでも決勝で破る。キャプテンの南萌華が高々と優勝トロフィを掲げると、水色と黄色の紙吹雪が夜空を舞った。
特にレギュラーとして出場した選手にとって、あの夏はいい思い出しかないのだろうと筆者は思い込んでいた。しかし、5得点を決めて優勝に貢献した日テレ・東京ヴェルディベレーザの植木理子は、あの夏を振り返って、始めは笑顔を見せながらも“不完全燃焼”と表現した。
「チームの雰囲気がよくて、準々決勝あたりからさらにチームがまとまって、そこから負ける気がしなかった。もちろんチームとして優勝したことが一番嬉しい。だけど、個人的には決勝戦でゴールを取れなかったのは、不完全燃焼と言うか悔いが残っていて…」
その悔しさを晴らすチャンスは、その1年後に訪れる。
U-20女子W杯と同じ舞台、フランスでのFIFA女子ワールドカップ2019。なでしこジャパンの高倉麻子監督(当時)は、植木を23名のメンバーリストに入れてフランスに向かった。だが、植木は大会直前の合宿途中でケガによって帰国を余儀なくされてしまう。
「直前の試合は調子も良くて、いい状態で迎えられると思っていた矢先のケガだった。帰国すると言われた時にはやはり受け入れられず、帰国してからは少しサッカーをやる気がなくなってしまった」と、なでしこジャパンへの思いが大きい分だけ、失望は大きかった。
そんな状況から抜け出すきっかけとなったのは、U-20女子W杯をともに戦ったチームメイト、そしてベレーザのチームメイトだった。
「帰国してすぐ、(高橋)はなと(長野)風花が食事に誘ってくれた。二人も女子W杯を目指していて、悔しい気持ちもあるのに。それにベレーザのカツオさん(村松智子)や(中里)優さんがリハビリを頑張っているのを見て、自分もこのままじゃいけないって、先輩たちにもすごく助けられた」
植木は再び、ゴールに向かって走ることを決意する。そしてその先に、最高のゴールが待っていた。
2019プレナスなでしこリーグ1部の終盤、10月20日の第16節・INAC神戸レオネッサ戦(味の素フィールド西が丘)。途中出場の植木は、後半アディショナルタイムにヘディングで決勝点を決め、リーグ5連覇を手繰り寄せた。2019年を振り返って「サッカー人生の最悪と最高を経験した」と植木が指すのは、女子W杯直前での負傷離脱と、このI神戸戦での復活を告げる決勝点だった。
「いろんな人に女子サッカーを知ってもらいたい」
植木はベレーザの育成組織である日テレ・メニーナ・セリアスから、メニーナ、ベレーザへと昇格。生え抜きのストライカーとして、大きな期待を背負っている。
そして、2020年シーズンの開幕前、植木はベレーザでの背番号を「19」から「9」に変える。荒川恵理子、永里優季、田中美南などベレーザ歴代のエースストライカーは、背番号「19」で若手時代を過ごし、その後、背番号を「9」に変えて得点を量産してきた。そんな特別な系譜の延長線上に植木は立つ。
だが、先輩の背中はもちろん大きい。ケガの影響もあり、東京オリンピックメンバー18名の中に植木の名前はなかった。植木が目標とする選手の一人に挙げる岩渕真奈、ベレーザで黄金期を支えた田中美南、なでしこジャパンでエースに君臨する菅澤優衣香など、FWはいつの時代も激戦区だ。
その東京オリンピックから約3ヶ月後、新生なでしこジャパンのメンバーリストに、植木の名前があった。U-20女子W杯で世界一に導いた池田監督の下、再びなでしこジャパンのユニフォームに袖を通す。
「なでしこジャパンに1年ぶりに戻って来られて、やっとスタートラインに立てた。池田監督に求められていることは、U-20代表の時から大きく変わらない。相手DFラインの裏に抜ける動きやハードワークなど、自分の強みを生かして代表に定着して唯一無二の存在になる」
強い決意の裏には、強い信念がある。
「自分がサッカーを始めた時から、日本中に女子サッカーを広めたいという夢がある。自分は小学生の時にサッカーをやっていても、一緒にサッカーをやってくれる女の子が周りにいなかった。サッカーは一人で出来ないスポーツだから、女の子同士で気軽にサッカーを楽しめる環境を作りたい。選手である時間はそこまで長くないから、選手でいられるうちにベレーザやなでしこジャパンで結果を出して、いろんな人に女子サッカーを知ってもらいたい」
3連覇を目指す女子アジア杯に向けた1月14日の国内合宿、紅白戦で唯一ゴールを挙げたのが植木だった。一瞬の隙を突いたドリブルからのシュートは、植木の覚悟を表しているようだった。22歳の植木はFWの中では最も若い。実績も経験もポジションを争うライバルには及ばない。しかし、植木も涙の数だけ強くなってきた。
U-20女子W杯の優勝決定後や、女子W杯直前の離脱で涙を流し、今シーズンのWEリーグ開幕戦で浦和に敗れた時も、ピッチ上で涙を堪えられなかった。
思い返せば、永里優季もベレーザ時代には松田岳夫監督に交代を告げられる度に泣いていた。そこに思いがなければ涙は出ないはずだ。
「WEリーグが開幕して女子サッカーはここから盛り上がらなきゃいけない時期。少女にとってサッカーが身近なものであってほしいし、その第一歩がなでしこジャパンやWEリーグであるはず。自分がゴールを決め続ければ道は開けてくると信じて、ベレーザから選ばれなかった選手の分も、必ずゴールを決めて帰ってきたい」
泣き虫の植木は、強い覚悟を持って女子アジア杯に向かう。その先に嬉し涙があることを信じて。
文・馬見新拓郎 (マミシン タクロウ)
専門学校『九州スクールオブビジネス』マスコミ広報学科卒業。携帯電話のサッカーサイト『オーレ!ニッポン』編集部を経てフリーランス。女子サッカーを中心に執筆し、2011年女子W杯(ドイツ)、2012年ロンドン五輪、2015年女子W杯(カナダ)、2019年女子W杯(フランス)などを現地取材している。
主な試合日程
グループステージ
Gr. | 日時 | 試合 | 実況・解説 |
---|---|---|---|
C | 1月21日(金) 17:00 | 日本 vs ミャンマー | 解:福西崇史 解:海堀あゆみ 実:西達彦 |
C | 1月24日(月) 23:00 | ベトナム vs 日本 | 解:澤穂希 解:大野忍 実:西達彦 |
C | 1月27日(木) 17:00 | 日本 vs 韓国 | 説:大野忍 解:岩清水梓 実:西達彦 |
準々決勝
No. | 日時 | 試合 | 実況・解説 |
---|---|---|---|
19 |
1月30日(日) |
Aグループ 1位 vs |
|
20 |
1月30日(日) |
Bグループ 1位 vs |
|
21 |
1月30日(日) |
Cグループ 1位 vs |
|
22 |
1月30日(日) |
Aグループ 2位 vs |
|
準決勝
No. | 日時 | 試合 | 実況・解説 |
---|---|---|---|
23 |
2月3日(木) |
No.19の勝者 vs | |
24 |
2月3日(木) |
No.20の勝者 vs |
決勝戦
No. | 日時 | 試合 | 実況・解説 |
---|---|---|---|
25 |
2月6日(日) |
No.23の勝者 vs |
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