明治安田生命J3リーグKONAMI 月間ベストゴール。8月度の受賞者は第22節・藤枝戦で豪快なドライブシュートを決めたいわきの鈴木翔大。鹿島アントラーズに所属するFW鈴木優磨の実兄でもあるアタッカーに、豪快なゴールの裏話や弟・優磨との関係性などを聞いた。(取材日:9月8日)
「イメージ通りに打てた自分にびっくりした」
ーー8月度の明治安田生命J3リーグKONAMI月間ベストゴール受賞おめでとうございます。
オフの日にチームの方から連絡をもらって、そのときは素直に嬉しい気持ちでした。家族にもすぐに連絡したら、自分が今まで決めたことのないようなゴールだったので、びっくりしながらもみんなすごく喜んでくれましたね。
ーー弟の優磨選手(鹿島アントラーズ)からも連絡は着ましたか?
試合後にスマホを見たら自分がゴールを決めた1分後くらいにLINEがきていて、『なんで知っているの?自分も試合だったじゃん』と聞いたら、『ウォーミングアップの前に流していたらすごいゴール決めたからすぐ連絡した』と返ってきて、『俺の試合、けっこう観てくれているんだ』と、思いましたね(笑)。
ーーそれでは、家族全員が喜んでいるゴールを振り返ってもらいたいと思います。まずはボールを引き出す動きが見事でした。
最初は自分たちのボールになるか、相手のボールになるか分からない状況だったので攻撃にも出て行けて、守備にも戻れるような立ち位置を取っていました。そこで宮本英治選手がマイボールにしてくれて前を向いたときに相手の食い付いている姿が見えたので背後のスペースを取ることを意識してすぐに動き出しました。
ーートラップしてからシュートまでの流れに無駄がありません。
トラップで相手の前に一気に出ようとしたらボールがすごく打ちやすい位置にバウンドしたので、思い切り足を振り抜きました。トラップした瞬間にGKが前に出ているように見えて上から落とすシュートが頭に浮かんだので本当にイメージどおりに打てたシュートでしたね。
ーーゴール前には味方もいたと思いますが、クロスの選択肢はありましたか?
トラップする前はクロスの選択肢もありましたけど、トラップして相手の前に身体を入れたときにゴールが見えました。左足のシュートは得意にしているので自信を持って振り抜きました。
ーーきれいなドライブシュートでしたね。
思い切りストレートで蹴るよりも、ちょっとアウトサイドにかけるようなイメージで蹴りました。
ーー観客も相手GKもあの位置から打ってくると予想していた人はほとんどいなかったと思います。ゴールが決まった瞬間はどんな気持ちでしたか?
藤枝のサポーター側のゴールだったので、決まった瞬間は、ちょっと興奮していたけど、相手のゴール裏は静まり返っていたので、すぐに自陣に戻りながら喜びました。でも、打った瞬間は『見たか』みたいな気持ちはありましたね(笑)。
ーー観ているほうも気持ちのよいシュートでした。
気持ちよかったですね。打った瞬間のインパクトが足に残るようなシュートでした。イメージどおりのシュートを打てたことにびっくりというよりは、イメージどおりに打てた自分にびっくりしました。
”簡単なゴールを簡単に決める”のが理想
(C)J.LEAGUE
ーー今季ここまで5ゴールを決めていますが、まだまだ足りないですか?
足りないです。もっともっと決めたいですね。今回のゴールは難しいゴールだったと思いますけど、簡単なゴールを簡単に決める選手が自分の中の理想です。やっぱりFWって、インパクトに残る一発のゴールよりも、毎試合、どんな形でもいいからいろいろな形で1点は取る選手が価値のある選手だと思っているので数字にはこだわっていきたいですね。
ーー今季のいわきFCはシュート数の多いチームだと思いますが、鈴木選手の中で1試合に何本は打ちたいと課している本数はありますか?
いつも意識しているのは、早い時間に1本目を打つことですね。FWはシュートを打つことによってリズムや勢いが生まれてくると思っているので、早い時間にシュートを打つことで自分に流れを持ってくることはすごく意識しています。
ーー1本目は少し強引でも足を振るということですね。
足を振ることはすごく大事にしています。やっぱり打たないとシュートは入らないじゃないですか。シュートを打つから相手の足に当たったり、リフレクションして入ったりすることもある。足を振ればゴールに向かって何か変化が起きるので、足を振ることは個人としてもチームとしても大事にしていますね。
ーーゴールを取るために大事にしていることはどんなことですか?
ボールがそこに来るか来ないかは分からないけど、最後に自分が点を取れるポジションにいたかどうかです。例えば、こぼれ球に詰められる位置にいたけどこぼれて来なかったとか、完璧な抜け出しはしたけどパスが出て来なかったとか、そういうシーンはいくらでもあると思いますけど、映像を見返したときに『ここにいれば点を取れた』と後悔したくないです。とにかく点を取れるポジションに顔を出す。世界の点取り屋を見ても、ボックス内でのゴールがほとんどですから。だから、ボックス内で点を取れる位置に必ずいることは、一番意識しています。
ーー今季で言えば、第10節・ガイナーレ鳥取戦や第11節・YS横浜戦のゴールがまさに“いるべき場所にいた”から取れたゴールですね。
まさにそうですね。泥臭いゴールですけど、自分のこだわりやらしさが詰まった1点だと思っています。
ーー面白いなと思うのは、今季の5点を見ると左足と頭でのゴールだけで利き足の右足でのゴールがありません。
そういうものなんですかね(笑)。でも、右足でも左足でもシュートを打てると相手は守りづらいと思いますし、自分の中では左足のシュートは右足と同等、もしくはそれ以上に正確に打てる武器だと思っています。
ーーもともと、左足のシュートが得意だったんですか?
25歳、26歳の時期に右膝の前十字靭帯を切ってしまって、いまはもう大丈夫ですけど、復帰してからはしばらく右足でシュートを打ち難くて、左足のシュート練習を多くやっていました。それがきっかけで段々と左足のシュートに自信が出てきて武器になりましたね。
ーー参考にしているFWの選手はいますか?
ベンゼマ選手がすごく好きです。なんでもシームレスにこなせて自分の役割がない。点を取るだけではなくゲームを作れてポストプレーもできる。中盤におりてゲームを作っていたと思ったら必ず最後は点を取れる場所にいる。ベンゼマ選手は中盤でボールをはたいた後になぜかしっかり点を取れるよい位置に入って行く。点も取れてゲームメイクできるFWは世界を探してもなかなかいないと思います。
弟・優磨といつか同じピッチに立ちたい
(C)J.LEAGUE
ーー2年ほど前のインタビュー記事を読ませてもらいました。今季から念願のJリーガーになりましたがどういった思いをもってプレーしているのでしょうか?
その記事にも書いてあるとおり、一時は、『Jリーグでプレーすることは無理なんじゃないか』と諦めていた時期もありました。それでも、いろいろな人が支えてくれて、Jリーグでプレーするチャンスを頂いているのでいまは感謝の気持ちが大きいです。そして何より、Jリーグの舞台に立ってみて1試合1試合が本当に楽しい。もちろん、JFLも真剣勝負の舞台でしたけど、見られる頻度が全然違うし、自分の力次第で這い上がれる環境に身を置けたなと感じています。サッカー選手は難しい職業でプロの世界は厳しいですけど、常日頃から感謝の気持ちを持ってプレーすることは意識しています。
ーーJリーガーになることを諦めかけていたときにご両親からかけられた『本気が見たい』という言葉や『自分が一番諦めていなかった』という言葉がいまにつながり現実になっていますね。
そうですね。このカテゴリー、このリーグでプレーしてみて、『できるだけ長くJリーグの舞台でサッカーをしたい』といまは強く思っています。数年前は、そこまでサッカーに執着がなかったですけど、この歳になってサッカーが楽しくなってきて、サッカーに執着するようになってきた。サッカーに本気で熱量を注いでいて、サッカーが生活の中心になっている感覚が自分の中でもすごくありますね。
ーー弟の優磨選手は、どんな存在ですか?
兄弟はすごく仲がよくて、もちろん弟の面もありますけど、一人のプロサッカー選手として尊敬している面もあります。自分がJリーグでプレーするようになってお互いがリスペクトし合える関係を築けていると思います。正直、自分がサッカーに対して本気で向き合えていなかった時期は、優磨もサッカー選手として自分を下に見ていた時期もあったと思います。俺も、手の届かない存在だと思っていた時期はありましたから。だけど、カテゴリーはまだまだ違いますけど、同じJリーグの舞台でプレーするようになりお互いの存在を認め合っていて、弟からのアドバイスを聞いて『確かに』とハッとすることもあります。点を取れば「ナイスゴール」と連絡が着ますし、お互いに点を取れていない時期は電話で話しますよ。
ーーJリーグの舞台で対戦したり、チームメイトになったりする可能性もありますね。
小さい頃からそれは夢見ています(笑)。昔は一緒にプレーしていましたけど、やっぱり歳を重ねていくに連れそれは難しくなっていくわけで、いまは同じチームで弟とサッカーをやるとどんな感覚になるんだろうと思っています(笑)。そのためには、自分がいわきFCとともにカテゴリーを上げていくことが理想ですね。
ーー最後に今季の意気込みを聞かせてください。
もっともっと点を取ってチームを勝たせる選手になりたいです。今回、ベストゴールを受賞させてもらいましたが、どんなに泥臭いゴールでも1点は1点です。とにかくその数を重ねたい。それが自然とチームの勝点につながってくると思うので、チームの一員としての役割は忘れずにチーム一丸となって戦っていきたいと思います。そして、最後に優勝してみんなで喜び合いたいです。
ーーそのためには2ケタゴールは必要になりそうですね。
それはシーズン前から一番意識しています。2ケタゴールはFWにとって価値になるし、どのチームに行っても計算できる選手だと思っています。そのために、足を振り抜くことと点を取れるポジションにいることをしっかりとやり続けたいと思います。
文・インタビュー 須賀大輔
1991年生まれ、埼玉県出身。学生時代にサッカー専門新聞『ELGOLAZO』でアルバイトとして経験を積み、2016年からフリーライターとして活動。ELGOLAZOでは柏レイソルと横浜FCの担当記者を経て、現在はFC東京と大宮アルディージャの担当記者を務めている。
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