ジュニオール・メッシアスは、UCLアトレティコ・マドリー戦(1-0で勝利)において決勝点を挙げる殊勲を見せると、続くセリエAのジェノア戦(3-0で勝利)において、ミラン移籍後、初先発を果たし、いきなり2得点をマークした。いずれも美しいゴールであり、この2試合は、彼の台頭を象徴する試合となった。
特にワンダ・メトロポリターノの勝利を導いたゴールは輝かしいものだった。なぜならミランはUCLにおいて、2013年11月にグラスゴーで行われたセルティック戦(カカ、クリスティアン・サパタ、マリオ・バロテッリの得点で3-0)を最後に、長らく勝利から遠ざかっていたからだ。呪われた死の組において、いくつもの苦難に見舞われていたミランがまさに切望していた“奇跡のゴール”と言える。
メッシアスはリーグ戦においても、宝石のような美しいゴールで2連敗中のチームを救った。ジェノヴァでの試合において、GKサルヴァトーレ・シリグを欺く“戦術的ゴール”を決めたほか、ブラヒム・ディアスのアシストを受け、ゴール隅に左足シュートを叩き込んだ。
レンガ洗浄から冷蔵庫の配達
背番号「30」と同じく、30歳と年を重ねたジュニオール・メッシアスの物語は、すでに知れ渡っている通り、素晴らしいものだ。名門ミランへ加入した時点ですでに、シンデレラストーリーと呼んでも良かっただろう。
1991年5月13日にブラジルのベロオリゾンテで生まれたメッシアス。クルゼイロの下部組織で数カ月プレーしたとはいえ、アルコール依存症や事件などと隣り合わせの環境において、サッカーは気晴らしの遊びであり、人生計画として考えることなどできなかった。
そんな彼は10年前、トリノのバリエラ・ディ・ミラノ地区へ移住すると、工場でレンガ洗浄の仕事を始める。レンガ1個につき20セント(約25円)の収入だった。その後、左官となったメッシアスは、カルチョへ永遠の別れを告げたかに見えた。
ところが転機は訪れた。メッシアスは、新たなチームメートとなるペルー人移民のグループに誘われ、アマチュアリーグUISPトリノのスポルト・ヴァリケでプレーを始めるとともに、配達員としての定職も与えられた。こうして彼は、キエーリやピーノ・トリネーゼのエリアで冷蔵庫の配達に従事するようになった。
「あの地域のお年寄りは、孤独に感じていることが非常に多い」。メッシアスは数年前に綴った手紙の中でこのように語っている。
「どこか僕と似たようなところがある。僕も家族と離れて暮らし、夜、自宅の居間でハグしてくれる者もいなかった。だから(配達先の)お年寄りの家で30分くらい過ごすこともあった。おしゃべりをしたがっていて、若い頃の昔話を聞かせてくれたり、僕の話も聞いたりしてくれた。これが少し前まで僕がイタリアでやっていたことなんだ。カルチョは余暇であり、情熱でしかなかった。もちろん仕事なんかじゃない」
真の意味でカルチョを信じた男
信仰心の深いメッシアスはある日、自らの運命を神の手に託したところ、プロサッカーの世界への扉が開いた。
「通っていた教会の司祭と座って話をしていた時、『もうやめたい。だが、僕は神からのお告げが欲しい。自ら自発的に行動したくないんだ。『ジュニオール、もう十分だろう』って思えるような何かのサインが欲しいんだ。するとその瞬間から、すべての扉が開かれた」
2015年のある日、メッシアスは今後もイタリアで暮らしていくための許可証を手にすると、その翌日、元トリノ指揮官エツィオ・ロッシから連絡が届いた。UISPの試合を視察したエツィオは、カンピオナート・エッチェッレンツァ(イタリア5部)のカザーレへ24歳のメッシアスを入団させようと考えていたのだ。
提示された給料は月給700ユーロ(約9万円)。だがメッシアスはブラジルにいる妻や息子の生活を支えなければならない。するとエツィオは、「ジュニオール、ここへ来て欲しい。ここで何日か試してみて、すべて上手く行けば、私が会長に話をしよう」と持ち掛けた。その2日後、メッシアスに朗報が届く。「君のために月給1500ユーロ(約19万円)の契約を用意した。これからはカルチョのことだけを考えれば良い」。指揮官はそう伝えた。
エッチェッレンツァのカザーレで21ゴールをマーク。翌年はセリエD(イタリア4部)のキエーリで14得点を記録し、次の移籍先のゴッツァーノではチームをセリエC(イタリア3部)昇格へ導いた。そして2019年夏、セリエBクロトーネの一員となると、チームが昇格した翌年の9月20日、まさにスタディオ・マラッシのジェノア戦においてセリエAデビューを飾り、翌月25日のカリアリ戦でセリエA初ゴールもマークした。
ブラジル人FWは、合計9得点を記録して2020-21シーズンを終えたが、所属先のクロトーネは降格が決定した。
ミラン移籍のきっかけは?
2021年8月、名門ミランへのステップアップを実現させたメッシアス。果たしてどこで、ミランとの縁が生まれたのだろうか。遡ること2020年7月、ステファノ・ピオリは、セリエBのリヴォルノ対クロトーネにおいて、初めてメッシアスのプレーを目にしたことを明かしている。ブラジル人FWは、得点こそなかったが、狭いスペースでドリブルを披露して、マッチアップした選手全員を翻弄。試合は5-1でクロトーネが勝利を収めた。
ピオリに「なぜジュニオールがミランにいるのか?」と尋ねれば、きっと「ミランにふさわしいクオリティを持っているからだ」とだけ答えるだろう。他につけ加えることなど、ほとんどないはずだ。底辺から築き上げた偉大なシンデレラストーリー。そこに神への冒涜などない。
文・ファビオ・ディジングリーニ
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