日本代表は日本時間10月9日に行われた、AFCフットサルアジアカップ決勝でイランと対戦し、3-2で勝利。3大会ぶり4度目の優勝を果たした。日本はなぜ、アジアの盟主イランを打ち破れたのか。2014年大会の優勝経験者、元日本代表・渡邉知晃が分析する。
アルトゥールが決めた世界最上級のFK
(C)AFC
なにを書いたらいいのだろう。これまでのレビュー記事は、試合を見て、勝敗を分けたポイントなどにフォーカスしてスラスラと書けていたのだが……。
日本が優勝できたのは、ピッチで戦った選手だけではなく、スタッフ、現地で声援を送ったサポーター、日本で中継を見ながら応援した方々を含めたみんなの力があったからで、”日本のフットボールファミリーの力”で勝ち取ったタイトルだ。それゆえにポイントを絞りにくいというのが、正直な気持ちだ。
本当に素晴らしい試合だった。苦しみながら決勝に勝ち上がってきた日本が、今大会においても圧倒的な強さを示してきたアジアの盟主・イランを倒して3大会ぶり4度目の優勝を果たしたことは、本当に大きな出来事だった。
書きたい事象、ピックアップしたい人物はたくさんいるが、文字数の都合上、絞って書かせていただくことについて、先にお断りしておきたい。これから伝える日本の勝因の前提としてあるのは、チーム全員の力を結集し、日本の最大の武器である「一体感」のもとにつかんだアジア王座ということだ。
キャプテンとして日本をけん引したオリベイラ・アルトゥールの存在感は抜群だった。初戦から出場時間が長く、フル稼働だったために満身創痍だったはずだ。それでもピッチに立ち続け、攻守に貢献し、チームを鼓舞し続けた。
15分、アハマド・アッバーシにゴールを奪われ、先制を許してしまった。しかし、直後に取り返す。16分、相手のミスを見逃さなかったエース・清水和也がトーキックでゴールに突き刺し、同点に追いつく。失点直後にすぐさま奪い返せたこの1点は大きく、1-1のまま試合を折り返した。
第2ピリオド、先に得点を奪いたい日本は27分、清水が右サイドで倒されてフリーキックを獲得する。少し距離があったものの、アルトゥールが直接たたき込んだ。壁の右側を通し、カーブをかけたボールが右ポストをこすりながらゴールに吸い込まれた、圧巻のフィニッシュ。アルトゥールが試合後に「壁は1人だけだったから、サッカーみたいにカーブをかけて外側から巻いた」と明かしたように、このキックは彼の真骨頂であり、狙い通りの一撃だった。
フットサルボールでこんなにカーブがかかるものなのか……。長くトップカテゴリーで戦ってきた筆者でさえ驚きを隠せないほどのスーペルゴラッソ。頼れるキャプテンが、決勝の大舞台でもチームを救うゴールを決めてみせた。アルトゥールはこの得点だけではなく、守備でもイランの屈強なピヴォを抑え続けるなど、そのパフォーマンスは本当に素晴らしいものだった。
ただしもう一度言わせてもらうが、全員で勝ち取った優勝だ。出場時間の長短こそあったものの、この試合は全選手が出場し、全員が勝利に貢献した。
大会を通して、ピレス・イゴールと黒本ギレルメが2人で守ったゴールマウス。中心選手として重責を担ってきた吉川智貴が、第2ピリオドから出場できなかった状況でも、それぞれの選手が与えられた役割をこなし、全員で最後まで戦い抜いた。優勝に値するチームワークであり、日本の強さを示した。
出番の少ない内村俊太が大車輪の活躍
(C)AFC
もう一つ、触れておきたいことがある。
決勝でフィクソとして出場した内村俊太のことだ。最後尾で、フィジカル&技術&パワーに優れるイランのピヴォに一歩も引くことなく、体を張った守備で対応し続けた。アルトゥールと共に、守備の貢献度の高さは際立っていた。
今大会の内村は、決勝までの5試合で出場なし、あるいはわずかな出場時間しか与えられない状況が続いていた。選手である以上、試合に出たいという気持ちは強いはずだ。しかし、自身の悔しい気持ちを表に出すことなく、ベテランとして振る舞い、試合に出ている選手たちに声をかけ続けた。
木暮賢一郎監督は決勝以前の会見で、「俊太やクレパウジ・ヴィニシウスら経験のある選手たちは、ベンチにいる時も若い選手たちに声をかけてくれています。全員がピッチの中だけではなく、支え合ってくれている」と語っていたように、出番が少ない内村のピッチ外の貢献は大きかった。
筆者も経験があるが、大会期間中に試合に出られない時のメンタルコントロールは難しい。と同時に、体のコンディションを維持することもそうだ。中1日で試合をこなしていくため、試合の合間の練習はリカバリーや次の対戦相手の対策に時間を割くため、強度の高いトレーニングができないからだ。
ある程度の出場時間を確保できている選手は十分だが、出場が少ない選手は心拍数を上げたり、強度の高い環境下で体を動かしたりする必要がある。
そうした状況のなかでも気持ちを切らさず、決勝で長い時間をピッチで過ごし、あれほどのパフォーマンスを出せたことは賞賛に値する。優勝を決めた後、内村は「正直、それまで試合に絡めなかったのは悔しかったし、決勝で全部出したろうと思っていた」と心境を明かした。実際、第2ピリオドに出場がなかった吉川に代わってパワープレーの守備でも貢献するなど、2014年大会の優勝を知る数少ない選手として、大舞台で大車輪の活躍を見せていた。
優勝目撃者はぜひ、Fリーグの試合会場へ
(C)AFC
本当にいろんなことがあった。初戦のサウジアラビア戦の敗北からスタートし、第2戦の韓国戦に完勝して自信を取り戻した。第3戦のベトナム戦は、勝利以外にノックアウトステージ進出の道がなく、なおかつ2点差以上でグループ1位を決められる状況で、清水が決めた2点を守りきって2-0で勝った。
準々決勝のインドネシア戦、準決勝のウズベキスタン戦、決勝のイラン戦と、ノックアウトステージは全試合で先制を許したなかで、逆転勝利を収めた。楽な試合は1試合もなく、苦しみ抜いて勝ち取った優勝だった。
木暮監督はウズベキスタン戦後に「定説として、大きな大会を制覇するチームというのは、PK戦で勝つとか、逆転勝利をするとか、そういう苦しい経験をしながら勝ち上がっていく」と語っていたが、まさにその通りだ。
3回目の優勝を決めた2014年大会もそうだったように、今大会もギリギリの試合でわずかに相手を上回り、勝利につなげていった。逆に言えば、イランに足りなかったのは「苦しむ経験」だけだったような気がしている。
イランは強かった。これは間違いない。それゆえの、わずかなほころびだったかもしれない。グループステージから圧倒的な強さを見せ、全試合を大差で勝利してきたため、大会を通して“苦しむ”状況に直面していなかった。
イランとしては、先制したもののすぐに追いつかれ、第2ピリオドに先にゴールを奪われ、今大会で初めてリードされる展開になったのだ。
残り時間が少なくなるにつれて、らしくないパスミスが増えるなど、明らかに焦っていた。これは、何本もシュートを放ち、決定機を迎えたなかで、日本の守護神・黒本ギレルメにことごとくセーブされた影響もあっただろう。
その焦りが、最後のオウンゴールにつながった。パワープレーからのバックパスで連携が合わず、自ゴールに流し込んでしまうという失態。日本の勝因を挙げるとすれば、「イランを焦らせる状況を作れたこと」が大きかった。
最高の結果で大会を終えた日本。監督が代わり、世代交代を図り、アジアで戦う経験が少ないメンバーで臨んだ今大会で優勝できたことは本当に、本当に大きな価値がある。外から見ていても伝わるくらい「一体感」があり、最高のチームワークを見せた日本は、紛れもなく優勝に値するチームだった。
そんな彼らのほとんどが、日本のトップリーグである「Fリーグ」でプレーしている。今回、DAZNの中継を通して初めてフットサルを見た方も多かっただろう。アジアカップを見て、フットサルという競技を見て、「感動した!」「おもしろい!」と思ってくれた人はぜひ、10月21日から再開するFリーグの会場に足を運んで、“本物のフットサル”を生で観てもらいたい。
最後に一言、フットサルは最高のスポーツだ。
文=渡邉 知晃(わたなべ・ともあき)
1986年4月29日生まれ。福島県出身。小学2年生からサッカーを始め、順天堂大2年時にフットサルに転向。BOTSWANA FC MEGURO、ステラミーゴいわて花巻、名古屋オーシャンズ、立川・府中アスレティックFC、大連元朝足蹴倶楽部(中国)でプレー。日本代表として国際Aマッチ59試合出場・20得点、Fリーグ2017-2018シーズン得点王(45得点)、通算323試合出場・201得点など数々の実績を残し、2020-2021シーズン限りで現役を引退。子供への指導のかたわら、フットボールライターとして執筆業にも挑戦中。
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