【コラム】攻撃を活性化させる宮本恒靖監督の強気な采配。ガンバ大阪の中心を担うはエース宇佐美貴史

充実の攻撃陣がチームを勝利に導く

ガンバ大阪が「常勝軍団」の記憶を徐々に、取り戻し始めている。

前節サンフレッチェ広島に1対0で勝ちきり、今季初の3連勝。シーズン初の無失点を支えたDF三浦弦太ら守備陣の踏ん張りも光った一戦だったが、ヴィッセル神戸戦で鍵を握るのは、攻撃陣の輝きだ。

かつて「お得意様」にしていたはずのヴィッセル神戸に対して、昨季は1分1敗。しかし、2試合いずれも2点を先行しながら、突き放しきれなかった悔やまれるゲーム展開に終わった。

アンドレス・イニエスタやこれまでも苦手にしてきたドウグラスら警戒すべき攻撃のタレントを擁するヴィッセル神戸に対し、宮本恒靖監督が意識するのは「打ち合い上等」の姿勢である。

振り返ると過去2シーズン、残留争いの中で現実的に勝ち点を稼ぐ作業を強いられてきた宮本監督ではあるが、今季はややそのスタンスに違いを見せ始めている。過密日程を考慮した主力の大胆な入れ替えもさることながら、指揮官が見せている一番の変化は強気なカードによるテコ入れだ。

ややもすると戦況を見据えすぎるがあまり、カードを切るのが遅い傾向にあった宮本監督だが、再開後のリーグ戦では積極的な攻撃へのテコ入れが目立っている。コロナ禍による過密日程もあって交代枠が5人に拡大された今季、そのアドバンテージを宮本監督も感じているという。

「その利点は間違いなくある。試合中、早く決断できるところはこの交代枠が増えたことに関係している」

もっとも、強気な采配を支えるのは攻撃陣の充実した顔ぶれによるものだ。負傷者が続出中の最終ラインでは苦しいやり繰りが続くものの、攻撃陣は豪華メンバーそのもの。ストライカーらしさを発揮中の頼れるベテランFW渡邉千真がスーパーサブ的にベンチに控え、ヴィッセル神戸戦では3試合連続ゴール中のMF倉田秋も、大分トリニータ戦では先発を新加入のFW小野裕二に譲っている。

エースの宇佐美にかかる期待

長年、絶対的なレギュラーだったMF遠藤保仁も今や本人が「チームの駒の一つなので」と認めるように、健全な定位置争いが繰り広げられている今季のガンバ大阪ではあるが、エースの称号を担いうるのはやはり、FW宇佐美貴史である。

広島戦では鋭いCKから三浦の決勝点をお膳立て。前半からサイドに流れて、倉田の決定機を演出するなど「脇役」に徹している感もある背番号33のフォア・ザ・チーム精神を象徴する言葉がある。

コロナ禍による活動休止を経て、オンライン取材で宇佐美が改めて口にしたのは、今季25点に絡む、という目標だ。興味深いのはその内訳への思いである。

「24得点1アシストでもいいけど、逆に1得点24アシストでもいい」。

必ずしも自らが得点者になることにこだわりを見せない宇佐美ではあるが、ヴィッセル神戸戦を翌日に控えたオンライン取材で宮本監督が求めたのはフィニッシャーとしての役割だった。

「貴史もボールを触ることでチームにリズムをもたらしたり、自分自身の感覚を研ぎ澄ましているところがあるが、ただ、相手にとって危険な場所でプレーすること、シュートで足を振れるところにいることが大事だと常々伝えている。貴史に流れの中からの得点が来ると、もっと調子に乗って行くと思う」

大分トリニータ戦ではMF小野瀬康介が得たPKをFWアデミウソンに譲らず、自ら「蹴らせて」と志願。その胸の内を「自分に一つ目のゴールが生まれないと、なかなか流れが生まれてこないタイプだから」と振り返った宇佐美だが、自他ともに認める「神戸キラー」でもある。

昨年8月の対戦では沈黙に終わったものの、過去の神戸との公式戦では12試合で12得点。広島戦ではベンチ外だったアデミウソンが万全でないだけに、宇佐美の踏ん張りが4連勝には不可欠となる。

「複数得点を毎試合できるようなチームにしていきたい」（宮本監督）。

セレッソ大阪戦でハイレベルな采配を見せたトルステン・フィンク監督との駆け引きを含めて、宮本監督が送り出す攻撃陣の顔ぶれも楽しみだ。

文・下薗昌記

1971年生まれ。テレ・サンターナ率いる1982年のW杯スペイン大会でブラジルサッカーに傾倒。朝日新聞記者を経てブラジルに移住、永住権を取得する。南米各国で600試合を取材。2005年からガンバ大阪を取材する。「ラストピース」（KADOKAWA）が2016年のサッカー本大賞と読者賞に。近著は今年2月に上梓した「反骨心ーガンバ大阪の育成哲学」（三栄書房）がある。日テレジータスの「コパ・リベルタドーレス 」では南米サッカーの解説も担当する。

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