前回対戦は5失点大敗の苦杯を
連覇を目指す最強王者のマンチェスター・シティと復活を遂げたアーセナル。元旦も通常営業のプレミアリーグで、好調な両チームによる2022年最初のビッグマッチだ。そして、アーセナルにとっては4ヶ月越しの“答え合わせ”でもある――。
今季のアーセナルは最悪のスタートを切った。無得点で開幕3連敗というクラブ史上初の汚点を残したときには、長いトンネルから抜け出せる気がしなかった。その3戦目の相手というのがシティだ。アーセナルは5バックの布陣で守備的に臨んだものの、開始早々に先制を許すと、前半途中でMFグラニト・ジャカが退場となって勝負あり。最終的に0-5という苦杯をなめた。
シティに80%のボールポゼッションを許し、シュート数に至ってはシティの25本に対してアーセナルはブカヨ・サカの1本だけ。2003-04シーズン以降で最少のシュート数に抑えられてしまった。そして、夏にレアル・マドリードから再加入して期待が寄せられたMFマルティン・ウーデゴールも70分までプレーしながら、ボールタッチ数はシティのどの選手よりも少ない23回に留まった。
ミケル・アルテタ体制は、このまま迷走が続くかに思われた。そんなチームの窮地を救ったのが、日本が誇る屈強なディフェンダーとイングランドの若き才能たちだった。新戦力の冨安健洋が右サイドバックに、そしてGKアーロン・ラムズデールが守護神に定着したことでDFラインが著しく安定。冨安が競り合いでの強さでセンターバックをサポートすれば、ラムズデールが積極的な声掛けでチームの連携を高めた。
最後尾が自信を深めたことで、攻撃のタレントも本領を発揮しはじめた。ノルウェー代表MFウーデゴール(23歳)がゲームをコントロールすれば、サカ(20歳)がサイドを突破して決定的な仕事をする。そしてエミール・スミス・ロウ(21歳)が先発でも途中出場でもゴール前に顔を出して決定力を発揮。攻守ともに若い力が奮起し、今季スタメンの平均年齢はリーグ最年少を誇ることに。
アーセナルはわずか数ヶ月で、暗いトンネルを抜け出して明るい未来に向かって走りはじめたのだ。
リーグ戦でのチーム内得点ランクを見ると、上からスミス・ロウ(8点)、サカ(5点)で、FWアレクサンドル・ラカゼット(30歳)とFWピエール=エメリク・オーバメヤン(32歳)が上位を占めていた昨シーズンから様変わり。見事にスタイルの進化と若返りを果たし、公式戦5連勝と好調を維持している。
活躍が際立つB・シウヴァ
ストライカーに頼らないそのスタイルは、今季のシティについても言えることだ。夏に退団したFWセルヒオ・アグエロの穴をどう埋めるか注目された中で、様々な選手を最前線に配置。そして、流動的なサッカーでリーグ最多ゴールを叩き出している。
なかでもペップ・グアルディオラ監督に「undroppable(外せない)」と言わしめたポルトガル代表MFベルナルド・シウヴァの活躍が目立つ。中盤やウイング、そして“偽9番”として起用され、いずれの場合もギャップを見つけて神出鬼没に顔を出してチャンスを生み出す。そしてリーグ戦では、シティ加入後で自己最多となるゴール数をすでにマークしている。
DFを除いた選手で、ボールを運んだ距離を見るとウェストハムのMFデクラン・ライスに次いでリーグ2位(19節終了時。データ『FBref』)。ボールの持ち方も秀逸で、中盤では自分の身体をスクリーンにしてボールを守るように保持し、アタッキングサードでは敵にボールをさらして積極的に仕掛ける。
12月26日のレスター戦で3点目を奪ったシーンでは、右サイドから中央に運びながら右SBジョアン・カンセロの攻撃参加の時間を作り、あえて内側のケヴィン・デ・ブライネに預けて、そこからカンセロへの展開を促して完璧に崩し切った。最後はMFイルカイ・ギュンドアンがこぼれ球を蹴り込んだが、彼が決めなかったら、足を止めずに走り込んでいたB・シウヴァが仕留めただろう。
先日、シティのクラブHPに興味深い動画が掲載されていた。フェルナンジーニョとカンセロが「最高の〇〇」というお題でチームメイトを選ぶもので、「視野の広さ」はデ・ブライネ、「リーダーシップ」はフェルナンジーニョを選出。B・シウヴァは「スタミナ」や「左足」の部門で選ぶのかと思いきや、「インテリジェンス」だった。
献身性やテクニックもそうだが、彼の最大の魅力はフットボールIQの高さなのだ。それから人間性である。番組で使用された顔写真について「酷い写真だね」とイジられるところも、愛されキャラの彼らしくて微笑ましかった。
アーセナルはシティに9連敗中
だが“魅惑のレフティ”ならばアーセナルも負けていない。司令塔のウーデゴール、そして5-0で快勝した直近のノリッジ戦で2ゴールを奪ったサカもいる。彼らがシティ戦でカギを握るのは言うまでもない。
シティは前述のレスター戦に6-3で勝利したが、後半には立て続けに3失点して一時は4-3まで迫られた。その3点とも、レスターのMFジェイムズ・マディソンのドリブルにしてやられている。4点リードしたシティが無駄なファウルを避けて少し手を緩めた部分もあるが、やはり完璧な組織を崩すのは個の力だ。そういった意味でもサカやウーデゴール、そして最近は途中出場が続くスミス・ロウのボール運びに期待したい。
だからアーセナルにも勝機はあるのだが、厳しい戦いは避けられない。プレミアの対戦でアーセナルはシティ相手に「9連敗中」だ。これは135年も続くアーセナルのクラブ史において、リーグ戦での最長連敗記録となっている。さらに冨安やDFセドリックなどが新型コロナウイルスに罹患し、このビッグマッチに間に合わない可能性が高いのだ。
最強王者を相手に苦戦必至のアーセナルだが、今シーズンの最初の対戦からどれだけ成長したのか、彼らの4ヶ月越しの“答え合わせ”に注目したい。
文・田島 大
「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まった『フットメディア』所属。英国在住歴を持つプレミアリーグのエキスパート。
試合情報
プレミアリーグ第21節
アーセナル対マンチェスター・シティ
- 配信: DAZN
- 配信開始:1月1日(土)21:30
- 解説:水沼貴史 実況:安井成行
- 会場:エミレーツ・スタジアム
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