33年ぶり3回目となる悲願のスクデットへ独走を続けてきたナポリ。ナポリっ子たちから親しみを込めて「オシ」と呼ばれるエースのヴィクター・オシムヘンは、得点王争いでライバルを圧倒する合計21ゴール(セリエA第31節終了時点)をマークし、もう1人の極上の逸材、フヴィチャ・クヴァラツヘリアとともに、ルチアーノ・スパレッティ指揮下の躍進のシーズンをけん引してきた。
そんなオシムヘンが着用するフェイスガードは、ここ数カ月のうちに単なるプロテクターから24歳のナイジェリア代表FWのトレードマークへと変わり、さらにスクデットを夢見るナポリ市民の崇拝の対象へと変化した。もはやナポリにおける通算3度目のスクデットの象徴となりつつある。その裏には、どんな逸話が隠れているのだろうか。
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オシムヘンがフェイスガードを着用する理由
オシムヘンがフェイスガードを使用し始めたのは、顔面の大ケガがきっかけだった。2021年11月21日、オシムヘンはインテルとの一戦において、インテルDFミラン・シュクリニアルと空中戦で激突。頬骨のあたりを強打してピッチに倒れこみ、激しい痛みに襲われた。
自力で立ち上がったものの、顔面の不自然な腫れは、中継カメラを通じても確認できるほどだった。直後に行われた検査の結果、左目付近の複数箇所で骨折が確認され、オシムヘンはアフリカネーションズカップの欠場を余儀なくされている。
悪夢のインテル戦を終えたオシムヘンは、実に3時間半におよぶ極めて複雑な手術に臨むことになる。「片目を失ったのではないかと思われるほどで、非常に難しい手術だった」と、ナポリFWのフェイスガードを製作したロベルト・ルッジェーロ外科医は振り返る。顔面が元に戻るまでに90日間を要するとの診断だった。
現在もオシムヘンの頬骨には、18本のボルトが埋め込まれており、抜くのは今シーズン終了後の予定となっている。
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フェイスガードに別れを告げる日は?
ボルトを抜いた来シーズンからは、フェイスガードを外せるようになるのだろうか? しかしナポリっ子たちの願いは異なる。
すでにファンからは、黒いフェイスガードを着用した姿で愛されているオシムヘン。スパレッティのチームが快進撃を続ける中、ナポリの路地は、オシムヘンとそのフェイスガードを模したイラストや横断幕、Tシャツやフラッグ、さらにはケーキなどで埋め尽くされた。唯一無二の選手に対する本物の愛の証と言えるだろう。
これまでのところ、オシムヘンにフェイスガードを外す意向はないように見える。負傷した患部の保護が目的だったものの、黒の仮面姿でナポリのファンに愛されるようになったナイジェリア代表FW。もはや彼のフェイスガードは、スパレッティのチームの偉業、再現不能な唯一無二のナポリの歴史を象徴するお守りとしての意味を成すに至っている。
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オシムヘンのフェイスガードの変化
オシムヘンが2021-22シーズンに着用していたフェイスガードは、現在のものとは異なり、ナポリのストライカーの顔をしっかりと覆うように採寸し、オーダーメードで製作されたものだった。一方、2代目となる現在のものは、ナイジェリア代表FWの動きにより耐えられるよう、より小さく軽量なものになっている。
オシムヘンのフェイスガードを製作したのは、ナポリにあるルッジェーロ整形外科。ナイジェリア代表FWの頭部の型を取り、寸法に合わせてフェイスガードを製作した。フェイスガードの素材は初代と2代目に違いはない。衝撃に強く、同時にナポリFWのスピードや動きにも柔軟に対応できるようケブラーとカーボンをミックスした素材が使用されている。
文・ロレンツォ・リガモンティ/イタリア人スポーツジャーナリスト。『ダゾーン』や『Eurosport』などに寄稿。
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