久保建英は多くのプロ選手が子供の頃から抱く夢を現実にしてしまった。彼は世界有数のスタジアムを舞台にして、ラ・リーガ王者を相手にして、1部昇格組のチームを勝利へと導いてしまったのだ。今回のゴールは、まだまだ遠い将来、彼のキャリアを総括するときに振り返られるシーンとなるだろう。
マジョルカ監督ルイス・ガルシア・プラサは、久保に対して執拗に「ボールに触れて、そして走れ!」と繰り返してきた。このワンダ・メトロポリターノの午後、アトレティコ・マドリー戦の後半アディショナルタイムに、彼が実践したプレーはまさにそれだった。自陣で速攻の起点となって、ボールを預けたアンヘルのスルーパスからアトレティコのDFラインを突破。そこから40メートルの距離を独走したが、その走りは日本はもちろんのこと、世界中を駆け巡るニュースとなったわけだ。
……まあ、今はメトロポリターノでリアルタイムに起こったことだけに集中するとしようか。スタジアムの5万人以上が彼のプレーの結末を見守っていた。が、久保はスピードに乗ったドリブルで、しかしボールを足にしっかりとつけてアトレティコのゴール前までたどり着いた。そこで待ち受けていたのは、もし世界最高のGKじゃなければ、世界最高のGKの一人であるヤン・オブラクだ。
「(オブラクを前にして)少しナーバスになって、最後のボールタッチが短くなってしまいましたね」
久保は偉業の後にそう振り返った。メトロポリターノの、フットボールの、世界の中心地で彼が感じていたことは、彼以外に知る由もない。とにかく、日本人MFはアトレティコのセンターバックに追いつかれてボールを奪われる前に、才能しか感じられないシュートを放った。巨人オブラクの股下にボールを通して、マジョルカに勝ち点3をもたらしたのだった。
90分になった瞬間にボールがゴールラインを割る……。まるでハリウッド映画か日本の少年漫画だ。どんな脚本家や漫画原作者も、こうした幸せな結末を、説得力を持って描くことを望むものだ。片や久保はというと、右ひざの負傷を乗り越えて、自ら極上の物語を描いて見せたのである。彼の狙い通りに……。
「個人的なことを話せば、決勝ゴールを決めることは想像していましたし、実際にそうなってしまいましたね」
芝生の上で歓喜が爆発した。マジョルカ関係者の誰もが久保を抱きしめることを求めた。チーム関係者は実際にそうできたわけだが、マジョルカのサポーター、番記者全員がそうしたいと思った。ただ、その欲求は距離の問題があって叶えられない。だからこそ代わりに、私たちは叫び声を上げたのである。メトロポリターノで、マジョルカ島で、スペインの各地で、そして日本全国で。私たちの歓喜と反比例して沈黙していたのは、世界最高の熱さじゃなければ、世界有数の熱さで知られているアトレティコのサポーターである。あまりにもクレイジーな光景だった。7試合勝利に恵まれていなかったマジョルカは、メトロポリターノを初めて攻略して、勝ち点3を手にしてしまったのである。
「レアル・マドリーを助けるためにゴールを決めたわけではありません。結果的にそうなったのであれば嬉しいですが、でも僕は100%マジョルカでのことだけに集中しています」
この言葉は、マジョルカの人々にとって100点満点だ。久保はマジョルカというクラブ、チーム、共同体とすでに一つになっている。そもそも今夏、彼はスポーツと経済の両面でより好条件のオファーを受けながら、それでもマジョルカを選択した。アトレティコ創立100周年イムノも歌ったスペイン人歌手ホアキン・サビーナは「幸せだった場所に戻ろうとしてはいけない」と歌ったが、彼は幸せだった場所に戻り、辛い怪我を経験しながらもそれを乗り越えて、自分とここの人々のためにさらなる幸せをつかんだのである。
久保、いや、タケはビッグゲームで違いを生み出すためにマジョルカに戻ってきた。この土曜の試合は、彼をマジョルカにとって永遠の存在たらしめた。私たちはこれから、アトレティコ戦で勝利を希求する度に、この日本人のゴールを思い出すことになるのだ。
文/セバスティア・アドロベル(Sebastia Adrover)、マジョルカ地方紙『ディアリオ・デ・マジョルカ』
翻訳・構成/ 江間慎一郎
1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。
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