これまでもラ・マシアと呼ばれる下部組織に支えられてきたバルセロナだが、極度の財政難に陥った現在は、これまで以上に若手に頼らなくてはいけなくなった。今季になってトップチームでプレーし始めたラ・マシアの若き選手たちは、先達より大きな責任を担いながら、バルセロナ(さらにはスペイン代表)で未来を切り開こうとしている。これから紹介する選手たちは、クラブの暗黒時代に光を見ようと、見せようとする若き才能たちだ。
◆ガビ~地元の広場からカンプ・ノウへと飛躍した17歳~
生年月日:2004年8月5日 (17歳)
ポジション:インサイドハーフ
バルセロナでは歴代4位、スペイン代表では歴代1位の若さでデビュー……。パブロ・パエス・ガビラ、通称はガビは11歳の頃、ベティスの下部組織からラ・マシアへと移ると、そこから驚異的な速さでトップチームまでの階段を駆け上がっていった。
ガビのことを知る人たちは、彼がフットボールに取り憑かれた人間だと口々に語る。ボールのため、ボールによって生きているのがガビなのだ、と。例えば昨夏、バルセロナからトップチームのプレシーズンに参加するよう連絡を受けたガビは、地元の広場で友人たちとフットボールに興じていた最中だった。それからたった3カ月で、彼はプレーする舞台を広場からチャンピオンズリーグや、スペイン代表として臨んだネーションズリーグに移したのである。
インサイドハーフとしてプレーするガビは頭の回転も足も速く、巧みなボールキープやパスの正確性など技術にも優れる。ビルドアップではその視野の広さと判断力によって、適切なポジショニングでボールを受けてから素早くパスを出し、チームメートに位置的優位性を提供。また個人技にも秀でており、1対1の勝負にも強い。チャビは「ガビはすでに違いを生み出せる選手だ。素晴らしい未来が待ち受けていると予言させてもらおう。技術、フィジカルと、成功するためのすべてを兼ね備えている」と手放しで称賛する。
◆エリック・ガルシア~マンチェスターから出戻ったもう一人のCB~
生年月日:2001年1月9日 (21歳)
ポジション:センターバック
エリック・ガルシアは、ラ・マシアではいつもキャプテンマークを巻いていた。生来のリーダーシップ、インテリジェンスがあり、必然的にバルセロナのトップチームまでたどり着かなければならなかった男。しかし、蓋を開けてみれば、彼はマンチェスター経由でカンプ・ノウに到達したのだった。
2008年にバルセロナのフットボールスクールに通い始めたE・ガルシアは、その1年後にベンハミンB(8~9歳)世代のチームに加わった。カデテA(U-15)までは順調にステップアップを果たしていったが、そこでジョゼップ・グアルディオラがトップチームの監督を務めるマンチェスター・シティへの移籍を決断。バルセロナがBチームのセンターバックを何人も補強したことで、このままでは成長の機会をなくしてしまう、と危機感を覚えたためだった。
シティに移籍したE・ガルシアは加入から1年半後、17歳の若さでトップチームデビューを果たす。しかしながら2020年、やはりバルセロナのことが忘れず復帰を決意すると、それから1年後の契約終了のタイミングで古巣へと戻った。まるで、ジェラール・ピケがマンチェスター・ユナイテッドから復帰を果たしたように。
E・ガルシアの長所は、前述したようにリーダーシップやインテリジェンスにある。フィジカルだけの勝負では分が悪いところもあるが、持ち前の危機察知能力によって相手に先んじた動きでボールを奪う。またラ・マシア出身で、グアルディオラのシティでもプレーしただけあって戦術理解力に優れ、ビルドアップ能力とパス精度も高い。
◆ニコ・ゴンサレス~“スーペル・デポル”の英雄フランの息子は、バルサで自分の道を切り拓く~
生年月日:2002年1月3日 (20歳)
ポジション:アンカー、インサイドハーフ
あの“スーペル・デポル”のキャプテン、フラン・ゴンサレスの息子。6歳まではフットボールに興味がなかった彼だが、やはり血は争えなかった。バルセロナ加入前にプレーしていたモンタニェロスでは、2歳上の子供たちとプレーすることを常としながらも突出した才能を披露。バルセロナは彼のことを2年間追い続けてからラ・マシアに迎え入れ、本来該当するカテゴリーから1年飛び級でプレーさせた。そして昨季、バルサBで驚異的なパフォーマンスを披露したニコは、今季トップチームでつかんだチャンスを物にしようとしている。
アンカーでプレーすることを常とするニコは、セルヒオ・ブスケツの後継者と目されてきた。が、その機を見た飛び出しの能力や個人技も非凡なものがあり、最近はインサイドハーフとしても躍動。「以前ならば自分はアンカーだと言っていたけど、今はインサイドハーフだって好きだ。そこではより自由にプレーできるから」とは本人の弁だ。バルセロナの選手らしくピッチを俯瞰で見たようなビジョンを持ち、どこにスペースが空くかを読むことができる。今季ここまでは2ゴール1アシストを記録。
◆アブデ・エザルズリ~チャビに見出された新世代ウィング~
生年月日:2001年12月17日 (20歳)
ポジション:ウィング
2021年、バルセロナはヘラクレスの下部組織でプレーし、レアル・マドリーとベティスも狙っていたアブデを移籍金200万ユーロで獲得した。バルセロナBに加わったモロッコ出身FWは、監督セルジ・バルジュアンにそこまで信頼されていなかったが、同指揮官が暫定的にトップチームを任されて不在となった際に2戦連続でスタメンを張り、そこでチャビの目に留まることになった。Bチームで出番のなかった男は、一躍トップチームの一員となったのである。
アブデのように技術とスピードを兼ね備えたウィングはバルセロナのプレースタイル、とりわけヨハン・クライフを源流としてグアルディオラ、チャビが受け継いできた系譜には必要不可欠。だからこそチャビは彼をいきなりトップチームで登用したわけだが、その突破力と戦術遂行力には目を見張るものがあったようだ。その一方でアブデ本人は、自分にチャンスを与えてくれたチャビに感謝をしており、そのためにモロッコ代表としてコパ・アフリカに参加することを断念。チャビから寄せられた信頼に精一杯応じようとしている。
◆フェラン・ジュグラ~エスパニョールで叶えられなかった夢をバルセロナで叶えようとする男~
生年月日:1999年2月1日 (23歳)
ポジション:ウィング、センターフォワード
2021年、エスパニョールのBチームで主将を務めていたフェラン・ジュグラは、同クラブとの契約延長交渉が決裂したことで、同じ町のライバルにタダで加入することになった。22歳という年齢は若手の中ではそこまで若くなく、バルセロナのトップチームでプレーするなど夢物語に過ぎないように思えた。
しかし、運命とは不思議なものである。今季途中にチャビとともにクラブにやって来た彼のアシスタントたち、ダビド・プラツ、トニ・ロボ、セルヒオ・ガルシアはジュグラのことをよく知っていた。というのも、018-19シーズン、ジュグラがエスパニョールからのレンタルでプレーしたサン・アンドレウで、3人はこのカタルーニャ出身FWを指導していたのだ。アシスタントたちからジュグラの価値を説かれたチャビは、ためらうことなく彼にチャンスを与えている。
ジュグラの動きはまさにセンターフォワードのそれだが、ウィングも務められるためにサイドから内に切れ込むプレーも得意としている。勇敢で、常に動き回って決定機を求め続ける姿は、チャビに与えられたチャンスを絶対に物にしようという意思を感じさせる。今季ここまではラ・リーガ6試合で1得点、コパ・デル・レイ2試合で1得点を記録。
文=フェラン・マルティネス/Ferran Martinez(スペイン『ムンド・デポルティボ』紙)
翻訳/ 江間慎一郎(Shinichiro Ema)
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