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【コラム】ランパードに残留を託せるほどの技量はない…それでも夢のある人選だ | 粕谷秀樹のNOT忖度 | プレミアリーグ

【コラム】ランパードに残留を託せるほどの技量はない…それでも夢のある人選だ | 粕谷秀樹のNOT忖度 | プレミアリーグ(C)Getty Images
【欧州・海外サッカー コラム】エヴァートンがフランク・ランパードを新監督に招聘した。41歳の青年将校はプレミアリーグ残留が危ぶまれるチームを高みに導けるだろうか。

ベニテス前監督はとくに嫌われていた

プレミアリーグ発足後、エヴァートンは暫定体制を含めて18人もの監督を起用している。2016年にファハド・モシリが筆頭株主となり、ビル・ケンライト会長を上まわる発言力を有した以降も落ち着かない。

16年夏、3シーズン目の任期を終えたロベルト・マルティネスを解雇すると、モシリはロナルド・クーマン、サム・アラダイス、マルコ・シウバ、カルロ・アンチェロッティ、ラファエル・ベニテスと、監督のタイプをコロコロ変えていった。

そのうち、サポーターと良好な関係を築いたのはアンチェロッティただひとりで、ベニテスはとくに嫌われていた。なにしろ彼はリヴァプールを率いていた頃に、「エヴァートンはスモールクラブ」と蔑んだのである。マインドゲームだったのかもしれないが、わだかまりは深く残ったままだった。

ましてベニテスのチームはまったく機能せず、ファイティング・スピリットすら感じられない。長年にわたってクラブを支えたメディカル部門のダニー・ドナキー、スカウト部門のダン・パーディーを解雇し、みずからのスタッフで固めすぎたことも選手、スタッフの不評を買った。

序盤戦でFWリシャーリソン、ドミニック・カルヴァート=ルーウィン、MFアブドゥライエ・ドゥクレが相次いで負傷する不運もあったにせよ、得意にしていたはずの守備戦術はつねに中途半端だった。ボールサイドに極端なまでの人数を割いた結果、当然のように広大なスペースを相手に与えていた。

勝率は26.3%。1シーズンに換算すると勝点はおよそ30と、プレミアリーグからの降格を意味する絶望的なデータも存在する。22年1月15日、ベニテスに言い訳は許されず、就任7ヶ月で解雇された。

ルーニー、V・ペレイラに次ぐ第三の選択肢

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さて、新監督はフランク・ランパードである。

最有力視されたウェイン・ルーニーに断られ、ポルトやフェネルバフチェなどの監督を歴任したヴィトール・ペレイラは、「だれだ、そいつ!?」とエヴァトニアンの抵抗が厳しかった。したがって、ランパードは第三の選択肢であり、モシリはいまでもルーニーの招聘に失敗したことを悔いているという。

ただ、監督の人選に大きな変化が生じているとも考えられる。クーマン、アラダイス、アンチェロッティなど、モシリは経験豊富なタイプを好んで起用してきた。ベニテスに至っては、一部で「過去完了」とまでいわれるほど手法が古かった。

そうした歴代監督と比べると、ランパードは監督としての経験が浅く、下位に沈むチームの残留を託せるほどの技量はない。それでもモシリは、41歳の青年将校に終盤戦を任せた。この人選を、長期的展望の第一歩と捉えられないだろうか。

15年10月、ブレンダン・ロジャーズを解雇したリヴァプールは、野心あふれるユルゲン・クロップを新監督に起用した。当時48歳。ボルシア・ドルトムントにゲーゲンプレスを根付かせていたとはいえ、プレミアリーグで通用するのか未知数だった。いま、リヴァプールは世界のトレンドだ。

もちろん、ランパードは6年半ほど前のクロップと比べても経験値が低い。チェルシーを率いていた当時は選手の好き嫌いが露骨で、ベテランとの対立が表面化した。

しかし、メイソン・マウントやリース・ジェイムズ、ビリー・ギルモアなどユースの若手をトップチームに抜擢した勇気もある。残留請負人とやらを新監督に起用するより、はるかに夢がある人選だ。

2月9日、ランパードのエヴァートンはニューカッスルに1-3で敗れた。36分、DFジャマール・ラッセルズにオウンゴールをプレゼントされたものの、1分後にDFメイソン・ホルゲイトがご丁寧にもお返し。これにはランパードも「すぐに追いつかれてパニックに陥った」と嘆いた。

有能なタレントをふたりも補強

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状況は芳しくないが、しかし冬の移籍市場で補強を図った。残留への追い風になりうる有能なタレントを、ふたりも獲得したのである。

トッテナムからやって来たMFデリ・アリは、だれもが認めるセンスの塊だ。コンディションさえ整えばメガクラブでもレギュラーを張れる逸材であり、エヴァートンの攻撃を活性化させるに違いない。

マンチェスター・ユナイテッドからローン移籍したMFドニー・ファン・デ・ベークは心地よいテンポで攻めのリズムを紡ぎ、狭いスペースでも難なくプレーできる。

両新戦力を2シャドーに配し、トップにリシャーリソン、もしくはカルヴァート=ルーウィンという並びは非常に魅力的だ。

そして彼らを中盤で支えるのが、アランとドゥクレである。決してビッグネームではないが、この1~2年は移籍市場が開くたびにメガクラブとリンクされるように、その実力はプレミアリーグをチェックしている皆さんならご存じだろう。ハムストリングの負傷でニューカッスル戦を欠場したドゥクレも、2月下旬には復帰できるようだ。

リーズ、サウサンプトン、マンチェスター・シティ、トッテナム、ウォルヴァーハンプトン……。今後1ヶ月、厳しい相手との試合ばかりだ。王者シティに叩きのめされ、自信とプライドに甚大なダメージが生じるリスクもある。

しかし、いまはランパードは信じるしかない。かつての失敗を糧にしているのか。マウントやジェイムズの才能を発掘したように、エヴァートンでも若手の成長にひと役買うのか。青年将校の笑顔とともに、今シーズンの幕が閉じることを──。

文・ 粕谷秀樹

1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。

配信情報

プレミアリーグ第25節
エヴァートン対リーズ

  • 配信: DAZN
  • 配信開始:2月13日(日)0時
  • 会場:グディソン・パーク

粕谷秀樹のNOT忖度

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